38. アウラ邸へお引っ越し

 それから1週間はとにかく大変だった。

 フェデラーとクスイをミラーシア湖にある屋敷に連れて行いき、屋敷の形や雰囲気を覚えさせると屋敷のインテリアを買い付ける作業を本格化させた。

 花を生ける花瓶とかローテーブルとか本棚とかたくさんのカーペットとか。

 これらだけでも白金貨が10枚近くなくなった。

 貴族のお屋敷を建てるってすごい。


 あとは本棚に入れる書物。

 これもイミテーションじゃなくてしっかりとした物を入れるのが礼儀なんだってさ。

 あたしとしては装備や調度品を作る際のデザイン見本になるような本が欲しかったら丁度よかった。

 だけど、ほかにも魔法学入門書や幼児向け言語教本からあたしにはよくわからない難しい本まで幅広く取りそろえたよ。

 その本棚に詰める本代でも白金貨が数枚消えたし、お屋敷って怖い。


 それから、忘れてはいけないのはお屋敷で暮らすために必要な食料の買い出し。

 最寄りの街まで半日近くかかるということから、日持ちのする食べ物を揃えてくれたんだけど、それだけだと味気なくなってしまう。

 水龍に頼んでお野菜を一気に生長させるとかできないか聞いてみよう。


 結局もらった白金貨のほとんどを使い切り、フェデラーとクスイが求めるようなクリスタルの置物を作っているとシーナさんとの約束の1週間が過ぎてしまった。

 この日はほかの屋敷の使用人も含めて全員がミラーシア湖の屋敷に向かい始める日らしい。

 あたしには2週間後に引っ越してきてほしいそうだ。

 出発前にあたしが挨拶をしたんだけど、ちゃんと喋られていただろうか?

 フェデラーとクスイたちはそのままシーナさんを拾ってミラーシア湖へ向かうらしい。

 あたしは……追っていくわけにもいかないから、王宮で待たせてもらうかな。

 あるいは在庫が減ってしまったクリスタルを補充するため、どこかでゴーレムを倒してくるか。

 ……うん、エリスにことわってルインハンターズギルドに行ったらゴーレムの目撃情報がないかを聞いてゴーレム狩りにしよう。

 セイクリッドシルバーゴーレムが結構減ったし、アイアンゴーレムもかなり減った。

 いざというときのために素材を持っていてもバチは当たらないよね?

 いや、いまでも多いんだろうけどさ。



********************



 ゴーレム狩りに行ったりエリスやユニリス様の相手をしたりしているうちに2週間が過ぎてしまった。

 季節はもう春、ヘファイストスと出会って1年が経つ頃だ。

 なんだかこの1年でいろいろあったなぁ……。


「今日出発ですか、アウラ様」


「エリス」


 駐機場に止められたヘファイストスを見上げながらぼんやりしていると、エリスから声をかけられた。

 エリスと出会ったのは秋の終わりくらいだから、4カ月くらいの付き合いかな?


「ミラーシア湖のお屋敷、今日から使うのですね」


「その予定。フェデラーとクスイが予定を間違えることなんてないよ」


「私も落ち着いたら遊びにいきますからね。絶対ですよ」


「うん。遊びに来てよ。待ってるからさ。部屋も用意してあるんだし」


「ユニリスも連れて遊びにいきます。あの子もシルキーで出かけたがっていますし」


 あはは……。

 遂に王宮や王城内だけでは満足できなくなってきたか。

 いつかはこうなるはずだろうと思っていたけど、早かったなぁ。


「まあ、シルキーがあるおかげで普段のお勉強にも精力的に取り組んでいるようですし、安全な範囲で遊ばせることも大事でしょう」


「勝手なことはシルキー自身がさせないか」


「そう信じております」


 シルキーが自意識を持つマナトレーシングフレームで助かったよ。

 勝手に出ていけないもの。

 防衛能力も高いし。


「さて、あまりお引き留めしてもいけません。いずれまた」


「うん。その時って正式な登城手続きがいるのかな?」


「いりませんよ。王宮に直接乗りつける許可も貴族のエンブレムに書かれているはずです」


「そうなんだ。あとで見てみるね」


「はい。それでは、ミラーシア湖まで短い空の旅をごゆっくり」


「ありがとう、またね、エリス」


「また、アウラ様」


 あたしはこの数カ月ほどですっかり住み慣れてしまった王宮を離れ、一路ミラーシア湖へと飛んでいく。

 飛んでいく途中で貴族のエンブレムを確認したんだけど、エリスの言う通り、きちんと姿を見せながらゆっくりと接近する分には、あたしとヘファイストスは王宮に直接乗りつけられるらしい。

 これってとんでもない優遇だよね。

 その際の駐機位置の指定まであって、駐機位置はいままで使っていた場所ではなくティターニアの向かい側。

 ここまで厚遇されているんだ。


「うーん、あたしって本当にVIP待遇。ここまで厚遇されるなら国に貢献して見せないとね」


 あたしが貢献できる分野ってなんだろう?

 魔法鍛冶による装備の提供?

 でも、それも違う気がするし。

 ヘファイストスを使えば強いエンシェントフレームを素材が続く限り提供できるけれど、きっとそれも望まれてはいない。

 ああ、頭が痛くなってきた。


『アウラ、屋敷が見えてきたぞ』


「え、あ、本当だ」


『なにか考えごとをしていたのか?』


「うん。あたしってどうやればこの国の役に立てるのかなって」


『悪い考えではないな。可能な範囲で私も相談に乗ろう。だがまずは屋敷の皆に顔を見せねば』


「そうだね。ヘファイストス、屋敷の玄関前までお願い!」


『心得た!』


 普段は駐機場で乗り降りすることになるだろうけど、今日は特別玄関前で降りてしまおう。

 駐機場へはヘファイストスにひとりで行ってもらうことにした。

 あたしが近づいていくと玄関前にたくさんの人が集まっているのが見え、その中心にフェデラーとクスイがいるのも見えた。

 これは全使用人そろってのお出迎えかな?

 ヘファイストスが地上に降り立ち、あたしが地上に降りるとヘファイストスの大きさに驚いていた使用人たちも気を引き締め直したみたい。

 そしてフェデラーのかけ声で一斉に礼をとった。


「お帰りなさいませ。アウラお嬢様」


「「「お帰りなさいませ」」」


「うん、ただいま。出迎えご苦労様」


 さて、このお屋敷が今日からあたしの城だ。

 ルインハンター時代は家を構えるだなんてまったく考えていなかったけど、名誉職とはいえ伯爵位までもらったんだもの、気合いを入れていかなくちゃ!

 これからも頑張って行くぞー!

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