第3章 愚かな王の終わり
76. 終戦に向けて
「なるほど。大多数の貴族や国民はこの戦争に乗り気じゃないわけだ」
「はい。そうなります」
砦は無事にマナストリア聖華国軍によって制圧された。
リードアロー王国の兵士や騎士たちは武装解除され監視付きの部屋に閉じ込められていはいるが、わりと自由に過ごしてもらっている。
いまはリードアロー王国の上級騎士とマナストリアの王配殿下が今後について話し合っている最中だ。
あたしも停戦の使者として一緒に話を聞いている。
なるべく口を挟まないようにしているけどね。
「そうなると、戦争賛成派の貴族や王族だけなんとかすればこの戦争は終わるかな?」
「私たちの考えでは終わると思います。現在のリードアローは、マナストリアだけではなく周辺すべての国から攻め込まれている状況。この状況を打破しない限り、国の安定はあり得ませんから」
「そうか。ちなみに、君ならまず誰を始末するべきだと思う?」
「リードアロー国王陛下ですね。あのお方が戦争をすると言い始めたのが事の発端ですので」
やっぱりリードアローの王様ってバカじゃないの?
兵力に自信があったのかもしれないけれど、いきなり他国に攻め込んで勝てるわけないじゃない。
まして、マナストリアはリードアローに対してずっと警戒をし続けていたんだから。
あたしだっていろいろと国に提供してきたし、個人でも準備をしているからね。
そんなことも知らなかったのかしら?
「ともかく、リードアローの現国王陛下をうち倒してください。そうすれば、王国としても軌道修正が可能です」
「わかった。問題はどうやってリードアローの国王を表舞台に引きずり出すかだが……何かいい案はあるかな?」
「はい。あの方は他人と同等に見られることすら嫌います。それに、最近マナトレーシングフレームを手に入れてからはその増長ぶりも増すばかり。そこをついて引きずり出せばいいでしょう」
「なるほど。わかりやすく短絡的な性格ということか。情報提供ありがとう。君も休んでくれて構わないよ」
「はい。リードアローをあの国王から解放してください」
席を立って一礼すると騎士は部屋を出ていった。
というか、現在の国王から国を開放することを望む騎士っていうのもおかしな話よね。
これがひとりだけだったら怪しいものなんだけど。
「……さて、これまで10人以上の話を聞いてきたわけだけど、不思議に思った点はあるかい? アウラ名誉伯爵」
「全員が一致して国王を倒してほしいというところでしょうか。あそこまで国に忠誠を誓っていない騎士というのもおかしい気がします」
「ふむ、そこが気がかりか。私の意見とは違うな」
あれ?
王配殿下は別のことが気になるみたい。
どこが気になったんだろう。
「まず、あの騎士たちの言葉に嘘偽りはないだろう。全員が全員、いまの国王を倒してほしいと切に願っている」
「そうなんですか?」
「ああ。彼らはリードアロー王国に忠誠を誓っているが、国王には忠誠を誓っていないようだ。まったく、王家は国の象徴であらねばならないのに、嘆かわしい」
国に忠誠は誓っても王には従っていないのか。
ちょっと勉強になった。
あたしは女王陛下に忠誠を誓っているからね。
「その上で気になったのが、全員妙に国王の身辺情報に詳しいことだ。騎士であれば国の内情を知っている者もいるだろう。だが、全員、『国王と一部の貴族だけが戦争賛成派』と知っていることが気にかかる」
「確かに。言われてみるとそうかもしれません」
「これはちょっと兵士階級の者たちからも話を聞いてみる必要があるかな。すまない、一般兵からも何人か呼んできてくれ」
「はっ!」
王配殿下は一般兵から話を聞くことにしたようだ。
あたしも同席したんだけど、さすがに兵士たちでは国の内情までは知らなかったみたい。
ただ、各地方の貴族は戦争反対派で、兵士たちも仕方なく戦場へと駆り出されていることがわかった。
あと、国王がマナトレーシングフレームを持っている事は一般兵でも知っていることらしい。
司令官だったリードアロー王国の王弟が言いふらしていたらしいからね。
でも、これで第一目標ははっきりした。
戦場にリードアロー王国国王を引きずり出して戦死させてしまえばいいみたい。
方法は考えなくちゃいけないけれど、邪魔者を消せば終戦する可能性があるってどうあのかしらね?
楽でいいんだけど。
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