75. 停戦協議
砦内に入ったあたしは周囲を厳重に囲まれながら砦の中へと連れて行かれた。
とってもじゃないけど、停戦の使者を相手にした態度じゃないよね。
本当にこいつら何を考えているのかしら。
「入れ、この部屋だ」
「ご丁寧に案内どうも。それじゃあ入らせてもらうわ」
案内された部屋の中に入るとそこには豪華な椅子に座った男がいる。
こんな椅子が砦にあるわけがないし、持ち込んだのかしら。
「よく来たな、停戦の使者とやら。早く跪け」
「はあ?」
「聞こえなかったのか? 跪け」
この男、何様なのかしら。
王でもないのに停戦の使者相手に跪けだなんて。
「さっさと跪け!」
「嫌よ。そもそもあんた何様よ」
「私か。私は王弟ケフェルだ!」
王弟ねえ……。
頭悪そう。
「どうした、早く跪け!」
「嫌よ。それよりも、あたしはそっちの王都に行って女王陛下の書状を渡さなくちゃいけないんだけど」
「ふん、身勝手な。まあ、いい。そっちの女王とやらの書状という物を見せてみろ」
「どうして? あなたには決定権がないでしょう?」
「本当に書状を持っているか確認したいからな。さっさと出せ」
本当に嫌な感じの男。
まあ、女王陛下の書状の存在くらいはみせてあげましょうか。
「はい、これよ」
あたしは女王陛下からの書状をバッグの中から見せてあげた。
押されている国印も見せる。
これで問題ないでしょう。
「ふん。それが本物かどうか確かめてやる。おい、それをこちらに渡せ」
「本物かどうかなんてどうやって確かめるのよ?」
「そんな事どうでもいい。さっさと渡せ!」
この男、怒鳴る事しか能がないのかしら。
簡単に書状なんて渡せるわけがないじゃない。
「渡せるわけがないでしょう。あなた、馬鹿にしているの?」
「うるさい! さっさとよこせ!」
ドカドカと歩みよってきて書状を奪い取ろうとしてきた。
そんなウスノロな動きに捕まるあたしじゃないけどね!
「おのれ……小生意気な娘だ! おい、この娘を殺せ!」
「はい?」
「王弟殿下、さすがにそれは……」
「騎士ごときが私に命令するのか! さっさと殺せ!」
「お、おい、どうする?」
「いや、本物の使者を切ったとなれば本格的な侵攻の理由を与える事に……」
「どうした! お前たちが殺されたいのか!?」
「い、いや、しかし……」
「もういい! 私が殺す!」
私が殺すって……。
本当に自分の剣を抜いちゃったし、これどうしようか?
「死ね! 汚らわしいマナストリア聖華国の者どもめ!」
王弟は大振りに剣を振って襲いかかってきた。
でも、あまりにも大振りすぎて隙だらけ。
あたしが王弟の剣を鞭で切り落とす事だって出来てしまったんだから。
こいつ、剣術もまともにやってこなかったんじゃないの?
「な、剣、私の剣はどこに行った!?」
「切り落としたわよ。それで、どうするの?」
「おのれ……早くこの小娘を殺すのだ!」
王弟が命令するけれど、騎士たちは動かない。
むしろ、王弟を見る目が冷たくなっている気がする。
「どうした、早くしろ!」
「……王弟殿下、ご乱心! 停戦の使者に斬りかかったぞ!」
「お労しや、王弟殿下! せめて我らの手でお見送りを!」
「おい、何を言っている!?」
「王弟殿下、御免!」
騎士のひとりが王弟を斬り殺してしまった。
いいのかな、あれで。
「……お見苦しいところをお見せいたしました、使者様」
「王弟殿下の遺体は引き渡します。この砦も開城いたしましょう。それで兵士たちの命はご容赦を」
うん?
この騎士たちは何を言っているの?
「この戦争は王を初めとした一部の貴族によって引き起こされた戦争です。大多数の国民は乗り気ではありません」
「本当に勝手な願いになりますがこの砦の兵士たちの命は、我ら騎士たちの命と引き換えにご容赦を」
なるほど、国民に支持されて始めた戦争じゃないのね。
これはいい情報かも。
あたしもマナストリア聖華国の王配殿下と連絡を取って砦を取り戻さなくちゃね。
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