我愛尓

「初キッスはレモン味だったよ」


 いきなり真顔でYが言ってきた、彼女は白磁の肌に大きい目、それを縁取る黒く長い睫毛が特徴的な小柄な美人だった。


「でもY、男嫌いっていってなかった?克服したの?」


 私は疑問に思ってYに言う。


「相手はM先輩だよ」


 M先輩は、一つ上の学年の先輩、ショートボブの切れ長の涼しげな目とスラっとした高い鼻、これまた形のそろった鼻を持つ美人だった。


「…まぁ、確かにM先輩相手なら、初キッスもレモン味になるだろうねぇ」


 私は、Yの突飛な言動には慣れていたので、半ばスルーしつつそのまま話を続けた。


「一緒にカラオケに行ったときにね、我慢できなくて、告白したんだ」


「ほう」


「でも、先輩は付き合えないけど、キスならいいよって言ってくれたから、キスした」


「なるほどね」


 美人はすごいな、展開がハイスピードだ。


「…それで、先輩と話し合った結果、アイスティーに添えてあったレモンをお互いがかじってからキスをしたよ。唇と唇が触れた瞬間、ふわっとレモンの香りがした」


「…そっかぁ、よかったね」


 私はどこか遠い目をして、彼女の話に相槌をうった。


 Yは話の最中、チラチラと私の表情を何度も伺ってきていた。


―ちょこざいな、かわいいやつめ。


 そう、もうとっくに私は気づいている、Yが私を見る視線に熱がこもっている事、そして私の反応を試すように他の女性との仲を見せつけてくる事。でもまだだ、もっと焦らして焦らして私の事だけしか見えなくなって欲しい。


「なんかこの部屋乾燥してるね」


 私は二、三度咳をしながら、そう言ってポケットからイチゴ味のキャンディを取り出した。セロファンを剥いて薄赤い飴玉を唇で挟み、口内に入れる。その一連の動作を彼女は熱い視線で食い入る様に見ていた。


 はやく素直になって私に堕ちてくればいいのに。


 舌で飴玉を転がしながら、彼女の顔の横に垂れている絹の様な髪を耳に掛けてやると、真っ赤になった白い耳が眼前に出てきた。


 彼女の耳に口を寄せて「でもYレモン好きだったっけ?」と問う。


 Yは俯き、小さな声で「レモン、嫌いじゃないよ。でもイチゴはもっと好き」と呟いた。

 

 私は、クスリと笑ってから、Yの顔へ唇を寄せた。

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