第3部 アウラ領、開発中

39. アウラ邸のお披露目

 屋敷に引っ越して1週間後、女王陛下たちがやっていた。

 外国との交渉に出ていた王配殿下も来ているってことは、本当に全員集合だね。

 それから、今回はほかの貴族家の皆様が一緒に来ている。

 都合のあった女王陛下のお友達らしいけど、どういう関係か……。

 とりあえず、いまは自慢の湯殿に入ってもらっている。


「女王陛下、一体どういう差し金ですか? いきなりほかの貴族を連れてくるだなんて」


「あら、アウラにも貴族の知り合いを増やしておいた方がいいと思っただけよ。あなたも名誉貴族とは言え貴族の端くれ、知り合いは多い方がいいでしょう?」


「それは……まあ、そうですけれど」


「今日は公爵と侯爵しか連れてきていないの。どの家も私よりの家だし、あなたにも興味津々。悪いようになりはしないわ。それに……」


「それに?」


「今回連れてきた貴族家のひとつ、ツバキ侯爵家はこのアウラ領の真南で境界を接しているもの。仲良くしておいた方がいいわよ」


 なるほど、そこまで考えてくれていたんだ。

 突発的な訪問であたしを驚かせたいだけなのかと思ってた。


「あなたを驚かせたかったのと、いきなり大量の貴族が来ても対応できるかのテストでもあるけどね」


 ……やっぱりそっちもあった。

 期待できないなぁ。


 各家の皆様がお風呂を終えて帰ってきた言葉は、素晴らしいの一言だった。

 我が家にもほしいといわれけれど、お湯はともかく温泉はどうにもならないんだよね。

 ヘファイストスもお湯を無限に沸き出させる魔導具を作るには太古の素材を使うしかない、ってはっきり言って断っていたし。

 現代でも補充がきく素材ならヘファイストスはあまり出し惜しみしないんだけど、今の時代で代替素材が見つかっていない物は基本的にあたしのため以外は作らない方針なんだ。

 ヘファイストスも代替素材が見つかれば作るといっていたし、各貴族家の皆様も本気で悩んでいたね。

 そんなに気に入ってくれたのかな?


 さて、お風呂が終わったらディナーの時間。

 シーナさんが作った野菜だけのフルコースに一同舌鼓を打つとともに、野菜だけでも満足できるフルコースが作れることに驚愕しているみたい。

 いまだって食後のお茶を楽しみながら先ほどのフルコースの話題に終始しているもの。


「いや、野菜だけのフルコースと聞いて侮られているのかと考えていましたが……侮っていたのは私たちの方でしたな」


「確かに。野菜だけであってもあれほどしっかりと味と満足感を与えてくれるなど驚きだ」


「アウラ卿、どこであのようなシェフを見つけてきたのですかな?」


「はい。フェデラーとクスイが華都の下町で見つけてくれました。そこで野菜の研究をして生活をしていたようです」


「華都の下町で野菜の研究……ですの?」


「はい。そうですが、なにか?」


「いえ、そのお方、シーナというのではなくて?」


 あれ、シーナさんの名前が出てきた。

 そんなに有名人なんだろうか。


「はい。シーナですがなにか?」


「いえ、シーナという女性は野菜料理を極めるために華都にある最高級レストランすら飛び出した偏屈者と聞いておりましたもので……」


「そうですわね。貴族の間では有名なのです。『野菜狂いのシーナ』の名は」


「『野菜狂い』……否定できません」


 シーナさん、こちらに移ってからも野菜の研究を欠かさないからね。

 水龍様がシーナさんが捧げた貢ぎ物の野菜を気に入ったおかげで、1日に何回も収穫できる。

 それをいいことにあたしが来るまでの間にもどんどん野菜の品質を向上させていたらしい。

 確かに『野菜狂い』だ。


「しかし、この家は本当に羨ましい。お願いして別の客室も見せていただいたが、どの部屋からもミラーシア湖が一望できる。本当にいい場所を見つけたものだ」


 そう発言したのはツバキ侯爵。

 この方の家はミラーシア湖の南にあるからこそ余計羨ましいのかもしれないね。


「お褒めいただきありがとうございます。この山を探すのもかなり手間取りました」


「そうであろうな。しかし、南側の観光ルートも閉鎖されてしまった。そこはなんとかならんかね?」


 観光ルートか……。

 あたしがこの土地を正式に引き継いだあと、状況確認ができていないから国定公園も閉鎖したんだよね。

 果たしてどうしたものか。


「ツバキ侯爵、その話は場をあらためよ。アウラ卿も困っている。この地を引き継いだばかりなのだ。慣れていないこともあるだろう。それに南側のルートは我ら王族の保養地につながる橋も近い。より慎重になるだろう」


 助け船を出してくれたのは王配殿下。

 本当に助かった。

 貴族の腹芸なんてあたしには無理だね。


「はっ。それでは、またいずれ落ち着いたときにでも会談の場を持ちましょう」


「それがよい。アウラ卿も問題ないな」


「はい。その日までに周辺調査を終わらせておきます」


 周辺調査か、あたしじゃ穴が開きそうだから女王陛下から貸していただいている防衛隊にお任せしよう。

 このことを女王陛下に聞かれると『あなたにあげた軍隊よ』と言われてしまうけれど、あたしは借りたつもりだ。

 状況が落ち着いたら彼らの装備もあたしの作る装備に変えてあげなくちゃ。


 ツバキ侯爵との話が終わったところでまた別の貴族から声をかけられた。

 今度はなんだろう?


「そういえば、アウラ卿は素材があれば武器や防具を作る魔法を使えるのだったか」


「はい。ある程度なら作れます。イメージさえもらえれば複雑な装飾を施した装備も可能ですね」


「なるほど。それでは妻に贈るドレスなどは作れるか?」


 ドレス、ドレスか……。


「申し訳ありません。ドレスを作るには相当複雑なイメージが必要になります」


「複雑とは?」


「生地の質感や装飾、くびれの位置、内側の生地の装飾などすべてのイメージをもらわないと作れません。体型ぴったりに合わせないといけないものはそれらがすべて必要です」


「なるほど、そこまで万能ではないか」


「はい。何事もうまくはいきません。あたしひとりでできるのは……」


 あたしはインゴットにした魔銀鉱を取り出し鍛冶魔法を使う。

 それを金属布に変えて、作りあげたのは1着のワンピース。

 かなりサイズにゆとりがあり、誰でも着ることができそうなものだ。

 無論、貴族が着るようなものではない。


「これが限界ですね。これでもいろいろと細工はしてありますが」


「ほほう、どのような細工かね?」


「重さの軽減と防御力のアップです。大抵の攻撃は衝撃を受けるだけで破れはしません。重さも普通の布より軽いです」


「ふむ、貸してもらえるか?」


 あたしはその貴族に完成した服を渡した。

 その人は服を引っ張って破こうとしたが、引っ張ったあとすらつかない。

 さすがあたし、最低限の仕事はできてる!


「なるほど。これで鎧下を作れば……」


「はいはい、この話はこれでおしまい。ほかの話をしましょう」


「お、おお、そうですな、アンブロシア女王陛下」


 これで鍛冶魔法についての話はおしまいになった。

 そのあとは当たり障りのない話や、リードアローの状況などを話し合って解散。

 ただ、解散する前に女王陛下から呼び出されてちょっと注意を受けることになった。


「アウラ、鍛冶魔法のことはあまり貴族には話すべきではないのかもしれないわ」


「え?」


「あの男、鍛冶魔法で作った服で防具を作るつもりだったのよ。あなたならサイズだけ同じな服を百や二百作るのは簡単でしょう?」


「は、はい」


「そう言った連中がいるから、貴族家の間で鍛冶魔法の話題はあまりするものではないわ。私もうかつだったけどね」


「わかりました。今後は気を付けます」


「よろしい。それじゃあ、おやすみ」


「はい。おやすみなさいませ」


 うーん、鍛冶魔法を使ってこの国の役に立とうと思っていたんだけどなぁ。

 単純に鍛冶魔法を使って装備を作っただけじゃ戦乱の火種にもなりかねないのか。

 貴族の付き合いって難しい……。

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