初めて書くということ

 一番右端みぎはじに〝幼き日の尻尾〟と打ち込み、Enterを2回押して、本文を書く所へとカーソルを移動する。


 確か授業で聞いたような?と、朧気おぼろげな記憶をたどり、段落の使い方を思い出す。


「段落下げくらいしか、わからんわ~」


 カタカタとキーボードをうち、小学生の女の子が不思議な海へと迷い込み、出会った人魚に憧れるようになる、というストーリーらしきものを書き出す。


 しかし書きたいことがまとまらず、頭の中も書き出した文章も、全てがメチャクチャだ。


「えっと、え? なに書いてんの私?」


 小一時間こいちじかんかけて書いた、何が何だか分からないつたない文章を読み返すと、途端とたんに恥ずかしくなる。


 タイトル以外をドラッグしてDeleteボタンを押そうとしたが、なんとなく勿体もったいないと思う。一応は取っておくかと、デスクトップへと保存した。


 はぁ~~~と深い溜息をついてしまう。


「もうさ、めっちゃムズくね?」


 ブツブツと文句を言いながら、インターネットにアクセスして、検索ボックスに“小説の書き方”と打ち込んで、Enterを押す。


 プロが教える表現方法、出版の仕方、文章構成の組み立て方の検索結果が並ぶ中、初心者向けの入門編のページをクリックした。


「あー、いきなり書き出しちゃダメなのね…ネタ出しってやつね、はいはい、なるほどなるほど、把握」


 様々な初心者向けのページを見漁り、把握などしてもいない癖に、更に独り言は続いていく。


「プ、プロット? 聞いたことあるような無いような…」


「一人称? 三人称? なにそれ?」


「キャラクターね、うん、それは書いとかなきゃね、うん、それは素人でもわかるわ、うん」


「え、小説サイトとかあんの? いや無理、読んでもらう覚悟とか、まだ無いって」


「き、起承転結は、授業で聞いたことある…と思う…」


「はぁー…覚悟は必要だとは思ってるけど、長い道のりだな、こりゃ」


 とりあえずと、初心者向けに優しく順番をアドバイスしているページを、見る端からブックマークしていく。


 最後に開いたページのそれを読みながら、Wordの新規ブックを立ち上げた。


 横書きのまま、最初の行に“書きたいこと”と打ち込んでEnterを勢いよく押し、思いついた順に、頭の中の情景を箇条書きにしていく。


 時間も忘れて20個ほど書き出したところで、上を向いて深呼吸をする。


「こ、こんなもんで良いの? うわぁぁぁ、有識者ぁ!アドバイスプリーズ!」


 混乱しすぎて、よく分からない独り言を叫んでしまう。


「でも、とりあえず、書いてみないとだよね…」


 改めて椅子に座り直し、書き出した箇条書きに集中し、自然な流れになるように順番を並べ替える。


 だが、どうやっても上手くいかず、眉間みけんしわを寄せながら頬杖ほおづえをついてマウスを動かし続ける。


「なんなん? え? なんなん? 順番ってこんなに難しいの? んもう!」


 やりたくなったくせに、誰へともつかない文句を垂れ流す。


 そうしている内に、リビングから大声で「ごはん出来たよーーー!」と声が掛けられた。


 ビクッと肩を震わせ、大声で返事をしながら時計を見ると、既に3時間が経過していた。こんなに集中してたのかと驚いてしまう。


「あー、なんだかんだ楽しいかも…また後で続きやろっかな」


 保存ボタンを押し、ノートPCを開きっぱなしにしたまま、背伸びをしながらリビングへと降りていった。

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