さよならだけが人生さ
ある春の日、五月病で鬱病で金もなく、ついでにハウスダストで毎日がしんどかった僕は自殺をすることにした。
「よし、死のう」
賃貸の家の中で死ぬと修繕費やらなんやらで遺族に莫大な迷惑が掛かると聞いた。その為家の中での自殺は却下だ。泣きながら墓石に唾を吐き捨てる両親を想像して悲しくなった。
通勤通学で神経をすり減らしている日本の皆様には大変申し訳ないが、電車に飛び込むことにした。
どうせ唾を吐きかけられるなら知っている顔より知らない顔の方がマシに思えた。
駅へ、トボトボ歩いていく。
ここでフリーターな俺の、毎日のカツカツな生活を少しだけ紹介しよう。
昨日は酒をしこたま飲んだ。二日酔いの体をひきずり、レイトショーで爆音上映会に行ってきた。しかも二本立て。
一本目はキングスマン、イギリスの品の良い紳士が仕立てのいいスーツを着て人間をぶち殺しまくる痛快コメディ。
二本目はバーフバリ、ただでさえうるせぇのに爆音上映だもんで、二日酔いの頭に音が突き刺さって死ぬかと思った。映画の記憶が、川から手が出て赤子を持ち上げる、というワンシーンしかない。インド人が爆音で踊り狂う度に物理的に吐きそうになった。
そして帰り道、財布を落として、ジ・エンド。
ちなみに、一昨日はバイトの後風俗に行きました。
もうダメだ、僕はクズなので、死にます。
駅に着いた、ポケットをまさぐると入場券を買うだけの金があったので、券売機で券を購入する。そして改札をくぐり、ホームに出てボーっとしながら下り電車を待っていた。
すると僕の横に品の良いスーツを着たかっこいい紳士然とした壮年の男性が、近づいてきた。
まるで俳優のような顔立ち、ピンと伸びた背筋、すらりとした足、細身ながらもがっしりとした体躯にスリーピースのスーツがよく似合っていた。
あー昨日見た映画にもこんなかっこいい人が出てたよなぁ、とかぼんやり考えていると
「目が、綺麗ですね」
紳士はいきなり、僕の目を見つめてそう言ってきた。
「そう、ですか?」
びっくりして思わず聞き返してしまった。
僕は風俗狂いのパチンカスのメンヘラフリーターお兄さんなので、自分の目は絶対に濁っていると思う、が最近人に褒められていなかったのでその言葉が少し嬉しかった。
「はい、とても綺麗ですね。舐めたいです」
紳士は続ける。
なんとまぁ、貴方こそ綺麗な変態ですね。
そして僕は少し動揺しながらも、
「舐めますか?」と聞いた。
「いいんですか?」
紳士が食いつく。
どうせ死ぬ予定だったので、眼球を舐められるぐらいなら安いものだ。
「はい、眼球、舐めていいですよ。そのかわりお金をください」
紳士は少し驚いた顔をして高そうな財布から諭吉を三人取り出した。前言撤回、眼球を舐められるのは、安くなかった。
その日の自殺は延期し、紳士の家へ着いていった。
それが僕と、僕の愛する変態オキュロフィリアなパトロン紳士との出会いだった。
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