3−1

 ユタの行動に、ジョーやモリアーノは目を見開くことしかできない。

「それは……歯、か?」

 事態を理解した途端、モリアーノがおぇえと醜悪な呻きをあげる。

「こいつ正気か? 自力で歯を抜くなんて魔獣でもやらないぞ」

 うげぇっと声を上げたモリアーノを守るように前にでる護衛たち。理解不能な行動をとったユタを子どもから危険対象へとみなしたようだ。しかし、そんな男たちのことなど意に解さないユタは、さっさと受け取れといわんばかりに自分の歯が乗った手をゆらゆらと上下に揺らす。

「さぁ、これでジョーの借金を……」

「返せるかそんなもので! 貴様の歯に何の価値が……」

「『竜の爪』が原因で借金を抱えているのだろう? ならば我の『竜の牙』で返済することも可能だろう」

「『竜の……牙』?」

 く、くくく、くははははははは!

 モリアーノの発する高笑いは鼓膜を突き刺すように響き渡る。

「お前の歯が竜の遺物だと?最高だよ。体を張ったジョークとしては過去最高だ」

 回りの男たちもひーひーと腹を抱えて笑っている。フォローをしたいジョーだったが、不本意なことにモリアーノと意見が合致していたため行き場のない手が宙をウロウロと彷徨っていた。

 竜の遺物は一流の冒険者でも滅多に手にすることが出来ないSS急のアイテムだ。マルタが何故所持していたのかは知らないが、アイテムコレクターたちが自分の財産を全て投げ売ってでも手に入れたい垂涎の的なのだ。

 しかし、ユタの自信は揺らがない。一歩も引かないその姿勢に、ジョーは次第に彼の言っていることが真実味を帯びていくような気さえしていた。つい数分前、ユタに竜の面影を感じてしまったせいも多分にあるのだが。

 ジョー同様、モリアーノもユタの自信にあてられたのか、笑いを収めた。カツカツと革靴を鳴らしながら近づき、胸元からこれまた一見して高価なハンケチーフを取り出すと、直接触れないよう慎重にユタの歯を摘み上げた。

「この汚い歯が、竜の遺物ねぇ……」

「……大体お前、それを見たところで竜の遺物かどうか判別できんのかよ」

「心外だね。私は君たち貧乏人とは見てきた数が違う。これまでにも竜の遺物を見たことの一度や二度……」

  偉そうに講釈を垂れていたモリアーノの動きが止まる。慌てた動作で胸元からルーペを取り出し、ユタの歯を凝視した次の瞬間、モリアーノの全身に鳥肌が沸き立った。

(まさか、そんなありえない……!)

 ただの乳歯では考えられない微弱だが青色の燐光現象。もちろん、この世界に自らが発行する石など無数にあるが、見る角度によって色を変えるこの性質、そして手に持った瞬間感じられる魔力の重さ。

(もしやこれは……本当に竜の……)

 グイッと眼鏡を持ち上げたモリアーノ。鷹揚な動きでルーペをしまうと、にっこりと微笑んでみせた。

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