らじおと破壊
私の友達O君はだいぶ変わった人間だ。
その日も宇宙間交流と称して、庭に穴を掘り、穴の中心にラジオをほうりこみをシャベルで叩き壊していた。その上、私の通学カバンから国語の教科書を勝手に引っ張り出してライターで火をつけた。
「それ、なんの意味があるの?」
私がだいぶあきれながら聞くと、
「いい質問ですね」とまるでテレビに出てくる識者きどりの発言をして私を苛立たせたので、その発言をスルーして、
「学校に行こうよ」と、半ば日課となりつつある、毎日一回は彼に投げかける言葉を口に出した。
すると彼はふぅー、とため息をつかんばかりの表情をして、
「行きたいのはやまやまなんだけどね、やりたいことが多すぎて、学校に割いてあげられる時間が圧倒的に足りないんだ」
彼は心底真面目そうな顔でそう言った。
「そうですか」
私は、何十回目かのこれまた日課となったセリフを口にした。
彼はいわゆる凡人には理解できない境地にいるタイプの人だ、非凡、基地外、エトセトラ。。。
数日後、ある日の夕方にまた彼の家に行くと、
「そうだ!群馬に行こう!」と早速わめいてきた。
「群馬?なぜ?」
私は思わずそう言った。
「草津温泉の湯もみがあるだろう、あれは僕が考えるに、この世の磁場のパワーの緩衝材たる役目をしているんだ。あれには隠された目的があるんだ。人間も同じ。人は目的のもと生きている。幸せになるには勇気を持つことが必要なんだよ」
彼はそう言いながら、北陸新幹線のチケットを2枚顔の横で揺らした。
草津について、温泉に入り、彼との(と言っても一方的に彼の話を聞かされたのだが)会話を楽しみながら温泉饅頭に舌鼓していたら、私の最近の悩みもなんだかとてもどうでもよくなってきたのだ。
「どうだい?気は晴れたかい?」
彼がそう聞いてきたので私は驚いて、
「君はどこまで知っているんだ?」と思わず聞いた。
「君は最近妙に元気がないからね、僕が学校に行って君のそばにいて、守ってあげれたらいいんだけど、学校の授業は退屈だからね・・・」
「何でもお見通しだな・・・」
私は自嘲ぎみに笑った。
「僕の教科書を燃やしたのは?」
「几帳面な君の教科書がボロボロになっているのがチラッと見えたからね、中身をのぞいたら実に低俗な暴言がいっぱい書いてあったから、燃やしたんだよ」
「じゃあ、なんでラジオを破壊したの?」
「ラジオはなんとなくだよ」
「なんとなくかー」
「そうだよ、人生なんとなく、しかし毅然と生きなきゃね。」
私は、その荒唐無稽な理論にどこか納得してしまった。
「僕ね、今学校でいじめられてるんだ」
「知ってるよ、だから何?」
私は彼の突き放すような言い方に少し驚きながらも、その声音に居心地の良さを感じていた。
「なんでもないよ、饅頭おいしいね。あと僕も学校に行くの辞めたよ」
「それがいい、これから毎日僕の家に来るといいよ。君は賢い。僕が勉強を教えてあげよう」
「君から勉強を教わるのは遠慮するけど、毎日家には来ようかな」
「そうだね、毎日家においで。待ってるよ。友達だからね」
友達。。。友達。。。。
私は、妙に爽快な気分になり、手に持っていた饅頭の残りを一口で食べきった。
それは饅頭にしては少し塩辛かった。
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