第18話 フィルビーを訪ねて宿に現れた青年
その日、ヘルメスは遅い朝食をとるために、昼近くになってから、部屋を出た。
そしてレストランへゆく途中で、ロビーを横切ったのだが、その時、受付の従業員と話をしている青年を見た。
「こちらに宿泊している、スタンレー・フィルビーさまにお会いしたいのですが・・・」
と云う声に、思わずヘルメスは立ち止まり、後ろを振り向いた。
なんとなく、聞き覚えのある声だった。
後ろ姿も、何となく見覚えがあるような気がした。
ヘルメスは気になり、少し離れたところから青年を観察し始めた。そしてあることに気づきヘルメスは驚いた。
青年はアカデミアの後輩で、かつてフィルビーとヘルメスがともに恋をし、愛した青年サンと瓜二つだったのだ。
「恐れ入りますが、お名前をお教えいだだけますか?」
と、ホテルの従業員が青年に尋ねた。
「サンと申します」
ヘルメスは死んだと思っていたサンの出現に驚いた。
フロントの従業員は電話で、フィルビーに来客のことを伝えると、フィルビーはすぐにフロントへ飛んで来た。そして青年の顔を見るなり、その頬をひっぱたいて、冷たく言い放った。
「誰の許しを得てここへやって来た。お前には留守を守るように言ったはずだ」
フィルビーの怒りのまなざしを受けながらも、青年は平静を保ち、
「分かっております、ご主人さま。しかし状況が変わったのです。急ぎ、お伝えしなければならないことがあり、参りました。お許しください」
と静かに答えた。
青年は記憶の中のサンと顔も声も似ていたが、その冷静さは明らかに異質のもので、記憶の中のサンには無いものだった。しかしヘルメスは、こみ上げてくる感情を抑えることが出来ず、フィルビーと青年のもとへ歩み寄り、青年の肩に手をかけて、言った。
「サン! 生きていてくれたんだな」
しかし振り返った青年は、不思議そうな顔でヘルメスを見た。そして言った。
「あなたは、どなたですか? 初めてお目にかかる方ですが・・・」
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