74. 停戦の使者
あたしがリードアロー王国へ向かう使者になる事が決まり、数日間かけて停戦案がまとまった。
内容としては、国境線を戦争前の位置まで戻しリードアロー王国側が戦争賠償金を支払うことなんだけど、おそらくあの国は飲まないんだろうなぁ。
気分が重い。
停戦の使者として向かう際にはヘファイストスを使っていいらしいのでそのまま向かうけど、これも作戦のうちなのかしら。
偉い人の考える事はわからない。
さて、あたしは停戦案を持って現在の最前線である砦へと向かった。
そこでは今日も両軍によるにらみ合いが続いている。
マナストリア聖華国側も攻め込めないけれど、リードアロー王国側も攻めてこないんだ。
かと言って、前回のように補給路を断つのも簡単じゃないし、面倒くさいよね。
さっさとお仕事を終わらせよう。
あたしは王配殿下の軍旗が部隊の側にいる、エンシェントフレームに呼びかけた。
「王配殿下はいらっしゃいますか?」
『お前は……ヘファイストス、アウラ殿か。王配殿下に何用だ?』
「女王陛下より今回の戦争についての停戦の使者としてリードアロー王国へ向かうよう指示されました。王配殿下の許可もいただきたく」
『なるほど。証拠となる品は持っているか?』
「女王陛下の封印が押された書状を持ってきています」
『了解した。至急、王配殿下に取り次ぐ』
そのエンシェントフレームに乗っていた騎士は本当にすぐ王配殿下を連れてきてくれた。
王配殿下もヘファイストスが作ったマナトレーシングフレームに乗っているので、乗機ですぐにわかる。
『やあ、アウラ名誉伯爵。久しぶりだ』
「久しぶりです、王配殿下」
『早速ですまないが女王印の押された書状というのを見せてもらえないかい? お互いマナトレーシングフレームに乗っている以上、手渡す事は出来ないから一度コクピットから出て書状の封印部だけを見せてくれればいい』
「わかりました。すぐに」
あたしは一度コクピットを出てバッグから豪華な装飾まで施された書状を取り出した。
そして、その押印部分を王配殿下のマナトレーシングフレームに向けてかざす。
これで見えるはずだけど、大丈夫だよね。
『確認した。確かに女王の持つ国印だ。しかし、アウラ名誉伯爵が使者とは。裏に何かあると言っているようなものじゃないか』
「はい。ある事を言い使わされています」
『それは面白い。それではとりあえずあちらの砦に入れてもらおうか。停戦の使者を拒みはしないだろう。こちらも拒まなかったのだから』
王配殿下は部下に指示を飛ばすと、停戦の意思ありという旗印をかざし前へと出た。
それに続いてあたしも前線部へと出る。
お互い、がっちり防備を固めて臨戦態勢を整えながらの停戦ね。
恐ろしいわ。
『何用だ! こちらの停戦要求が通ったのか!?』
リードアロー王国側から拡声の魔導具を使った声が聞こえた。
あんな要求、通るわけないじゃない。
『いいや、違う。マナストリア聖華国側からも停戦案を示す事になった。使者はこちらのエンシェントフレームに乗っている』
王配殿下も相手の事は気にも留めずにこちらの事を話す。
王配殿下って外交交渉担当だっけ。
頼りにしていいのかな?
『停戦の使者がエンシェントフレームに乗っているだと!? ふざけるな! 砦の中で暴れるつもりか!』
『そんな意思はない。こちらでも女王陛下の持つ国印が押された書状を持っている事を確認している。エンシェントフレームはリードアロー王国首都までの移動用だ』
『そのような戯言信じられるか! 要求がそれだけならば即刻攻撃を再開する!』
やれやれ、短気な連中。
でも、この調子じゃ話にならないわね。
どうしたものか。
「アウラ名誉伯爵、ちょっといいかな?」
ヘファイストスに搭載してある通信機を介して王配殿下の声が聞こえた。
秘密のお話しってわけね。
「はい、なんでしょう、王配殿下」
「君、単独でも戦えるかい?」
「戦えますよ。貴族に叙爵されてからも戦闘訓練はかかしていません」
「そうか。じゃあ、ヘファイストスを降りて単独で砦内に入ってもらっても大丈夫かな?」
王配殿下も無茶を言う。
でも、あたしってヘファイストスの装備に守られているから結構丈夫なのよね。
普通の武器や魔法では一切怪我をしない程度には。
「構いませんよ。話を進めてしまいましょう。ヘファイストスは単独でも動けますし」
「なるほど。それは頼もしい。では、そのように」
王配殿下が改めて交渉を始め、あたし単独でなら砦の中に入る事を許された。
さて、リードアロー王国はどんな歓迎をしてくれるのかしら。
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