28. 修理専門マナトレーシングフレーム『シルキー』

 とてつもなく可動域が広いことを思い知らされたあたしたち一同。

 ユニリス様は楽しそうにはしゃぐだけだけど、これってとっても重要なことだからね?


「ねえ、ヘファイストス。あなたもなんだけど、壊れた場合ってどうすればいいの? 誰も直せないでしょう?」


『それか。心配するな。我には再生の能力があるので重要部分が破壊されない限りは1日で元通りだ。そちらの機体も再生魔法を施し、機体各所に命晶核を組み込んである。壊れても3日ほどで動けるようになるだろう』


「それはそれで怖いんだけど……」


 とんでもなく再生能力の高い機体だった。

 これ、本当にユニリス様へ渡してもいいんだろうか?


『動作テストは終わったな。次は装甲をつけねば。アウラ、降りてくれ。それから、妖精銀がほしい』


「あ、うん」


 あたしはリクエスト通りにエンシェントフレームから降りて妖精銀の山を出した。

 なんに使うのかを聞いたんだけど、妖精銀はエンシェントフレームの外部装甲に使うと魔力を蓄えて自身の防御力を上げつつ、魔力タンクとしての役割も果たしてくれるそうだ。

 ヘファイストスの時代にも似たような性質を持つ金属があり、こっそりテストもしたらしいから間違いないって。

 よくやるよ、本当に。


 ヘファイストスは妖精銀と聖銀鉱を使って新しいエンシェントフレームの装甲を作りあげていく。

 全体的なシルエットはヘファイストスに似た感じだけど、丸みを帯びていて女性的な印象を受ける、そんな感じだ。

 頭部のカメラアイは十字型に4つ配置。

 ヘファイストスいわく、これ以外にもカメラは搭載しているそうだけど、内緒だって。

 全体が銀色にうっすらと輝く緑色の装甲に包まれるまで1時間ちょっと、サイズは12メートル級のエンシェントフレームが完成した。


『さて、仕上げだな。ユニリス、この機体の色は何色がいい?』


「色? 装甲の色も指定できるの!?」


『いまはまだ起動していないからな。いくらでも変えられる』


「じゃあ空の青がいい! 青空みたいなきれいな青!」


『空の青か……それだけではつまらないな。こういうのはどうだ?』


 ユニリス様の指定は空の青だったけれど、それ一色だと面白みがないと判断したヘファイストスは濃い青から空の青色までグラデーションがかかった装甲を作り出した。

 装甲のパーツごとに色分けされている部分もあって青系ばかりなのにとても鮮やかに見えるよ。

 ヘファイストス、こんなことまでできたんだ。


『ユニリス、これでいいか?』


「うん! この色がいい!」


『では色を固着する。装甲も内部などと同じように時間経過で修復される。一時しのぎで別の金属を貼り付けて塞ぐことも可能だが、修復する際、その金属は取り込まれてなくなることも忘れるな』


 注意事項を告げると、ヘファイストスはエンシェントフレームに魔法をかけたみたいで、エンシェントフレームの全身が光り輝いた。

 多分、あれが色の固着なんだろう。

 これで、いよいよ完成かな?


『さて、あとは機体名称の登録だ。ユニリス、お前はこの機体になんという名前をつける?』


「お名前? このエンシェントフレームにお名前をつけるの?」


『ああ、そうだ。早く決めてやるといい』


「うーん。じゃあ、『シルキー』がいいな!」


『〝シルキー〟か、了解した。お前の名称は〝シルキー〟だ』


『Yes. My name is “Silky”』


 え、喋った!?

 これにはユニリス様を含め、この場にいる全員が驚きの表情を浮かべている。

 話すことができるエンシェントフレームって……マナトレーシングフレームじゃない!


『ふむ、起動したてでは言語学習範囲に問題があるか』


「問題があるかって! あれ、マナトレーシングフレームでしょ!?」


『我が作る機械兵が話し考えることができなくてどうする?』


「いや、そうじゃなくて!」


『ともかく、シルキーは完成した。ユニリス、しばらくシルキーの話し相手になるといい』


「私が?」


『お前用のエンシェントフレームだ。いまはまだいろいろと学習せねばならない。まずは言語部分を理解するためにもいろいろと話をし、この時代の言語を教えるのだ』


「わかった! シルキーのところに行ってくる!」


 ユニリス様はパタパタとシルキーのところまで飛んでいき、いろいろとおしゃべりを始めた。

 それを追いかけてほかのみんなもシルキーの方に行っちゃったね。

 いまのところユニリス様が一方的に話しかけているだけだけど、それも学習しているだけで今後どうなるか。

 その様子を見ていたヘファイストスだったけど、問題がないことを確かめると残った鉱石の山に手を伸ばし、再度作業を始めた。

 今度はなにを作るんだろう?


「ヘファイストス、どうしたの?」


『シルキーの兵装を造る。シルキーは何の武装も持たない、いわば素体だ。戦う機会がないのならそれでも構わないのだろうが、いざというときの備えはあった方がいいだろう』


「まあね。なにを造るの?」


『簡単な片手剣とあれに与えた属性である旋風の力を放出するための放出機。それからバックパックには飛行用の翼と魔力備蓄用のタンクを。脚部にはほかの機体をメンテナンスする際に使う特殊工具をつけようか』


 うわあ、至れり尽くせり。

 あれ、でも、鍛冶魔法は与えてないのかな?


「ヘファイストス。シルキーって鍛冶魔法や再生魔法は使えないの?」


『与えてはいるが熟達するまでは精度が低い。私とて長い年月を後方支援として数多くこなすことでいまの技術力がある』


「なるほどね。でも、再生魔法が使えるならメンテナンス用の工具って必要?」


『多少の傷ならば弱い再生魔法でもなんとかなる。だが、脚部や腕部が損壊した場合などは再生魔法ではどうにもならないだろう。本来ならば原材料から鍛冶魔法ですぐに修復すべきだろうが、それもままならないうちはメンテナンス用の工具を使って予備のパーツと交換だ』


 うーん、初めは何事もうまくいかないものなんだね。

 あたしも最初はヘファイストスを動かすことさえできなかったから、そういうものか。


 いろいろと言葉を教えるみんなを尻目に黙々と追加兵装を作り続けるヘファイストス。

 あたしはそんな様子を見守りながら、新しく増えたシルキーに思いをはせる。

 シルキーってヘファイストスからみれば久しぶりの仲間なんだよね。

 いろいろと優遇したくなるのも当然か。

 ユニリス様もこれから苦労するだろうけど、頑張ってもらおう。

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