第19話 第三章 古代超兵器(アヴァター)の目覚め  ~僕(しもべ)を探すのも、なかなかどうして楽じゃないという話~ その5 白焔

 謎の白い彫像が、動き始めた!

 まるで、俺たちが来るのを待っていたみたいなタイミングだ。

 周囲にある様々な機械を破壊こわしながら、彫像がまっすぐ俺の方に近づいてきた!

 驚いてしまって、俺は彫像の動きを見ていることしかできなかった。

「橘クン!」

 マツリ先輩の声に、ハッと我にかえる。

 その時には、動き出した彫像は、もう目の前まで来ている!

 

 ガツン!

 近づいてきた彫像が部屋を仕切るガラスにぶつかり、鈍い音を立てた。

 そうだ!

 隣の部屋と俺たちがいる部屋の間には、ぶ厚い頑丈なガラスがある!

 さすがの彫像も、ガラスに阻まれて動きが止まった。

「先輩、マリちゃん! とにかく、今のうちに、此処から離れましょう!」

「あッ!」

 マツリ先輩とマリちゃんの手を取って、出口に向かうために後ろを向いた、その時だった。

 ギシッ! 

 ガラスの向こう側から、何かがきしむ音が聞こえた。

 思わず振り返った俺は、とんでもないモノを見ることになった!


 彫像が、少し下がって、右手をゆっくりと上に持ち上げ始めた。

 最初は、大きなきしむ音を立てながらゆっくりと。そして、だんだんスムーズに。

 彫像の右手が、大きく掲げられる。

 そして、その右手から淡い光があふれだした!

 手から伸びた光が、長い槍のような形になる。

 彫像の顔が、俺をまっすぐに見下ろしている!

 まさか、あの光の槍で!?

 ヤバい!

 俺の直感が、全力で危険ピンチだと叫んでいる!

 なんだか分からないけど、は途轍もなく、ヤバいものだ!

 光の槍を、ガラスの壁に振り下ろす! 

 音もなく、光の槍は分厚いガラスに吸い込まれていった。

 まるで熱したナイフでバターに切り込んだみたいに、何の抵抗もなく光がガラスに吸い込まれた。

 次の瞬間には、何をしても傷つかないと思われたガラスの表面に、斜めの線が入る!

「なッ!」

 驚いた俺は、逃げ出すタイミングをなくしてしまった。

 彫像が、続けて光の槍をふるう!

 横。

 再び、ななめ。

 大きな三角形に切り裂かれたガラスが、ゆっくりとズレていく!

 そして、ごとりと鈍い重い音をたてて、切り出されたガラスが地面に落ちる。

 切り口は、磨かれたみたいにツルツルだった。

 なんて、なんて攻撃だ!

 こんなのをくらったら、俺なんて何もできずに真っ二つだ!


 ガシャン、ガシャン!

 重い音をたてながら、三角形に切り裂かれたガラスの穴から、彫像がこちら側の部屋に入ってきた。

 一歩ずつ、確実に俺たちの方に近づいてくる。

 ダメだ!

 もう、逃げられない!

「マツリ先輩! マリちゃん! 俺の後ろに!」

 彫像の前に、立ちふさがって両手を大きく広げる。

「俺が止めている間に、逃げて! 早く!」

 俺に、何ができるワケでもない。

 でも、この二人だけは!

 二人だけは、何としてでも守護まもらないと! 

 そんな俺の目の前で、彫像が、再び右手をゆっくりと持ち上げ始める。

 ガラスの壁を切り裂いた、あの攻撃が来る!

 もう、何をしても間に合わない!

 そして、その時だった。

 思いがけないことが起きた。

 彫像が、振り上げた手をゆっくりと下におろし始めた。

 右手を胸に当てる。

 ガシャンと金属的な音を立てて、彫像が足を折って俺の前にひざまずいた。

 そして、頭を垂れる。

 うやうやしい、と言ってよい動作だ。

 まるで、中世の騎士が、主人である王様に忠誠を誓うみたいだった。

「我が主よ」

 聞こえた言葉は、明らかに日本語。

 何だ?

 何が起こったんだ?

 呆気にとられた俺。

 救いを求めるように、同行の二人を見る。

「なるほど。わたくしたちに害意はなさそうでしたけど、そういう事でしたのね」

 マツリ先輩は、全て分かったというように、肩をすくめる。

「そうみたい、ですね」

 マリちゃんが、ため息をつく。

 彫像が、再び話しかけてきた。

「我は、主の敵を滅ぼす剣にして、主を守護まもる盾」

 彫像が、言葉を続ける。

「我が名は、『白焔はくえん』」

 ポカンとして、俺は立ち尽くす俺。

 やかましく警報が鳴り響き、赤いランプが点滅する研究室の中。

 俺の周りだけ、時間が止まっているように感じられた。


 正直、それから後の方が、大変だった。

 あの彫像は何なのか、俺たち三人がどうやって研究棟に入ったのか、別室で施設の研究者たちから口々に質問があびせられた。

 地下室に忍び込んだ俺たちを責めているっていうより、好奇心が抑えられないって感じだった。

 この場面にマツリ先輩がいてくれて、本当に良かった。

 嘘はつかず、言質を取られず、相手の質問を適当にはぐらかしつつ、気が付けば相手から情報を引き出し俺たちの味方にしてしまう。

 そうしながら、こちらに有利で相手にも悪くない、お互いに納得できる条件を形にしていく。

 圧倒的な交渉術で、いつの間にか話をまとめてしまっていた。

 幸いケガ人が出なかったことも、有難かった。

 企業側の弁護士先生うるさい人たちが研究所に乗り込んできた時には、研究所の職員たちは俺たちをかばってくれるようになっていた。


 研究者たちの眼に、俺がどう映っていたのか?

 ……ひょっとしたら、「貴重な研究素材モルモット」にでも見えていたのかもしれない。

 この際は、気にしないでおこう。

 結局、今後の研究に協力することを条件に、今回の俺たちの責任は不問になった。

 どうやら、巴テクノニクスむこう側にもいろいろと表ざたになると困る事情があるらしい。

 そして、高価な研究機材が壊れたり研究所が大騒ぎになったり、研究所側にかなりの被害が出てしまった。

 俺がいくら頑張ってバイトしても、払える金額じゃない!

 そのつもりが無かったとはいえ、今回の騒動が表ざたになると、大変だ!

 下手をすれば、高校も退学処分になりかねない。

 それは困る! 非常に困る! ものすごく、困る!

 企業あっちは、この世に二つとない研究対象――俺と『白焔』を手に入れた。

 俺たちこっちは、今回の騒ぎの責任を問われず、しかも今後は自由に研究所に出入りして『白焔』と接触できるようになった。

 前向きに考えれば、お互いに得をした。

 WIN-WINってヤツだ。

 ……とりあえずは、そう思うことにしておこう。


 研究所の正門を出た時には、もう暗くなっていた。

 今晩は、月がきれいだ。

 今日は、本当に、いろいろあった。

 すごく疲れているけど、なんだか興奮ハイにもなっていて、頭がスッキリしている。

 ついに、ついに、俺は「自分の力」を見つけた!

 しかも、高校で、いや、この鷹野たかので、いやいやこの国でも一番ぐらいの美少女・マツリ先輩と一緒に、だ!

 まだ、あの『白焔はくえん』がどんな力なのは分からない。

 でも、アレはすごいものだ!

 絶対に、絶対にすごいものだ!

 『白焔』さえあれば、ミサを困らせている妖魔ヤツも、きっと何とかなる!

 俺は、やっと一歩踏み出せるんだ!

 そうしたら、きっとミサキも認めてくれる!

 そう思うと、ワクワクしてきて、疲れなんてふっとぶ!

 よしッ!

 やるぞ!


 そう思っていた時、ふっと風を感じた。

 気が付くと、俺たちの前にミサキが立っていた。

 そして、俺はミサキの口から全く思いもしなかった言葉を聞かされることになる。

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