酒カスのララバイ
彼は完璧なソムリエだった。
渋いワインでも、固いワインでも彼の手にかかれば、若いつぼみが芳醇な香りを漂わすように、パッと開くのだ。
いわく「経験と自分の感覚を頼りにしている」とのこと。
彼はワインのみならず、その他の酒にも精通しており、その業界では有名人であった。
そんな天才ソムリエの彼はある日突然仕事を辞めた。
*
ピンポーン
彼の幼馴染の俺は、音信不通となった友を心配してお土産片手に家までお見舞いにやって来たのだが、彼からの応答はなかった。
すると少し不安になった俺の携帯に母親から電話がかかって来た。
「元気にしてた?」
「母ちゃん、なんの用だよ。元気だけどさ」
「いやぁね、昔よく一緒に遊んでた幼馴染の彼なんだけど、未成年淫行で捕まったらしいわよ」
「え」
ゴンッ
俺は驚きのあまり手に持っていたお土産を床に落とした。
「いや確かに、どんな固いワインでも彼の手にかかれば開くけど、ってなに言わすねん」
俺は電話口に半ばやけくそで叫ぶように言った。
「あんた、関西人の前で似非関西弁使うと嫌われるわよ~」と母は的外れの事を言って電話を切った。
足元ではお土産に持ってきたストロングゼロがこぼれたせいで、安いアルコールの匂いが立ちこめ、鼻腔をくすぐった。
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