第18話 第三章 超古代兵器(アヴァター)の目覚め  ~僕(しもべ)を探すのも、なかなかどうして楽じゃないという話~ その4 邂逅、そして覚醒

 地下に続くエレベーター。

 乗り込んだ俺たちの後ろで、扉が閉まった。

「カードキーを、かざしてください」

 抑揚のない無機質な人工の音声に促されて、エレベーターの検知器にセキュリティーカードをかざす。

「暗号を入力してください」

 マツリ先輩が、迷いのない動作でキーをたたく。

 どうやって暗号を手に入れたんだろう? 感心すると同時に、少し先輩が怖くも感じられる。 

 ここから先は、明らかにセキュリティーのレベルが高い。

 もしも暗号なんかを間違えたら……、大勢の警備員が駆け付けてきそうだ。

「入力を確認しました。行き先の階を入力してください」

 どうやら、問題なかったみたいだ!

 ハーッと、大きく息を吐く。

「では、参りますわよ」

 先輩が、地下3階のボタンを押した。

「探し物は、地下3階にある」

 なんとも怪しい青年からの情報だ。

 でも、今は、行くしかない!

 体が浮くような、お腹がヒヤッとする感覚。地下3階って言っていたけど、実はかなり深い場所なんじゃないか?

 マツリ先輩はともかく、マリちゃんも、特に緊張している様子はない。

 この二人、肝が据わっているというか、場慣れしているというか、何というか……。

 緊張しているのは、俺だけみたいだ。

 二人に悟られないように、手ににじんできた汗を着ている白衣にすりつける。

 チーーン。

 聞きなれた音がして、扉が開いた。

 俺たちが降りると、背後でエレベーターの扉が閉まる。

 これは、もしも何かあった時には、無事に地上に帰れないかもしれない。そんな気持ちがわいてくる。

 通路は、一本。

 LEDの光が、通路を明るく照らしている。

「この奥のようですわね」

「そうですね。お姉さま、行きましょう!」

 よく知った場所のように、当たり前のように奥へと歩き出すマツリ先輩とマリちゃん。

 遅れないように、少し慌てて後に続く。


 地下三階の奥。

 目的の場所は、すぐに分かった。

 その研究室は、バタバタと人の出入りが激しくて、怒鳴り声まで飛び交っている。

 まるで戦場みたいな雰囲気だ。

「さっきの反応、解析はまだか!」

「電流のパターンは、今までのものと酷似しています!」

「放射線などの検出は?」

「今のところありません!」

「磁場の方は?」

「いったんは収まりましたが、また強くなってきています!」

「ほかに、反応のあった計器はないか?」

 様々な言葉が飛び交う殺気だった中で、誰もがパソコンの画面や印刷されてきた紙なんかに気をとられている。

 そっと部屋に入った俺たちに気付いた人は、いないみたいだ。

「先輩、この部屋は何でしょう?」

「研究等の奥、それも隔離された地下の部屋。かなり重要な研究をしているようですわね。それに、この様子。先ほど、この研究棟に白衣の方が何人も走りこんでいくのが見えましたが、問題が起こったのはこの部屋でまず間違いがありませんわ」

「お姉さま、もう少し奥を見てみましょう」

 目立たないように気を付けながら、部屋の奥に進む。

 かなり広い部屋で、いろんな機械がやかましい警告音を立てて動いていた。

「この奥の部屋、あのガラスの向こうにあるのは何かしら?」

「橘先輩! お願いですから、何も余計なことをしないでくださいね!」

 抜き足、差し足、忍び足。

 まるで、スパイか泥棒にでもなったみたいだ。

 ……、俺たちも忍び込んでいるワケで、あまり違いなんて無いかもしれない。

 奥の分厚いガラスで仕切られた部屋に近づく。

 見るからに分厚そうで、「頑丈」って言葉が固まってできているようなガラスだ。

 その奥に、何かある!

 ガラスに顔を近づけて、目を凝らす。

 視線の先にあったものは、――――、一つの彫像だった。


 ギリシア神話の半人半馬ケンタウロスのような彫像だ。

 不思議な光沢の、白い体。

 4本の足を持つ馬のような下半身に、ヒトのような頭と両手のある上半身。

 大きさも、ちょうどTVなんかで見るサラブレットぐらいだろうか? ――実物を目の前で見たことはないけど。

 西洋風の鎧みたいなものを身に着けている。

 実際ガチの西洋の鎧と言うより、ファンタジー小説やゲームで主人公が来ていそうな感じだ。

 そして、目立つのは、胸の中央につけられた大きくて真っ赤な宝石。

 白色と銀色が基本のなかで、赤い色が目立つワンポイントになっている。

 その機体の周りに据え付けられた様々な機械が絶えず光や音を出していていなければ、博物館に古い美術品を置いているようにしか見えない。

 これは一体、何なんだ?


「――素晴らしい!」

 その声に驚いて、左側を向く。

 ガラスの向こう側にばっかりに気をとられてしまって、隣に他人が立っているのに気が付かなかった。

 眼鏡をかけた、白髪交じりの研究者だ。

 ビシッとした口ひげが印象的な人で、見るからに地位ポジションが高そうだ。

 そんな彼が、食い入るようにガラスの向こうをのぞき込んでいる。

 かぶりつきって言うか、今すぐにでも分厚いガラスを突き破って向こう側に走り出しそうなぐらいだ。

「少なくとも1万年を超える時間が経っていても、まだ動力が生きている! この原理を解明できれば、きっと現代の技術が大きく変わるぞ!」

 隣に来た俺たちにも、まるで気が付いていないみたいだった。完全に、自分の世界に入ってしまっている。

「先輩、これは何ですか?」

 俺の右隣に来たマツリ先輩に、小声で話しかける。

「いえ、わたくしにも、全く見当がつきませんわ。それにしても、これだけの設備。とてもただの置物とは思えませんわね。お隣の方は、1万年を超えるっておっしゃってましたけど、とてもそこまで古いものには見えませんわ」

 マリちゃんが、俺と先輩の間に割り込んでくる。

「本当に、何でしょうね? まさか、あれが動くなんてことはないでしょうけど……」

「まさか、ね……」

 ガラスの向こうの彫像を、改めて見る。

 ほんと、今にも動き出しそうだ。

 俺の中の中二病男の子に訴えかけてくるような、一言で言うとかなりカッコいいイケてる感じだ。

 そうとも、ロボットと巨大生物が嫌いなヤツなんて、いるもんか!

 兜のような形の頭部を見た時、彫像の顔の目と視線が合った、……ような気がした。

 そう、その時だ!

 それ・・は起こった!

 起こってしまった!

 この日のことを、俺はずっと忘れられないだろう。


 閉ざされた分厚いガラスの、向こう側。

 キラっと彫像の眼が光った、ように見えた。

 気のせいか、と思う暇もなく、は起こった!

 胸の赤い宝石が、急に光を放つ!

 しかも、光はだんだんと強くなり、もう眩しくて見ていられないぐらいだ!

 そして、彫像の顔が動き出したじゃないか!

 ゆっくりと、でも確実。

 顔が動き、視線が向いてくる先は、——俺だ!

 今度こそ確実に、真正面から彫像と目があった。

 それから、像の下半身、四本の足が動き始める!

 ギシギシときしむ音を立てて、油をさしていない錆びた歯車みたいにぎこちなく、四本の足が歩き始める。

 彫像の動きで、取り付けられていたいろいろな管が引っ張られ、計器が引き倒されたり端末が外れたり、ガラスの向こうの部屋はひどい状態だ!

 倒れた機械のモニターが割れ、引きちぎられたチューブからはバチバチと火花が散り、彫像に踏まれた計器がぐしゃりと潰れる!


 ビ——――!

 赤いランプが点灯し、耳ざわりなアラームが鳴り響く!

「緊急事態発生! 緊急事態発生! 研究棟内の皆様は、速やかに避難してください!」

 合成音声のアナウンスが、繰り返される。

 研究室は、もうパニックと言っていい状態だ!

 並べられた機械をなぎ倒しながら、ゆっくりとした動作で、彫像がこちらに近づいてくる。

 まっすぐに、俺の方に向かってくる!

 その動きが、徐々にスムーズになってきた。

「マツリ先輩、逃げましょう! ほら、マリちゃんも急いで!」

 もう、バレないように声の大きさに気を付ける、なんて言っている場合じゃない!

 

 そうしている間にも、彫像はどんどんと近づいてくる!

 もう、目の前だ!

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