3−3

 シルタの村を少し離れた農道に、似つかわしくないほど立派な馬車が走っている。夜も深くなった田舎道に眩しいほどの明かりを伴ったキャラバンで、モリアーノは優雅に紅茶を啜っていた。その膝にはシルクのハンカチーフに乗せられたユタの歯が宝石のように鎮座している。

「いい買い物しちゃったなぁ。まさかあんなボロ屋でこんなものに出会えるとはねぇ」

「でも、いいんですかい?借金チャラにしちゃって。モリアーノさん、随分あの店に拘ってたみたいなのに」

 護衛の男の声がけに、上機嫌なモリアーノはにんまりと笑って答えた。

「借金をチャラにしただけ、でしょう?別に、あの店を手に入れる手段はいくらでもあるんだから」

「あの店、そんなに凄いんですか?モリアーノさんがそこまでするなんて……」

 金のためなら女子供関わらず卑劣な手を使って暗躍してきたモリアーノ。その所業を手伝っていた護衛たちからすると、あの閑散としたアイテム屋に価値があるとは到底思えない。しかし、モリアーノは目の奥を鈍く光らせながらローグレイグに思いを馳せる。

「王都随一の活躍を見せてた上流調合士が、どうして何の縁もないあんなチンケな村に、アイテム屋を開いたのかねぇ〜」

「……はぁ」

 男たちの間抜けな相槌に、モリアーノは内心うんざりする。

 これだから知能の低い輩は。人を殴る以外使い途がないお前たちの世話をする身にもなってみたまえ。

「あのアイテム馬鹿な男のことだ。竜の遺物だけじゃなく、それ以上に希少なアイテムなんかも眠ってるかもしれないだろ?」

「!なるほど!」

 ようやく合点がいったのか、突然沸き立つ金の匂いに男たちは下卑た笑いを上げ始める。

 (それに、あの坊やのことも、どうにかして手に入れたいねぇ)

 ローグレイグに付けていた見張りから、まだ少年が出ていったという情報は届いていない。誘拐でもなんでもいい。とにかくあの少年を手中に収められれば、竜の遺物がまた手に入るかもしれない。最早モリアーノにとって、ローグレイグは宝の山と化していた。

(王都に手渡すなんて勿体無い。あの爪も髪も、目も骨も内臓も、ぜーんぶ僕のものだよぉ〜)

 涎が垂れていることにも気づかないモリアーノは、邪な笑みを浮かべた。





◇◇おまけ◇◇

「お前の歯、取り返しのつかないことしちまったな。ほんと悪かったよ」

「ん?あぁ、あれか」

 ユタがわざとにんまり笑うと、丁度歯抜けの前歯が覗いて見える形になる。少年らしいといえば少年らしいが、それが自分のせいかと思うとジョーは笑えなかった。


「これはなかなか抜けなかった乳歯なのだ。そのうち永久歯が生えてくるだろう」

「それを早く言えよ!!」

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