第3話 拳、銃と.........

 これがピンチと言うものなのか

 俺は生まれて初めての"ピンチ"と言われているものを迎えている。

 そのフロアに入るなり、俺は四方を銃で塞がれて身動きが取れていない。

「こいつがたくさんの人を殺したのか?...はっ(笑)!どこからどう見てもただのちんちくりんなガキじゃねぇかww」

 あからさまに他の人と身なりが違うことからこいつがあいつの上司、そして数えることも難しいほどの拳銃を構えた奴らもこいつの指示に従っているようだ。

「おい、お前...名前を言ってみろ」

「拓也...清水 拓也だ」

「随分人を殺したらしいなぁ...何人殺したんだ?」

「覚えていない、たくさん殺した」

 そう言うなり、そいつは俺の頭に銃を突きつける。

「バーン....へへっ..これでも恐れないとは...面白いやつだ」

「それはどうm」

「おい....誰が口を開いていいと言った?」

 そいつは俺の口の中に銃を突っ込んで威圧しながら言ってきた。

「お前は今、捕まえることは法律で禁止されている。...だが..."殺したらダメとはそれに書かれてないんだ"」

「っ!」

 次の瞬間、俺は銃を取り出すも奴から繰り出された蹴りで手から銃が落ちる。

「さぁて、始めようか、楽しい楽しい"殺し合い(ゲーム)"を」

「拳と銃、どっちが速いかなぁ?」

 この狭い空間での戦闘は俺にとっては不利だ。なおかつ、銃を落とされ、それを取りに行こうとすれば間違いなく負ける...それなら。

「撃てぇぇええええ!!」

 一斉に放たれた弾丸は間違いなく俺に向かっている。1つでも当たれば間違いなく死ぬだろう。そう、"当たれば"ね。

「んなっ....当たらない」

「そ....そんなはずは...」

「怯むな!撃ち続けろ!」

 ここには誤算が沢山ある。

 まず一つ、俺に弾を避けるスキルがあること。

 一つ...裏切り者がいること。

「ぐああああああ!!」

 弾が仲間の一人に当たる、それが出来るものはただ一人、

「原田!お前、裏切ったな!」

「俺は契約に従っているだけだ。このUSBを返してもらう条件としてな」

「んなっ!それはこいつを捕まえないってだけだろが!」

 そう、俺はこいつに追加の契約をしてもらった。

 それはここに来るまでの道半ばで...

「...なぁ」

「ん?」

「一つ....賭けをしないか?」

「これから行くところでもしも、俺に危害を加える奴がいたら俺の勝ち、いなかったらお前の勝ちだ...どうする?」

「...何を考えている?」

 俺はここで大きく出る。

「お前に俺を捕まえるチャンスをやろうとしてるんだ。お前が勝てば、契約を破棄し、いつでも捕まえられる。...だが、負ければ一つ、契約の項目を増やしてもらう」

「...乗った」

「俺が勝てば、お前は俺を守る役になるということ...それでも構わないか?」

「もともと、お前を捕まえるのは今出来ない、それに...どのみち俺は職を失う身だ。それならこの賭けに乗った方が、俺にとっては都合がいい。...どちらに転んでもな」

 初めからこいつには何のメリットも無いのだ。むしろ俺だって、まんまと奴らが貴重なデータが入ったPCでやり、データを盗めたから......とここで俺はなんらかの引っ掛かりを覚えるものの、俺はそれを薙ぎ払うとまた、窓の景色を見る。

――とこの賭けが現在、この結果なのだが....。

 さらに言うともう一つ誤算があるのだ。.....そろそろか....。

 どこかで肉へ弾が着弾した音がする。

「う...ぁ........ぁ....あああああああああ!!」

 当たったのは俺ではなく撃った側.....それもそのはず、この狭い空間で多数の弾丸を避けるのは難しいが、その分、他に当たりやすいという俺の考えは当たっていたようで、そいつは軽いパニックになったのか狙いを定めずに撃つものだから俺以外の人に当たる。

 バンッ!!....ドサ.....。その音は他の銃声とは違った。その弾は先ほどのパニックを起こしたやつの胸に穴を空けて.......殺した。

「...おい...なんで殺した」

 チッと舌打ちするまだ名前をしらないこいつに聞く。

「殺したぁ?....あぁ...こいつ死んだのか......いいやつだった」

 次の瞬間、やつは銃を地面に放り、部下たちに向かって言った。

「だれかこれをどけてくれ。あ...それともう撃たなくていいぞ。俺が仕留めるからよぉ!!」

 やつはそう言うと俺に向かって来た。生身で右ストレートを俺の頬にぶつける。案の定俺は倒れる。

「へへっ、初めからこっちの方がよかったなぁ!!」

 こんどは左、右と二連続、当たれば気絶するかもしれない程の威力をもったそれを俺は......。

「へぶっ!」

 頭を動かして避けてから全力の右ストレートをやつにぶち込む。

「お返しだ」

「へっ!上等だ。そうこなくっちゃなぁ!!言っておくが俺は元ボクサーだぞ?」

「それがどうした。俺はお前の経緯も名前も興味が無いんだ」

 互いの拳を混じらせながら、俺は受け答えする。

「俺の名前はかの有名ボクサーKENだと知って言ってるのかぁ?」

 奴が今度はアッパーを繰り出してきた。俺はそれを避けれずに受け、腹部のあたりに重く強い痛みが発生するものの、俺は何ともなかった。

「俺はおまえの名前なんて興味ない。それと俺はこの痛みよりももっとずっと痛いものを感じてきたんだ。簡単にやられはしないさ」

 素人なら、絶対に勝てないだろう相手に俺は互角、知らぬ間に俺は相手の動きやパターンを覚え、避け、攻撃を繰り返す。

「.....俺の攻撃が避けれる....だと?あんときはたまたまかと思ったがどうやら本気を出すしかないようだな」

 やつは上半身を脱いで裸になる。その身体から本当にボクサーだったんだなと改めて理解したが、問題はその後だった。

「がっ!あぐがっ!」

 奴が消え、見えない攻撃が繰り出された。

「どうだ!これが俺の本気だ。とことん虐めて、それから殺してやんよぉ!!」

 再び攻撃が来る。俺は限界が近かったようで、意識が......と.......ぶ―――。

「おいおいwぐったりしてどうしたんだぁ?まだまだこれからだぞ」

 そいつは俺の意識が無いのに攻撃をやめずに殴る、殴る、なぐr...nぐ.....殴ってえええええええええぇえぇぇえぇっぇえ......。

「.....あ?....が!っ」

                    ※

 やつの意識がないはずなのに.....なぜ.....何故こいつは......。

「おまえ.......誰だ?」

 思わず、そういうしかなかった。なぜなら.......。

「すぅううう.......はあぁぁぁぁぁ」

 目が開いていない....なんなら痛々しく腫れてるのに.....。こいつからさっきまでとは違ったものがある。

「この俺が......“震えている”......?」

 こいつから“隙”がなくなった。これじゃあまるで.......某アニメの主人公の......。

 その次なんて無かった。やつは俺に向かって来た。

「へっ!まさか.....ここまでやばい存在だったなんて......思わなかったぜ」

 次に来たのは明らかに“やつ”の拳ではなかった。それはまるで―――。

「k.....こ.....ろ....ころ....殺す!!」

 本物の殺意を持った“怪物”、俺はこいつをそう感じて、たった一振りの拳で地面に叩きつけられて、痛みで動けないところにやつは俺が蹴とばした銃を持ってきて、見上げた頭に撃t———.....。

                   ※

 起きたら、俺はなぜか、全身を血だらけにしていた。そして、目の前の光景に目を疑った。.......やつが死んでいる。しかもまだ死んで間もなかった。

「....なんd」

「お前が殺したんだ」

 自分の言葉を押しのけて、誰かが言う、初めての声、原田でもない、俺でもない声。

「...お前は誰なんだ?」

「俺はお前の中のお前と言えば理解できるか?」

 意味が分からない俺にやつは冷たく言い放つ。

「“お前は死んだんだよ”」

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