第7話 フィルビーとヘルメス
フィルビーは名門の生まれで、みなから差別主義者と思われていた。
この宇宙には最終進化を遂げたと思われる種族は多数存在した。しかしその文明が全てのものにとって楽園となることは決してなかった。結局は、この宇宙は富を独占する特権階級と、搾取されながらも特権階級に仕えるしかない一般市民とが存在するだけだった。
理想と現実は、いつまでも平行線をたどるだけで、実現することはなかった。
ヘルメスは特権階級に仕えるためにラボで生産された個体だった。しかし最終段階で突然変異を起こした、ミュータントと呼ばれる個体だった。ミュータントは生まれる星によって、その扱われかたがかなり違った。
ヘルメスは子どもを亡くした夫婦の注文により、子どもの代わりに生産された、ドールと呼ばれる個体だったのだが、突然変異により、特別な能力を持つ生命体に変異した、新種のミュータントだった。注文した夫婦は一緒に暮らすうちに、そのことに気づいた。そして亡くした子どもと同じ顔を持つヘルメスを、ペットではなく、自分たちの子どもとして育てたいと思うようになった。夫婦はすぐに別の星へ移住し、ヘルメスを本当の子どもとして育てる決意をした。移住した星では、ミュータントは特別市民として扱われ、次なる進化へ導くものとして大事にされ、差別されることは無かった。
フィルビーはヘルメスの過去を知っている、数少ない存在だった。
フィルビーは学生時代から非常に優秀なことで、有名だった。
フィルビーは名門の生まれだったから、最終的には、グランドマスターになるのではないかと、噂されてもいた。
フィルビーとヘルメスが、最初から犬猿の仲だったかと言うと、決してそうではなかった。ヘルメスとフィルビーはいつも首席を競っていたが、初めは仲が良かった。
2人がお互いを憎むようになったのは、ある1人の美しい後輩の少年が原因だった。
フィルビーは才能豊かなその少年に恋をしたのだが、彼がミュータントであることを知らずに恋をした。やがてフィルビーと少年は、誰もが知る恋仲となった。
少年は同じミュータントであるヘルメスを兄のように慕っていた。
だからあるとき、ヘルメスに会い、その悩みを打ち明け相談したのだった。
しかし2人が学外で秘かに会っているところを目撃したものがいて、そのことをフィルビーに面白がって告げたものがいたのだった。そしてフィルビーは2人が密会している場所へ行ったのだった。
ヘルメスと少年は、とても親しげに見えた。
見方によっては、恋人同士に見えないこともなかった。
初めての恋に、何も考えられない状況だったフィルビーは、少年が自分を裏切り、新しい恋人と密会していると思ったし、その相手が親友のヘルメスであったことが、より彼の心にダメージを与えた。その時、フィルビーの中で、何かが壊れた。
フィルビーはヘルメスと密会していた少年を決して許さなかった。
少年はフィルビーに、自分がミュータントであることを、告げられないまま、結局は死を選んだ。ヘルメスが、自分がミュータントであることを、フィルビーに告白したのは、少年が死んでからだった。
「私がミュータントであることを、サンは知っていた。だから私に相談したんだ。
ミュータントであることを、君に告白すべきかどうか、サンはとても悩んでいた・・・」
しかしその告白を聞いたことが、逆にフィルビーを差別主義者に変えた。
フィルビーはいつかヘルメスを跪かせ、自分の命令には何でも従うペットにすることを夢見た。それは日々薄れゆくサンの記憶を、ヘルメスを憎むことによって、心にとどめようとしたのだった。
そうすることでしか、フィルビーは少年を失った喪失感から、立ち直ることが出来なかった。
一方、ヘルメスは弟のようにかわいがっていた後輩サンを、フィルビーが追いつめ、死にいたらしめたことを絶対に許せないとやはり思っていた。
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