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 ミリア様は現在八歳。流石にロンやイギーより小さいが、いつもフリフリのドレスを着て、そのぷっくりとした頬を膨らませている。目鼻はゴマ粒とパン切れのように小さく、一見ぬいぐるみと思ってしまってもおかしくない。だがマリアンヌに云わせるとそれが「かわいい」というのだ。


「ミリア様、マリアンヌです」

「何してたのよ。さっさと入って」

「はい、ミリア様」


 屋敷の三階、その一室のドアを開けると花柄の刺繍がされた絨毯がまず目に入る。壁も天使や花畑、空に虹によく分からない生き物が、街の天才画家ピサロ氏によって描かれていて、何とも目に痛い。この部屋の主はピンクのレースをあしらった天蓋付きのベッドの上にちょこんと腰掛け、こちらを睨みつけていた。


「あんたら、誰?」

「ああ、ミリア様。こちらは使用人のイギーとロンです。ミリア様の大事なアルデバランを探してくれるそうですよ」


 アルデバランとは何とも逞しい名前だが、イギーの記憶が確かならぽっちゃりとお腹の出た熊のぬいぐるみのはずだ。


「アルはどこなの! わたし、アルがいないと眠れないの! アルはわたしの愛しい人なのよ! そこの、さっさと探し出してきて! ついでに犯人は串刺しにして火炙りにして、それから……」

「ミリア様、またお体が悪くなりますよ」


 少し咳き込んだ少女の背を、マリアンヌは優しく擦りながら言い聞かせる。気が強く振る舞ってはいるが、病弱で、噂ではそう長く生きられないそうだ。


「それでミリア様、少しお部屋を調べさせていただいても宜しいでしょうか?」

「何のために?」

「アルデバランの捜索です」

「そうね。マリがちゃんと一緒に見ててくれる?」

「はい。わたしがしっかりと見張っておきますから」

「分かった。じゃあ、その間、お庭でも見てくる」

「あ、お外は寒いですから、こちらを」


 ベッドから下りたミリアに、マリアンヌはすかさず赤いニットのカーディガンを羽織らせる。


「終わったら、すぐ呼ぶのよ? いい?」

「はい。分かっております」


 部屋を出るまでに何度も確認をしていると、結局彼女はマリアンヌを伴って部屋を出てしまった。残されたイギーとロンは互いに苦笑だけ見せ合い、それから「さてと」部屋の調査を開始する。


「で、ぬいぐるみはそこのクローゼットに仕舞ってあったんだよな」

「寝る時は一緒らしいが、失くなった日に限って、目玉のボタンが取れていて、修繕しないといけないということでクローゼットに置いてたらしい」


 天蓋付きベッドには絶対に触らないで、と云われていた。だが隣に立つと何ともいい香りがする。ロンはつい、シーツの上を手で撫でていた。


「おい。バレたら殺されるぞ」

「大丈夫だろ、これくらい。それより、このベッドの下とか本当に探したんだろうな?」


 ロンは疑いの目で姿勢を低くし、覗き込む。しばらく覗き込んでいたが、何もなかったらしく、立ち上がると枕側の壁に作り付けられたクローゼットの扉を開けた。中にはミリアが着る服がずらりと並び、奥には靴を入れた木箱が積み上がっていた。その手前だ。アルデバランと下手な字で書いたメモが貼り付けられた木箱が置かれている。イギーはロンと一緒にそれを引っ張り出してきて、確かに何もないことを確認した。

 ただ、何もなかったが、イギーはその木箱の内側に銀色になった部分があるのを発見した。


「これ、何だろうな。汚れか?」


 でもアルデバランはそんな色をした部分はなかった。部屋の壁を見てもそんな塗装がされている部分はない。


「どうした、イギー?」

「いや、ちょっとな」


 それから二人で部屋の他の部分も調べてみたが、どこにもアルデバランの失踪のヒントになりそうなものは見つからなかった。

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