ちゃおちゅーる

 先ほどまで、殴る、蹴るの暴行を加えていた男が大人しくなった。


 顔面をぼこぼこにしてやったら、つぶれたアンパンみたいな顔で「あー、あー」などと不明瞭な言葉で呻いていたのが面白かった。


 こいつは事務所の金を盗んで、女と一緒に逃げたクズで、俺はそれを捕まえて制裁を与えていたところだ。腹が立つことに金の半分近くはもうすでに逃亡先の町で生活費とギャンブル代金に消えていた。


 むかつくので、万感の思いを込めて、暴行を加える。こんなクズに余計な手間をかけさせられて腹が立つ。早く家に帰って愛猫に餌をやらなければならないのに。


 15回目ぐらいになる、腹への蹴りを受けたところで、足元のサンドバックが「女…女だけは…」と雑音を放った。俺はタバコに火をつけえt、まるで海岸に打ち上げられた枯れ木のごとく横たわる男に腰掛けて、独り言のように呟いた。


「女だけでいいのか?腹の中にガキがいるみたいだぜ」


 すると、尻の下の男は涙をポロポロと流しながら、「うぅ…」と泣き出した。椅子が泣くなよ。



「妊婦は、変態に高く売れるからな。てめぇが盗みだした分はそこで補えたから良かったぜ。だからこうやってお前の臓器を売る必要もなく存分に痛めつけられる」


 俺はまだ半分ほど残っているタバコの火を椅子の顔面に押し付けて、そのまま立ち上がり、最後の仕上げとしてバールを手に取り男に振りかざそうとした。


 しかし、すでに男は舌をかみ切って、この世のものとは思えないようなひどい顔をして静かに絶命をしていた。


「早く家に帰って、みゃーちゃんにちゃおちゅーるをあげねーとな」


 俺は家に帰るため、急いで死体を埋め始めた。

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