第3章 王宮での暮らし

27. ユニリスの小さなわがまま、特別なエンシェントフレーム

 あたしことアウラはマナストリア聖華国で土地の領主様になりました。

 うん、よくわからない。

 あたしもよくわからない。


 とりあえずあたしがもらったミラーシア湖という場所に向かうのは春先とし、いまはその準備期間。

 なにを準備するかというと、あちらに行ったあとお屋敷を管理する執事やメイド、ボーイなどの家人や、家の防備をになう警備員など、要するに屋敷の使用人たちだ。

 あたしはのんびりひとり暮らしでもいいって言ったんだけど、それはマナストリア王家一同の反対にあって却下された。

 あたし、ひとりでも暮らせるのに。


 ともかくミラーシア湖に新しく準備するお屋敷の住人を探している間、あたしは基本的に暇なわけだ。

 その空いた時間を利用し、王家の皆様に妖精太陽銀と妖精月銀のレイピアを作って差し上げようとしたら、ものすごい騒ぎになってしまった。

 全員が全員専属の騎士やデザイナーたちから意見を聞き、宝飾品なども集めてデザインにも機能性にも優れたレイピアを作っていく。

 そして完成したレイピアを自慢しあい、決闘騒ぎになる寸前までいったよ。

 女王陛下も含めてね。

 そんなにこのレイピアって意味があるんだ。

 ついでにこのレイピアの依頼料として屋敷の使用人の賃金は、今後100年マナストリア王家が支払ってくれることとなった。

 そんなつもりじゃなかったのに……。


 ただ、ひとりだけレイピア作りに参加しなかった兄妹がいる。

 末っ子のユニリス様だ。

 彼女の望みはもっと別のもの。

 かわいらしいわががまなんだけど、ちょっとねぇ……。


「ユニリス、あまりアウラ様を困らせてはダメですよ」


「でも! 私はエンシェントフレームがほしいの!」


「はあ。この子のエンシェントフレーム好きには困ったものです」


 毎日毎日ユニリス様はエリスの離宮までやってきてエンシェントフレームをせがんでくる。

 ただ、エンシェントフレームは基本戦うための兵器であって子供のオモチャじゃないんだよね。

 そこをわかってもらうにはどうすればいいのか……。


「ねえ! ヘファイストスならわかるよね!」


 ユニリス様はヘファイストスに直接話しかけた。

 ヘファイストスはどう考えているんだろう?


『わからないでもない。だが、エンシェントフレームは戦闘のための機械兵だ。ユニリスには早すぎる』


「うー……」


『そこでこうしよう。戦闘のためではないエンシェントフレームを造る。具体的には我のダウングレードモデルだ』


「え?」


『エンシェントフレームの整備や装備の手入れなどをメインとするエンシェントフレームを造る。それで手を打て』


 エンシェントフレーム用のエンシェントフレームを造るって……そういう問題!?

 これって女王様の許可がいるんじゃないの!?


「わかった! それでいい!」


「エリス、どうすればいいの?」


「……お母様に報告して参ります。ただ、ヘファイストス様の意向も入っている以上、阻止も難しいかと」


「だよね……」


 エリスが女王陛下に事情説明に行くと女王陛下もやってきて細かい仕様調整が始まった。

 ざっくり言えば、とにかく装甲は厚く頑丈にする、兵装は必要なとき以外展開できない、決まった範囲から外に出られない、などの要望を受け、ヘファイストスもそれを受領してユニリス様のエンシェントフレーム作りが始められることとなる。

 場所は広い場所がいいということだったため、王城内にあるエンシェントフレームの整備工場の一角を間借りした。

 なんだか作業員の皆様には申し訳ない……。

 女王陛下はほかの仕事があるということでお戻りになったけど、大丈夫かな。


「エリクシール殿下。本当に新しいエンシェントフレームを造るんですか?」


「そうらしいです、工場長。造るのはあちらのマナトレーシングフレームのヘファイストス様です」


「マナトレーシングフレームがエンシェントフレームを造る、ねぇ……」


「どうもヘファイストス様の専門はエンシェントフレームの整備や修理、生産だったようですので……」


「それは気になるな。おう、ヘファイストスって言ったか? 俺たち作業員も作業を見ていて構わんか?」


『構わない。今回は一気に造ってしまうのであまり参考にはならないだろうが、よければエンシェントフレームの整備や製造方法の解説もしよう』


「そいつは助かる。おう、手の空いているもんは全員こっちに来い! エンシェントフレーム造りの見学だ!」


 工場長の一声で作業員がわらわらと集まりだした。

 これ、すごいことになるんじゃないの?


『さて、作り方だが……アウラ、聖銀鉱と魔銀鉱、命晶核をゴーレム一台の半分近く使ってもいいか?』


「ずいぶん使うのね。構わないけど、どんなものを作るの?」


『我と同じ思想で作られる機械兵だ。いまの技術では整備不能だろうから、強固な自己再生能力をつけておく』


「わかった。でも、それって盗まれない?」


『そちらの対策もしておく。とりあえず鉱石を並べてくれ』


「はいはい。よっと」


 あたしはリクエストのあった聖銀鉱と魔銀鉱、命晶核を取り出した。

 これだけでも結構ざわつくけれど、慣れたものだ。

 いい加減、何回も取り出しているからね。


「ヘファイストス、このあとはどうすればいい?」


『アウラも見ていてほしい。鍛冶魔法で作ることはできるが、かなり繊細な作業になるからな』


「わかった。しっかり見学させてもらうよ」


『よろしい。では、始める』


 ヘファイストスが鉱石類に魔力を流し始めると、次々と鉱石が分断されてパーツができていく。

 というか、完成していくパーツはすべて人骨を模したパーツばかり。

 それが組み合わさって人型の模型となったところ、次の作業に入ったみたい。


 次は各金属が繊維のように細くなり、組み合わさってねじれたりしながらさっきの模型へとはりついていく。

 ひょっとしてこれって人の筋肉の模写?

 筋肉とは言っても金属の輝きを帯びた、白い装甲みたいな感じなんだけどね。

 そのまま全身に筋肉らしきものが貼り終わった段階で第二工程は終了らしかった。


『さて、人工筋肉の貼り付けまで終了だ。久しぶりの作業、さすがに疲れた』


「いや、疲れたって。2時間経っていないから」


『そうか? ともかく稼働テストをせねばなるまい。アウラ、乗り込んで各部を動かしてみてくれ。駆動系も我と一緒なのでお前なら問題なく動かせる』


「はいはい。コクピットは首の裏?」


『ああ。いまハッチを開ける』


 あたしはヘファイストスに言われるままコクピットに搭乗した。

 そしてヘファイストスの指示の元、様々な動作チェックを行っていく。

 いまのところはオールクリアだね。


『さて、次だ。我と同じように動いてみてくれ』


「わかった……って!?」


 ヘファイストスは両腕を伸ばした状態から手を組み合わせ、それをひっくり返して伸ばした。

 ええ!?

 そんな動きできたの!?

 集まっている人たちもみんなざわついているし!


『どうした、早くやってみろ』


「いや、やってみろって。普通のエンシェントフレームはそんな人間的な動きはできないよ?」


『人間的な動きができるよう、人間の筋肉を模写した人工筋肉で駆動系を構築してある。機体各所の間接部もそれにあわせて伸縮回転するようになっているから、人と同じように動くぞ』


「ええと、本当に壊れない?」


『壊れん。さあ、試してみよ』


「わかった。えい……本当にできた」


 あたしが乗っているエンシェントフレームの方も、同じように体を動かすことができた。

 そのあともヘファイストスが指示する複雑なポーズが次々できちゃうし……この機体、なに?

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