悲愴

 A君っていつもニコニコしてるよね、双子のお兄ちゃんはあんなに不愛想なのに。


 でもお兄ちゃんのB君は、まぁかっこよくて、勉強もできて、他の部分で愛想の無さをカバーしてるね、あ、A君がかっこよくないって意味じゃないよ。


 教室で、クラスメイトの女子にそう言われた。


 二卵性双生児で、すべてが兄より劣る僕は昔から兄と比較され、おおよそほめるところが他にない為か、よく愛想の良さを褒められる。


「ありがとう」


 思ってもない言葉を吐きながら、顔をニコっとさせた。


 こんなすべてが兄に劣る僕だが一つだけ、誇れるものがある。それが幼馴染のF子だ。


 彼女は稀有な価値観を持っており、昔から兄より僕にベタぼれだ。そして僕もまた彼女の事がずっと好きだった。


 今日は彼女と一緒に下校する約束をしていたため、彼女の教室の前へ行く。そして見てしまった。


 周りの女子たちの視線を一斉に集めた兄が、F子に何やら手紙のようなものを渡していた。


 少しぶっきらぼうに、それでいてどこか照れくさそうな兄がF子の胸の前に突き出すように手紙を差し出し、彼女が顔を真っ赤にしてそれを受け取る。兄は足早にその場を立ち去り、F子は兄からの手紙を愛おしそうに両手で握っていた。


 その姿を見た途端自分の中の劣等感が刺激されて、「あぁ唯一の彼女すら兄貴に取られるんだな」と直感で感じた。


 ふと視線を上げたF子と目が合う、僕は急いで踵を返してその場から足早に去ろうとした。


「A!」


 僕に気が付いたF子が急いでよってきて、後ろから腕をつかむ。


「どうしたの?一緒に帰ろうよ」


 後ろから彼女が僕の腕を胸に抱き、右斜め下から僕の顔を覗き込むようにそう言ってきた。


 なんだかとてもみじめで、彼女の気持ちもわからなくて、世界の全てから拒否されたような気分になった。


 彼女の腕を振り払って、走り去りたい気分だったが、皮肉なことに僕はいつもの癖で彼女にニコッと微笑みかけてそう言った。


「そうだね、帰ろうか」


 心はしくしくと泣いていた。

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