21. マナストリア聖華国入国
あたしたち一行はそのままリードアロー王国の襲撃を受けることもなく国境線だという場所までたどり着いた。
そしてそこにはエリスの護衛についているエンシェントフレームに似たエンシェントフレーム隊が待ち構えている。
誰もあまり警戒しないということはマナストリア聖華国の部隊なんだね。
私たちが近づいていくと、そのうちの1機が近づいてきて、エリスのティターニアの前で跪いた。
『ご無事でお戻りになりましてなによりです、エリクシール殿下』
聞こえてきたのは女性の声。
この人があのエンシェントフレーム隊の隊長なのかな?
『ええ、お待たせいたしました。先発させていた供の者たちは無事にたどり着いていますか?』
『はい。腕利きの護衛もついていたおかげで怪我人もなく、皆無事に帰還しております』
『それはよかった。今回は私の友人も同行していただきました。失礼のないように』
『エリクシール殿下のご友人……その紅いエンシェントフレームですか?』
『はい。マナトレーシングフレーム『ヘファイストス』です。パイロットはアウラ様。先ほども言いましたが失礼のないように。私の装備を作ってくださった職人であり、ヘファイストスは古代の製造知識をたくさん持った賢人です』
『おお! それは心強い。ようこそ、アウラ様、ヘファイストス殿。マナストリア聖華国へ。私は第一騎士団隊長のレイフと申します』
「初めましてレイフさん。私はアウラ。こっちは相棒のヘファイストスよ」
『よろしく頼む。レイフ』
『おお、ヘファイストス殿は話されるのですね。ティターニア様は念話以外でお話にならないので、マナトレーシングフレームの声というのは初めて聞きました』
『ふむ?』
レイフさんの話を聞いてヘファイストスが考え込んでしまった。
こうなると長そうだし、ここはまだリードアロー王国領内、早く抜けるとしよう。
「レイフさん、話はあとで。いまはマナストリア聖華国領内に急ぎましょう」
『おお、そうですね! エリクシール殿下、参りましょう』
『はい。総員、出発です』
エリスの声かけで全員がマナストリア聖華国方面に向けて動き出した。
でも、丁度その時、ヘファイストスのレーダーになにか小さな点が大量に映し出されたんだよね。
これ、なに?
『む、これは高高度ロケット弾か?』
「ロケット弾!?」
『心配するな。私がすべて撃ち落とす』
ヘファイストスは右腕を天に掲げ、魔力炎放出機から炎弾を何発も撃ち出すと、それらがいくつもの小型炎弾に分割されて飛んでいき、ロケット弾らしき点にぶつかって消えていく。
そして空にはいくつもの光の玉ができ、轟音が鳴り響いた。
「アウラ様! 一体なにが起こったんですか!?」
通信機を通し、慌てた様子でエリスが聞いてきた。
どうやらあちらのレーダーでは発見できていなかったみたいだね。
「高高度ロケット弾が発射されてきているみたい。狙いはあたしたちだと思うよ」
「高高度ロケット弾……そのような高価な兵器を使い始めましたか」
「え? エリス、高高度ロケット弾って高価な品なの?」
「リードアロー王国にとっては非常に高価な品です。制御装置も噴出装置も魔力爆裂弾だって自国生産できずすべて輸入品なんですから。確か組み立てもできないため、現物を買い付けるしか方法がないはずですよ」
うわ、そんな高価なものを次々と打ち込んでいるんだ。
あっちも本気だね。
「でも、リードアロー王国の攻撃って決めつけてもいいの?」
「高高度ロケット弾自体が国家間取引しかできない品です。賊が奪ったとしても数発程度、あのような何十発もの数にはなりません」
「そっか。それよりもエリスたちは早くマナストリア聖華国側へ」
「しかし、アウラ様とヘファイストスは……」
「あたしたちもみんなが移動し終わったら移動するから気にしない。さあ、早く!」
「……はい! 全員、アウラ様たちが攻撃を防いでくれている間にマナストリア聖華国領内へ移動を!」
移動が停止してしまっていたエリスたちもこのかけ声により、急ピッチで移動を再開した。
魔導車とエンシェントフレームだけの部隊とはいえ、移動再開にはそれなりに時間がかかるからね。
やがてエリスたちの退避も完了し、あたしとヘファイストスも移動しようとしたとき、満を持してというべきかヘファイストスのレーダーにエンシェントフレームらしき反応が映った。
その数は20個以上、大部隊だね。
「アウラ様? 早く移動を!」
「いや、いまリードアロー王国からエンシェントフレーム部隊が接近中なのよ。それを迎え撃ってからそっちに行こうかなって」
「な……数は?」
「レーダーの反応からすると20機以上。あまり速くはないから、接敵まで5分近くはかかるかな」
「5分……アウラ様がこちらに来ることはできますが、逃げ切れる可能性はありませんね」
「そういうわけ。それなら迎え撃った方がいいじゃない?」
「……いえ、マナストリア聖華国領内で迎え撃ちましょう」
「え?」
「あちらが領土侵犯をしてから迎撃すればリードアロー王国に言い逃れはできません。リードアロー王国領内で迎撃してしまうと問題がややこしくなりかねません」
「わかった。そっちに行くね」
あたしとヘファイストスは国境線を越えマナストリア聖華国領内へと移動した。
そして領内を少し進んだところでリードアロー王国のエンシェントフレーム部隊は追いついたようだね。
外部スピーカー越しに荒々しい声が飛んできたよ。
『止まれ、そこの者ども! お前たちには領土侵犯の容疑がかけられている! 大人しく身柄を拘束されるのだ!』
相変わらず身勝手な言い分。
リードアロー王国ってこう言う連中ばっかりなんだろうか?
あちらの怒声に対してこちらはエリスが……と思ったら、レイフさんが対抗するみたい。
さて、あっちはどうでるのかな?
『貴殿の言い分はわかった。だが、我々は敵国たるリードアロー王国内に取り残されていたエリクシール殿下およびその関係者を救出したに過ぎない。いま明確な領土侵犯を犯しているのは貴殿らだがそこはどうお考えか?』
『黙れ! マナストリアの田舎者どもが口答えするな! 私は誇り高きリードアロー王国の貴族であるぞ! ならば属国たるマナストリアはその命令に従えばよいのだ!』
うっわ。
リードアローの貴族である上にマナストリア聖華国を属国扱いだなんて。
正気のさたじゃないね。
『貴殿は正気か? こちらにはマナストリア聖華国第一王女エリクシール殿下もおられるのだぞ? その方の前でマナストリア聖華国をリードアロー王国の属国扱いするなど、宣戦布告を宣言しているようなものではないか』
『正気だとも! 国王陛下も間もなく開戦を宣言なさる! マナストリアごとき一気に攻め落としてくれようぞ!』
うん、正気じゃなかった。
国王が開戦を宣言する前に貴族がそれをばらすとかあり得ないでしょ。
『貴殿の主張はよくわかった。これは生かして返すわけにいかないな』
『なんだと?』
『全部隊展開! やつらを1機残らず捕縛せよ!』
レイフさんの宣言でエリスの護衛を除いたマナストリア聖華国のエンシェントフレーム隊が素早く動き出した。
まさに疾風の如く駆け抜け、リードアロー王国のエンシェントフレーム部隊の腕や脚を切り落としていく。
完全にパイロットの腕もエンシェントフレームの性能もマナストリア聖華国の方が上だね。
あっちの貴族だと名乗った隊長機なんて四肢と頭部を切り落とされているし。
『さて、状況終了だな。エリクシール殿下、こやつらはどういたしましょう?』
『そうですね。パイロットは全員捕虜として連れ帰ります。エンシェントフレームは……再利用されないように破壊でしょうか』
『む。破壊してしまうのか?』
破壊という言葉に反応してヘファイストスが話に割り込んだ。
どうするつもりだろう?
『持ち運べませんし破壊するつもりでしたが……ヘファイストス様にはなにかお考えがおありですか?』
『いらないならば我がもらおう。その上で、安全な場所まで退避した後、新たな人動機械兵……いまはエンシェントフレームと呼ぶのだったな、それにして引き渡そう』
『それは願ってもないのですが……アウラ様、よろしいのでしょうか?』
あたしに振られてもなぁ……。
「いいんじゃない? ヘファイストスがやりたいみたいだし」
『では、お言葉に甘えましょう。リードアロー王国のパイロットたちに告ぎます。コクピットごと破壊されたくないのでしたらエンシェントフレームから降りて投降を。反逆の意思ありとみればすぐにでも始末いたします』
エリスの宣言でリードアロー王国のエンシェントフレームからパイロットたちが続々と降りてきた。
彼らは地上で捕縛され、残されたエンシェントフレームはヘファイストスが異空間収納に格納していく。
バラバラに解体された隊長機に乗っていた自称貴族も最終的には投降し、その機体もヘファイストスが回収してしまった。
あたしはヘファイストスにエンシェントフレームがそんなに作りたかったのか聞いてみたけど、いまの技術がどの程度のものなのかを調べるのが主な目的だったらしい。
ちゃっかりしているね。
ともかく、リードアロー王国からの追っ手も片付けたあたしたちはいよいよマナストリア聖華国内を進んでいくことになる。
目指すは華都マナストリア。
エリスからはお城にも招待されているんだけど、どうしたものか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます