ア・デイ・イン・ザ・ライフ

道なき道をひたすら歩いていたらコンクリートで舗装されたボロボロの道路についた。道路のあちこちには到底動きそうにもない車や戦車が放置されてあり、私はそれらの間を縫うように前へ前へ進み続ける。


 体には霧雨が絶えず降り注ぎ、体に服がぺたりとまとわりつく感覚が不快だ。地球は滅びへと少しずつ、そして確実に歩を進めていっている。あの日のアウトブレイクから、不思議と空は壊れたように地球に霧雨をもたらした。


「うっとおしいな」


 私は誰に言うでもなくそう呟いた。


 あの日私は首都圏にいた、しかし都市部はあっという間に汚染され、到底人が住める状況でなくなった為、今一人で南下をしている。


 皮肉なことにあの日はクリスマスだった。


 あの日、私は彼女と一緒にいた。そしてクリスマスプレゼントに指輪と綺麗な音色のオルゴールをプレゼントしたのだった。指輪をはめた彼女の指がオルゴールのゼンマイを巻き、綺麗な音色に耳を傾けながらうっそりと笑っていたのが印象的だった。それから何がそんなに楽しいのだ、と思えるほど彼女は町中のイルミネーショの前をクルクルと、無邪気に踊るように飛び跳ねていた。


 少し疲れたので、道路から一本筋を外した家の中を伺い、人や人でないものの気配を探り、安全そうだったので中に滑り込んで鍵を掛ける。そのままリビングまで慎重に進むとソファへどかりと腰を下ろした。背中からリュックを下ろし、齧りかけのチョコバーを取り出して貪る。そこで私は朝から何も食べていなかったことを思い出した。続けてリュックからペットボトルを取り出そうとして、四角いものに手が触れた。少し黒ずんだそれを取り出し、ゼンマイを回すと、綺麗な音色が空虚なリビングに響き渡った。しかしオルゴールは壊れていたため1分ほど音色を奏でるとソコでふつりと音が止まってしまう。その為何度も何度もゼンマイを巻いては、メロディを聞いて、またゼンマイを巻く、という動作を繰り返した。瞼を閉じるとあの日のクリスマス、イルミネーションの前でクルクルと踊る彼女が何度も脳裏に浮かぶのだ。そしてまた音が止まる。ゼンマイを巻くと脳内で踊っている彼女も逆再生されてまた指輪を前にはにかんだ笑顔を見せる。


 世界が壊れかけていても、このオルゴールの音が完全に止まらない限りは、私は前に進める。


 祈るように念じながら私はソファに横になって、少し仮眠をすることとした。

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