64. 観光客第一陣
各地からの結果が届いたのか、あたしのところに迎えに行ってほしいと連絡があった。
ただ、第一陣の利用者の中には第一王子殿下も混じっているんだよね。
何を考えているのやら。
ともかく、あたしは馬車馬をやりますよ。
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***とある観光客
「ここがミラーシア湖にできたって言う観光都市レイキか?」
「ずいぶんとなにもない街だな。本当にやる気があるのか?」
私はこの街への招待ツアーに参加した客のひとりだ。
ツアー参加は無料でいいと言うから、物見遊山として参加したが本当になにもない街に連れて来られてしまった。
これでは無駄に1泊2日を過ごしてしまうことになる。
何かいい話は……。
「あちらからミラーシア湖が見えるそうだぞ」
「ああ、見てきた。さすがは王族の保養地、雄大な景色だったな」
ああ、そうだ。
ミラーシア湖は王族の保養地だった。
そこに来たのだから、その眺めを堪能しないわけにも行くまい。
そう考え展望台に足を運ぶと、立派な服に身を包み騎士たちに守られた青年が景色を見渡していた。
このお方、もしや……。
「おや? ああ、すまない。人がいなかったからこちら側からの景色を堪能させてもらったが、ミラーシア湖というのは見る場所によって姿がまるで違うね」
「やはりあなた様は第一王子殿下でございますか!?」
「まあね。ああ、今回の旅はあくまで視察なんだ。街がどの程度できているかって事のね。街自体は完成しているようだけど、まだまだ人を呼び込めていないみたいだな」
「そ、そのようでございますな」
「ブレインとしてついているフェデラーが何も考えていないはずがないと思うが、ちょっと心配だね。せめて、もう少し店が増えればいいのに」
「左様でございます。ですが、儲かるかわからない街に出資する商会も少ないでしょう」
「儲かるかどうかか。それなら、僕の持っている商会を動かそうか。早めに動けば、大きな見返りが取れそうだ」
「は?」
「なに、こっちの話だよ。それでは、邪魔をしたね。ゆっくりと観光を楽しむといいよ」
第一王子殿下は行ってしまわれた。
殿下はこの街に何を見いだしたというのだ?
確かに、ここからの眺めは素晴らしかったが……それだけで人が集まる都市になるというのだろうか?
その後、夕食として出された食事は格別に美味かった。
なんと言っても野菜の味が格別だ。
近くにあるアグリーノ産かと尋ねれば、この街の農家が作った野菜と聞く。
そちらに焦点を合わせた街作りをすれば街ももっと活気づく気がするのだが……。
そんな考えを見事に吹き飛ばしてくれた施設があった。
温泉という風呂だ。
利用するには別料金がかかるらしいが、湯からかすかに変わった匂いがただよいその湯につかっていると肌がつるつるになる。
これは女性客に向けてヒットする!
個室風呂が楽しめるのは私が利用している最上級ホテルだけのようだが、他のホテルでも利用可能なようだ。
なるほど、これが観光の基軸か。
あとは、様々な出店さえあれば問題ないと。
主催者の思惑にまんまと乗せられるようだが、ここは一口噛ませてもらおうじゃないか。
だが、その考えも翌日には砕け散る。
第一王子殿下が利用した最上級部屋からはミラーシア湖が見えるらしいのだ!
最上級である5部屋からのみ見えるらしいがこれは熾烈な争いになる。
各街がこの5部屋をめぐって予約競争になるのは必須だ。
第一王子殿下がお泊まりになったというのも箔がつく。
これは施設の充実への貢献度合いも含め、部屋の奪い合いも過酷な街になるようだ!
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***アウラ
「ねえ、クロさん。最初に行った観光客の受け入れ以降、出資の申し入れがすごいんだけど」
「早速かかりましたか」
「第一王子殿下も来ていたとは聞いたけど、なにかした?」
「ちょっと釣り糸を垂らしただけでございます。出資の選別はフェデラー様がお得意かと」
「あ、うん」
クロさんもやっぱり腹黒いな。
でも、これで観光都市としても稼働できそうだし、よかったのかな?
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