第11話 新シヴァ選出の裏で動く暗殺計画

「お前はやっぱり、まったく変わっていないんだな」

と、ヘルメスはフィルビーを睨みつけて言った。

「お前みたいなヤツを愛したサンが、あまりに不憫だよ。


 その言葉に対して、フィルビーも負けてはいなかった。


「そうだろうか? 二人とも、俺を騙していたくせに。

 お前を親友だと思っていたのに、お前はサンが死ぬまで、本当のことをずっと隠していた」


「隠したくて、隠していたわけではない。

 サンだってそうだ」


 ヘルメスもサンも、特別な才能があり、理解者にも恵まれたことで、特別市民として、宇宙最高学府アカデミアで学ぶチャンスに恵まれたが、やはりそれは今でも、異例のことだった。 

 一概に、まとめてミュータントと呼ばれているが、ミュータントの有り様もさまざまで、前シヴァ神セザールのように、辺境の惑星の特殊な環境のもと、超次元的な特殊能力を持つにいたった異能者もいれば、ヘルメスやサンのようにラボで実験的に生産されたAIドールが、感情と知性を持つに至ったミュータントもいた。

 その能力は、みな、宇宙市民よりも遙かに抜きん出ていたのだが、ミュータントは

あまりに少数だったため、迫害されることの方が多かった。


 ヘルメスがサンのことを知ったのは、親友フィルビーがサンに夢中になり、橋渡しを頼まれたからだった。


 初めはヘルメスもサンが自分と同じミュータントであることを知らなかった。

 ただあるとき、生まれ故郷の話をしていて、互いに気づいたのだった。

 育った星は違ったが、生まれ故郷、出生地が同じだったのだ。

 同じラボの生まれだった。ラボで生産されたAIドールが、宇宙市民としてアカデミアで学んでいるということは、ミュータントであることを意味していた。


 誰もが夢見るような美しい天使のようなドールを・・・

と言う注文に、ラボのAIが考え、出した答えが、サンだった。

 

 サンは初め、フィルビーを警戒して心を開こうとはしなかったのだが、フィルビーの親友ヘルメスが自分と同じミュータントであること知ったとき、フィルビーを信じ

警戒心を緩めた。そしてフィルビーとサンの恋が始まった。


 AI ドールは設計によってその能力に差があった。

 ラボの研究者たちは、神の領域である、命の神秘と進化にまでその研究を進めていたのだが、稀に金に糸目をつけない依頼人が来ると、野心的な実験に手を染めた。

 サンとヘルメスは、そのような特殊ケースのAI ドールだった。 

 サンとヘルメスは、実際のところ、宇宙市民と変わらない知性と感情を持っていた。


 AI ドールは、事前にプログラミングされた知識と人格、そして寿命のもとに、宇宙市民に仕え、使命をまっとして、最後を迎える。しかしミュータントと呼ばれる新たな生命体に変性したAI ドールは違っていた。自分で考え、知識を吸収して成長してゆくことができた。繊細な感情さえ、持っていた。


「あの時、なぜ、悩むサンをお前から無理矢理でも引き離さなかったんだろうと、今は後悔している。そうすればサンは、死ぬことはなかった」


 ヘルメスはサンを愛していながら、それをサンに伝えなかったことを後悔していた。ミュータントのサンを愛していながら、自分がミュータントであるがゆえに、告白することを躊躇したのだった。名門の生まれで、将来のグランドマスターと囁かれていたフィルビーを相手に、自分が恋の戦争に勝てるとは思えなかったし、自分を守るだけで精一杯なのに、サンまで守れるとは、到底思えなかった。

 結局のところ、ミュータントであることを負い目に感じていたヘルメスが、今のような強い意思と使命感をもったミュータントに変身したのは、サンを亡くしてからだった。


「ところで、お前がここへやってきた理由が知りたい。

お前がソラリスの高級官吏になったことは、アカデミアの同期から聞いている。そのお前がなぜここにいるんだ?」


「休暇をとって、ある要人に会いにきた。

ただ、今、その人がどこにいるかがわからない。

その坊やにも関係のあることだから、お前も手を貸してほしい」

 ヘルメスはその依頼に対して、何も答えなかった。


「普通はこんな簡単に、シヴァ神は決まらないんだ。特にこの坊やは入隊したばかりの新人で、シヴァ隊での活動経験はほとんど無いに等しい」


「だから何だと言うんだ。セーヤはお前の大嫌いなミュータントだから、シヴァ神にふさわしくないと言いたいのか?」


「シヴァ隊はもともとソラリスの暗殺部隊だ。この一大ページェントの裏には、ある大物要人の暗殺計画があるんだ。私はその暗殺計画を阻止するためにきた」



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