第16話 ソラリス暗黒史と前シヴァ神セザール失脚の裏には・・・

 二人きりになってから、落ち着きを取り戻したセーヤにヘルメスは尋ねた。

「誰も殺していないのなら、なぜあんなに怯えたのか、教えてほしい。何か理由があるのなら、その理由を知らなければ、お前を護りきれないだろう?」


 ヘルメスのことばに、セーヤはやっと理性を取り戻し、全てを打ち明ける決意をした。セーヤは神妙な面持ちで、ポツリ、ポツリと語り始めた。


「フィルビーさまは、あの若さで、時期グランドマスター候補です。その地位は、すでに約束されていると、聞いています」

 そしてぽつりとつぶやいた。

「だから、恐いのです」


 そしてまた、少し間を置いたのち、セーヤは重い口を開いた。


「今は禁止され、その記録も封印されていますが、かつてソラリスには“ミュータント狩り”と呼ばれる異常な行為が奨励された時期があったのです」


「この宇宙全体の認識としては、ミュータントの変化は、次の進化への入り口であり、新世界への入り口とされていますが、この宇宙最高の行政機関が置かれているソラリスのエリートたちはそうは考えていません」


「むしろミュータントというものを敵視し、この世界を壊すものと捕らえています」


「だから今でも、ミュータント狩りは、秘かに行われていて、シヴァ隊はその実行部隊でした。しかしそのシヴァ隊を、根本的に変えたのが、前シヴァ神セザールさまでした」


「これは公にされていませんが、セザールさま自身が、実はミュータントだったのです。ただセザールさまは、ラボで生産されたドールではなく、辺境の惑星、それも政治犯のみが送り込まれた惑星で生まれ育ったミュータントでした。だから、そのことに気づくものは少なかったのです」


「しかしフィルビーさまは、そのことに気づいたようなのです。そしてそのことを、上層部に進言した。そしてセザールさまは、“シヴァ神”の称号を剥奪され、罪人になったと言われています。だから、私はとても恐いのです」


「私はセザールさまほど、踊りも上手くなければ、特殊な能力もありません。セザールさまとの共通点と言えば、ミュータントであるということだけです。だから恐いのです。あのセザールさまでさえ、策略に足を取られ、あのような最後を迎えたのです。フィルビーさまは、きっとまたミュータント狩りをするはずです」




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