芋虫

 私の毎日のルーティンワーク


 朝起きて、歯を磨いて、化粧をして、コンビニで買った朝ごはんを食べる。


 仕事に出かけて帰ってきて、晩御飯を作る。


 作った晩御飯を、誰もいない空き部屋に置いておく。


 残った晩御飯を食べる。


 食器の片付けをして、空き部屋に入る。


 するとあら不思議、空になった食器のみが残っている。


「おかしい・・・」


 私は食器を片付けながら、独り言を言った。


 私は一人暮らしだ、しかし最近部屋の中に違和感を感じる。


 特に空き部屋から、どたばたと人のいる気配を特に感じるようになった。


 空き部屋のノブを握り、恐る恐る部屋に入る。


 四隅、何もない。


 窓、カーテンがかかっている。


 本棚、写真立てに少々埃がかかっている。


 ふと、床に目を落とすともぞもぞと動く芋虫がいた。


 私は虫が大嫌いなので、触ることもできず、放置した。


 そういえば、今日も仕事で疲れているのを思い出した。


「もう寝なきゃ・・・」


 夜のとばりが下りてきて、睡魔に襲われた私は、ベッドへ向かった。


 次の朝、また一日が始まる。


 いつものルーティンワーク。


 顔を洗って、歯を磨いて、コンビニで買ってきたサンドイッチを食べる。


 咀嚼中、ふとテレビのニュースに目をやると、1週間前から行方不明になっている人気男性アイドルの事件を報道していた。


「?」


 どこかで見た顔だ、私は逡巡する。


 妙にパサついたサンドイッチを牛乳で流し込み、嚥下した時、その顔を思い出した。


 それは空き部屋の本棚に飾ってあった写真立てに、私とツーショットで写っていた男だった。


 空き部屋から「ドン」と音がした気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る