26. 妖精太陽銀と妖精月銀の取引
謁見のあった翌日、あたしは王宮の中庭へと案内された。
どうやらここで妖精太陽銀と妖精月銀を取引するらしい。
あの山、なくならないかな。
「あ、お母様たちがいました」
隣に並んでいたエリスが声をかけてきた。
目を向ければ女王陛下にユニリス様、それから男女3人がテーブルに座っている。
昨日の夜にエリスから説明を受けているけど、彼らがエリスの兄弟かな?
「お母様、遅くなりました」
「気にしないで。私たちが先に来てお茶を楽しんでいただけだもの」
最初に話したのは女王陛下。
名前はアンブロシア女王。
妖精族だけどまだまだお若いそう。
エリスもあたしより若いんだから当然かもね。
「そうですね、お母様。なにか理由がなければ王族が全員集合だなんてなかなかできませんから」
次に話したのはエリスのお兄さんで第一王子のネクタル王子。
エリスとは10歳ちょっとの差らしい。
既に結婚もしていて普段は離宮で妻と一緒に暮らしているのだとか。
ちなみに、王位継承権は第3位だ。
「エリス姉様も帰って早々なかなかの爆弾を持ってきました。王家でも底をつき始めていた妖精太陽銀と妖精月銀を入手できるだなんて。ありがたい話です」
三番目は第二王女のファミル王女。
彼女も既に婚約者がいてあと数年もすれば挙式なんだとか。
その際に王家から抜けるので、いまは王位継承権は第4位だがそれも放棄する予定なんだって。
「そうだな。でも、妖精太陽銀と妖精月銀は本当にありがたいよ。ファミルの結婚式で使う装飾品にすら困っていたからな。金があってもものがないんじゃどうにも……」
四番目は第二王子のソーマ王子。
この国の第3位王位継承権保持者でエリスの弟、今年で15歳なんだとか。
「妖精太陽銀と妖精月銀ってそんなに少ないの? 知らなかったなぁ」
最後は末っ子のユニリス王女。
王位継承権は5番目で今年6歳になる。
エンシェントフレーム好きでいなくなったときはエンシェントフレーム関連の場所に行けば大抵見つかるそうだ。
全員が全員緑系の髪と青系の羽をしている。
個人個人で明るかったり暗かったり、濃かったり薄かったりと様々だけど家族らしい。
なお、父にあたる王配殿下はいまマナストリアにいないそうだ。
現在は別の国に行き外交交渉にあたっているらしい。
元々、外務経験の豊富な貴族だったらしいからそちらはお手の物だとか。
「ともかく、エリスたちも来たのです。まずはお茶にしましょう。ふたりも座って」
「はい、お母様」
「失礼いたします」
あたしたちも促されて席に着く。
するとお茶が出されてほんのりいい香りがただよってきた。
うん、落ち着くね。
「それで、アウラ。妖精太陽銀と妖精月銀は一山と言っていたけれどどのくらいあるの?」
あたしがお茶を飲み終えたタイミングでアンブロシア女王が話しかけてきた。
どのくらい、どのくらいか……。
「申し訳ありません、一山としか言えないです。あまりにも多くて測る気にもならなかったもので」
「それって本当なの、エリス?」
「本当ですよ、お母様。私も装備を作ってもらうときに見ましたが本当に山でした。さすがに武器を持ち込むのはよくないだろうと考え離宮に置いてきましたが、鎧を持ってきてあります。そちらは妖精太陽銀と妖精月銀の合金ですのでお確かめください」
エリスはメイドに持たせていた鎧を出させる。
その鎧を見てユニリス様以外は目を丸くしていたね。
ユニリス様は目をキラキラ輝かせていたよ。
「……驚いた。見ただけでもわかる、これは本当に妖精太陽銀と妖精月銀でできているな」
「そうだな、兄上。純粋なものかはわからないが間違いなく太陽銀と月銀製だ」
「本当です。お姉様、高かったのでは?」
「お友達価格として安く譲っていただきました。正確にはまだ対価を決めていません」
「……これだけのものの対価、どうやって支払うつもりだ、エリス」
「まあ、そこは追々」
そのあとも兄妹のやりとりが続く中、アンブロシア女王だけは鎧をマジマジと見続けて不意に鎧を手に取った。
そしてその重さに驚いていたようだ。
「……これだけの鎧なのに重さを感じない?」
「はい。アウラ様に重量無効というエンチャントをかけていただきました。それ以外にも様々なエンチャントを施していただいております」
「アウラ、これを真面目に手に入れようと思ったら国家予算クラスよ?」
「……まあ、それも追々」
……そんなに高価な鎧なんだ、あれって。
結構気軽に楽しんで作っちゃったけどまずかったかな?
「とりあえず娘の金銭感覚は置いておきましょう。どこか抜け落ちています」
「お母様、ひどいです」
「ひどいことを言われたくなければしっかりとした感覚を持ちなさい。さて、アウラ。実際の妖精太陽銀と妖精月銀をお見せいただけますか?」
「わかりました。あちらに出して構いませんか?」
「庭を荒らさない場所でしたらどこに出していただいても構いませんよ」
庭を荒らさない場所か。
結構手狭だから、どちらかずつしかおけないな。
「では先に妖精月銀を置きますね」
「先に? 一緒にではなく?」
「同時に出すスペースがないんです。いきますよ」
あたしは庭の一角に妖精月銀の山を出した。
エリスの装備やドレスに使ったんだけど、それだってこの山からすれば微量だ。
高さ3メートル、幅5メートルくらいある山だからね。
「……それが、すべて妖精月銀ですか?」
「はい。純妖精月銀の山です。買い取っていただけますか、アンブロシア女王」
「ええと……財務大臣、無理よね?」
「無理ですね。妖精太陽銀も買うことを考えれば半分どころか4分の1も買えません」
「えぇ……」
減ると思ったのに……。
「ちなみに妖精太陽銀はどれくらいの大きさなの?」
「これよりも少し小さいくらいの山です。こちらも買えませんか?」
「無理ね。本来、妖精太陽銀と妖精月銀はこの鎧を作る量だけでもエリスが持つ個人予算の数年分がなくなるものなの。この鎧はそのうえ強力なエンチャントもかけられ、装飾も見事だし十年分の予算はなくなるんじゃないかしら? 対価に別荘をひとつなんて言いだしたときは何事かと思ったけど、あまりにも安すぎる対価ね」
「そ、そうなんですか」
王族の別荘ってだけで腰が引けているのにそれでも安いだなんて……。
おのれフェアリニウムゴーレム、あたしにとんでもない爆弾を押しつけてくれちゃって!
「ふむ……ちなみにエリス、どこの別荘を譲る予定だったの?」
「ミラーシア湖の湖畔にある別荘です。それがどうかしたのですか、お母様?」
「よし。アウラ、あなたにミラーシア湖周辺の土地をすべて差し上げます。あそこは王家直轄領ですから誰にも文句は言われません。あと、爵位とかもほしければ差し上げますよ?」
湖周辺の土地が丸々手に入るだけじゃなくて爵位も!?
もう、なにがなんだか……。
「その土地、もらわなくちゃダメですか?」
「できればもらっていただきたいです。そうすれば、その妖精太陽銀と妖精月銀の半分程度は買い取りと王家への献上品としていいわけが立ちます。その見返りとしてミラーシア湖を与えると宣言すれば文句も出ないでしょう」
「わかりました。でも、爵位はいらないです。あたしは幼い頃からルインハンターをやっていただけの田舎者なので、貴族になってもなにがなんだかわかりません」
「後見人や指導者はこちらで善良な者を用意するのですが……気が向いたら言ってくださいね」
気が向いたら貴族様になれちゃうのか、あたし。
ヘファイストスを手に入れてから世界が変わっちゃったなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます