第弐話 追笛魅でおじゃる
朝廷より三位の位を
「ほほう、流石は
「そうでしょうそうでしょう、私ども絵巻商人は読み手に喜んで頂いてこそですからね」
表明殿は女体を整った線で描く絵師を好んでおられ、吾妻由貴という筆名の絵師は特にお気に入りじゃったそうな。
けしからぬ 絵巻の乳は 世にあらず
「ご隠居、実は新たにお勧めしたい絵巻があるのです。こちらは
「ふむふむ、
「もちろん取り揃えておりますよ。ここだけの話なのですが、実はもうすぐ御国誉先生がこの絵草紙屋にお出でになるのです。ご隠居はお得意様ですから、こっそり先生にお会いできるよう
「それは何よりでおじゃる!
「待ちなさい、この絵草紙屋ではまたそのような下劣な書物を売っているのですね!? 今から抜き打ちで点検を行います!!」
表明殿と絵草紙屋の店主が御国誉という人気の絵師の話に興じていると、後ろから女史の厳しい声が飛んできたのじゃった。
「おっ、お主は御役所の! 麿たちはご
「またあなたですか、そんなことは私たち
町奉行の
女史は名を
追笛魅というのは少し前から江戸や京の都で
「何ですかこれは、遊女という仕事は女人の
「そんな、麻里亜は遊女の仕事をよく承知した上で自ら遊女となったのでおじゃる! 行為の最中も心地よさげな面持ちをしているのがその証拠でおじゃる!!」
「面持ちが心地よさげだということは本人が納得しているということを意味しません! その発想こそが女人蔑視的です!!」
「そんなー」
たまかは表明殿を怒鳴りつけると『遊女麻里亜』の絵巻を全て持ち去ろうとして、せっかく期待の新作を見つけた表明殿は涙目になっておられたそうな。
いざ見むと
「あの、新作を持ってきたのですけどこの騒ぎは何ですか? 日を改めた方がいいですか?」
「先生、今は来ない方が!!」
「あなた、こんな所でどうされたのですか。今からこの『遊女麻里亜』なるいかがわしい春画絵巻を焼き捨てますから、あなたのような女子には立ち去って頂きとうございます」
その時、たまかに率いられた追笛魅たちが乱暴狼藉を働いている絵草紙屋に、若く見目麗しい女子が入ってきたそうな。
「えーと、私、御国誉っていう筆名でこの絵巻を描いてるんですけど……」
「何ですって!? このような絵巻を女子が画くはずがありません! あなた本当は男でしょう! 今すぐ点検を行います!!」
「ちょっ、何するんですか!? きゃー助けてー!!」
「乙川殿、それは流石にまずいでおじゃる! 官憲横暴でおじゃる!!」
一方的に激高すると女人の絵師の着物を剥ぎ取ろうとしたたまかを、表明殿は必死で制止したそうな。
思ふ者こそ 身を
(続くでおじゃる)
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