第16話第三章 超古代兵器(アヴァター)の目覚め  ~僕(しもべ)を探すのも、なかなかどうして楽じゃないという話~ その2 潜入

 幼馴染のミサが、妖魔あやかしがらみの事件に巻き込まれている!

 何も出来なくて落ち込んでいた俺を助けてくれたのは、才色兼備で有名な磐座いわくら茉莉マツリ先輩だった。

 マツリ先輩の協力で、秘められた俺の力に関係のあるモノの在処ありかが明らかになった。

 その場所は、九曜くようテクノニクスの研究所!

 そこに、いったい何が待っているというんだろう? 


 その週の土曜日。

 待ちに待った機会は、思っていたよりもずっと早く来た。

 九曜くようグループ。

 俺でも知っている、日本有数の規模を誇る大企業だ。

 九つの大会社がグループの中心になっていて、九曜くようテクノニクスはその中のひとつだ。

 そんな企業の研究所の正門に、俺とマツリ先輩はいる。

 それと、やっぱり付いてきたマリちゃん。

 表向きの理由は、地元の企業の見学と一般に開放されている研究所の附属図書館での資料調べ。

 さすがに、「神人しんじんである俺の力に関係したものがありそうだから、研究所の中を調べさせてくれ!」なんて言えるハズはない。

 計画として、まず図書館に行った後、俺とマツリ先輩は企業に見学に行って、中を調べる。

 そのための準備は、学校の先生からの紹介状を含めて、マツリ先輩がすでに手配済だ。こういう時に、「学校のクラブ活動で地域の歴史などを調べている」というのは実に都合が良いもんだ。


 それと、ミサの状況に関しても、分かったことがある。

 この情報も、マツリ先輩とマリちゃんが調べてくれた。

 みさのお父さんが保証人をしていた知人の会社が火事にあったか何かで、大変らしい。

 マツリ先輩の見立てでは、これも妖魔あやかしがらみの事件の可能性が高いのだそうだ。

 なんでも、妖魔あやかしの中には、不幸や幸運を呼び込む特殊な力を持ったものがいるらしい。「幸運」とはいっても一時的なもので、たいてい最後はロクなことにはならないみたいだけど……。

 まずは、ミサの周りで起こっていることの原因になっている妖魔あやかしの正体を暴く。そいつを何とかできれば、ミサの状況も好転するかもしれない。

 俺も手伝わなければと思うけれど、正直、今の俺では役に立てることは何もない。あせる気持ちを押し殺しながら、今はともかく自分の能力のことを調べるしかない。

 もしも何か役に立つ力を見つけることが出来たら、俺も力になれるかもしれない!

 ミサキが全面的に協力してくれたなら、きっといろいろなことが大きく前進するのだろうと思う。

 でも、彼女は俺が事件に関わることを認めてくれない。

 それでも何か言ったら……前みたいに、いや前以上に叩きのめされるかもしれない。そう思うと、なかなか俺から頼むこともできない。

 会社の正面玄関の受付で、学生証を出して登録。

 大きく社章が印刷されたカードを受け取って、ゲートにかざす。

 ピッと音がして、ゲートが開く。

「参りますわよ。準備はよろしくって?」

「はい!」

 こうして、就職なんか一生縁がなさそうな超有名企業の研究所に足を踏み入れた。


 研究所の敷地の中はかなり広く、きっちりと整備された建物が続く。

 今のセキュリティーカードで入れる場所は、多くない。見学者の身分では、さすがに社内の何処でも自由に動ける、ってワケにはいかない。

 まずは外部向けの資料館に行って、担当のお姉さんに説明を受ける。

 きちんとしたメイク、服装もピシッとしていて、スキが無い。さすがは、世界的な大企業の社員さんだ。

 その後で、広い中庭のベンチに座って、社内の地図を見ながら今後の行動の作戦会議になった。

「いかがですかしら? 体調の変化などはありまして?」

「そうですね。ここにいる、と言うか、あると思います。なんと言うか、何かが体とつながっているような感じがしています」

「そんないい加減なことで、お姉さまや私の手を煩わせないでください!」

「マリちゃん。探し物をしている時には、直感や体の感覚は意外と大切ですわよ」

 そう言われて、マリちゃんはしゅんとする。

わたくしの探知の術と、橘クンの感覚。ここに何かあるのは、まず間違いなさそうですわね。さて、これからどうやって調べたものかしら? としては、セキュリティーの強いところに忍び込んで騒動を起こすこともはばかられますし……」

 「善良な学生」って部分に少し引っかからないでもないけど、確かに余計な騒ぎを起こすのはいろいろとマズい。

 さてどうしたものか、と考える。

「幸い、今のところ幼馴染さんの方は特に動きがなさそうですわ。……あら、あれは何かしら?」

 白衣を着た明らかに研究者という感じの職員が、なんだか大慌てで走っている!

 周りを見ると、一人だけじゃない。

 何人もの白衣を着た人が、PHS片手に大急ぎで一つの建物に向かって走っている。

 彼らが走っていく先の建物は、何だ?

 手持ちのパンフレットの敷地図で見ると、中央研究棟って書かれていた。

 あの慌てぶりから察するに、建物の中で何か、重大なことが起きたみたいだ。

「先輩、どうしたんでしょう? 何か、事故でも起こったとか?」

「……、そうですわね。でも、避難指示のアラームなどもありませんわ。何か、内々で済ませたい出来事でもあったのかしら?」

 いったい、何が起こっているんだろう?


「マリちゃん、お願い!」

 先輩が、小声で話す。

「はい、お姉さま!」

 マリちゃんが、制服のポケットから素早く何かを取り出した。

 何か小さなものが、俺の傍を通り過ぎて行った気配があった。

「?」

 キョロキョロと左右を見る俺をみて、マリちゃんがクスリと笑う。

 ……正直、マリちゃんの笑顔はかなり可愛い。

 さすがは、マツリ先輩の妹。血は争えない。お姉さま至上主義シスコンとチクチクした物言いが無ければ、ねェ。

「今のは、そうね、『式神しきがみ』、と言えばお分かり頂けますかしら? これも、他の皆様には秘密ですわよ?」

 マツリ先輩が形の良い指を唇に憑けて、「しー」っというポーズをする。

 式神ってのは、使い魔みたいなものだ。マンガなんかでも、ちょくちょく出てくる。

 マリちゃんも呪術を使えるという事実に、少なからず驚いてしまう。いざという時には頼りになるって話は先輩から聞かされていた。でも、実際に見せられるのと、やっぱり違う。

 それに、今の先輩との息の合った行動を見ていると、かなり慣れているみたいだ。

 人は見かけによらない、のかもしれない。


 少し経って、また俺の傍を何かが走り抜けていくような感覚があった。

「式神が、帰ってきましたわね」

 先輩の言葉に改めて周りを見ると、マリちゃんのスカートの陰に、ぬいぐるみみたいなものがしがみついているのが見えた。

 俺と目が合うと、そのぬいぐるみはすっと消えてしまった。

「今の子が、わたくしの式神で、『前鬼ぜんき』ちゃん。伝説の陰陽師おんみょうじ役行者えんのぎょうじゃも使っていた、とっておきの子です。わざわざ使ってあげてるんですよ! せいぜい感謝してくださいね!」

「マリちゃん、呪符の仕掛けは、大丈夫?」

「はい! 問題ないです!」

 マリちゃんが、胸を張る。

 マツリ先輩は制服のポケットから色紙を取り出して、素早く何かを折り始めた。

 折り終わると、それをはさむ形で両手を合わせる。

 いきなり、その手の中から声が聞こえてきたのには、少なからず驚いた。


「――――、主任、また『』から反応があったのですか?」

「あぁ、30分ほど前から、続いている! 今までで、一番強い反応だ! しかも、どんどん強くなってきている! 今回は体の動きまであったらしい。俺も、急いで出先から戻って、今駆け付けたところだ」

「いよいよ、これは、あれですか! 本格的な解明が近くなっているのかもしれませんね! あの方には、連絡は?」

「さっきしたよ。ちょうどこの敷地の中にいるので、急いで研究棟に向かうって話だ。あと、他の計測器も、手当たり次第に持ってきてくれ! 出来るかぎりデータをとるぞ!」

「ハイ!」

 緊迫した声が聞こえる。そのすぐ後で「バシッ」という音がして、それから声は聞こえなくなった。

「……、あれ? 先輩、急に聞こえなくなりましたけど?」

「さすがは天下の九曜くようグループの研究所。そう簡単に情報を聞かせてはくださいませんわね」

 マツリ先輩が合わせていた手を開くと、手に挟んでいた折り紙が破れていた。

 もう、紙から声は聞こえてこない。

「先輩、これって?」

「呪術に対するガードも、かなりのものですわ。これだけの呪術! いったい、何処のどなたが準備なされたのかしら?」   

 どうやら、先輩の呪術が見破られ、破られたらしい。

「でも、これでハッキリしましたわね。これだけの防御が施された研究所。中に何か重要なものがあるのは、間違いありませんわ!」


 思わぬ形で、目的地が明らかになった!

 さあ、建物の中に入って、「俺の力」の正体を突き止めてやる!

 よっしゃあ! 燃えてきたぜ!

「行きましょう!」

 勇んで研究等の中に入ろうとする俺を、マリちゃんが慌てて止めた。

「先輩、待ってください! どうやって中に入るつもりですか?」

「えッ? どうやって、って言っても、このカードキーで……」

 おれは、研究所の正面ゲートで渡されたカードキーをマリちゃんに見せた。

「考えてもみてください! お姉さまの呪術でも見抜かれたんですよ! あの建物、かなりのセキュリティーです。一般見学者用のカードキーで入れるはずはないでしょう!」

 言われてみれば、そのとおりだ。

「入り口でガチャガチャやって、警備員さんに怪しまれでもしたら、全部おしまいですよ! あぁ、もう! 少しは考えてください!」

 声は抑えているけど、内容は容赦ない。

 うぅ、何も言い返せない。

 助けを求めるように、マツリ先輩の方を見る。

「『』のお力をお借りしましょう」

 少し間を空けて、マツリ先輩が口を開いた。

「なんですって! 『あの方』って、お姉さま、まさか!」

「仕方ありませんわ。時間がありませんもの」

 俺を置いて、磐座姉妹の間で会話が進んでいく。


 『あの方・・・』って、誰のことだ?

 それに、改めてみれば見るほど、忍び込むすきのない研究棟。

 俺たちは、無事に研究棟に入れるのか?

 そして、——中には、何が待っているんだ?

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