スレイヴ・トレード
朝が好きだ。
たいていの人は朝を迎えると、一日の始まりを感じ、ある人はやる気を、またある人は代わり映えのない日常の始まりに嫌悪感をにじませたりするのだろう。
そんな私は無事朝を迎えると、
「あぁ今日も一日が無事に終わったなぁ」とか思いながら命に感謝するのだ。
私はトラックの運転手として、夜「荷物」を運んでいる。
クライアントの「荷物」を「丁寧」に「目的地」にまで運ぶのだ。
他言無用、これがこの仕事における何よりのルール。
昨日は特に肝が冷えた。
元気で大きい荷物は荷台の中で暴れに暴れ、荷台の中が常にガタガタいっていたので、うかつにコンビニにも寄れない為、目的地まで8時間ノンストップでハンドルも握りっぱなしだった。
半年前までは、この仕事にも相棒と呼べる奴がいて、助手席とタバコをくゆらせながらビートルズのCDなんかを車内に流しながらへたくそな英語で歌っているようなやつだった。
こいつがなかなか力持ちで、特別暴れる荷物を搬送するときなんかは重宝していた。が、こいつは荷物に私情を挟みすぎた。
ある日そいつは可哀そうな事情を持つ美しい荷物と、この狂った世界から逃げ出そうとした。
俺からしたら、こいつが逃げたら俺が荷物にされる為、必死に後を追って始末した。
結局、その日は二つの荷物をクライアントへ納品することとなった。
こんな仕事をずっと続けていたら頭がおかしくなって善悪の区別がつかなくなってくる。
俺はただ平穏に毎日を生きて過ごしたいのだ。
クソみたいな夜が白んで、朝がやってくると涙がでそうなほど嬉しく感じる。
そして俺は、白んだ靄の中、タバコを一本ふかして、命に感謝する。
これが朝の味ってやつか。
ずっと味わいたいものだ。
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