第16話 果てしなく鈍いキラリ
次の年の夏休みにも、男の子はおばあちゃんの家に泊まりに来て、三人はまた一緒に遊ぶようになった。三人の集まる場所は決まってこの神社だった。
キラリと凛花は、この男の子が寂しく無いように毎日待ち合わせて遊んでいた。
そして、男の子が小学校6年の夏休み最後の日…
何故かこの日は凛花は顔を出すことは無かった。
そして、男の子は…
男の子「ねぇキラリ…俺…ずっとお前のことが…」
キラリは男の子が何か言いにくそうにしている様子を見て、胸が熱くなる感じがした。
男の子「お前のことが好きだった…今日帰っちゃうから…最後に…それだけ伝えようと思って…
またいつか会えたら…
俺と…
付き合って欲しい…」
キラリに取って男の子から告白を受けるのはこれが初めてのことだった。
キラリは動揺して何も返事をすることは出来なかったが、心の中では
私も…ずっと好きだったよ…
男の子はキラリが無言で見つめているのを見て、気まずくなり振り返って走り去ってしまった。
それが、キラリの初恋の男の子だった。
キラリ「でね…その男の子は、それ以来二度と私の目の前に現れることは無かったんだ…
私にとってここは…特別な思い出の場所なの…
だから…寂しいときはいつもここに来てあの時のことを思い出してたんだ」
薫「そっか…私にもそういう思い出の場所はあるよ…そんなロマンチックな思い出じゃ無いけど…」
薫は過去の淡い思い出を少し思い出していた。
薫「さて、じゃあ帰ろっか?」
キラリ「うん!母ちゃん…」
薫「ん?」
キラリ「ありがとう…私…母ちゃんの娘に生まれて幸せだよ!」
薫はニコッと笑って歩き出す。
薫には幼少の頃からずっと母親という存在を知らずに育った過去がある。だからキラリにはそんな寂しい想いをさせまいと、忙しいながらにちゃんと親子の時間を作ってきた。
二人が家に帰り、リビングで楽しいひとときの余韻に浸っていると、玄関の方から物音が聞こえて来た。
そして翼がリビングに顔を出す。
キラリは翼の顔を見て一瞬胸が踊るような想いだったのだが、翼から酒の臭いがしてきて一気にテンションが下がってしまった。
翼「ただいま~。ゴメン遅くなりました」
薫「別に謝ることじゃないよ。随分飲んできたみたいだね?」
翼「まぁ、付き合いがあって…」
翼はキラリが浮かない表情で何も言わずにいるのを見て
翼「キラリ、ただいま。やっぱりお前の顔を見ると落ち着くぜ…」
キラリはその言葉が素直に嬉しい反面、他の誰かと比較されたのかとも思い、複雑な心境だった。
~翌日の朝~
翼は朝食を終えてからキラリの部屋を覗く。
翼「キラリ?起きてるか?」
キラリはベッドの布団の中で壁の方を向いて寝ている。
翼「キラリ?早く飯食えってお前の母さんが言ってるぞ」
キラリは返事もせずに布団から出て、翼を無視して階段を降りていった。
翼はため息をついて自分の部屋に戻る。
しばらく経ってからキラリが自分の部屋に戻る気配を感じ、翼はキラリの部屋に向かい声をかけた。
翼「キラリ?そろそろ午前の勉強しよっか?」
翼はキラリがご機嫌ななめなので優しく問いかけた。
しかしキラリは
キラリ「やだ…今日は勉強する気になれない…」
そう言って全く机に向かおうとしない。
翼はキラリの成績を上げることが仕事なので、キラリが机に向かわないのは致命的だった。
キラリがどうしたら勉強をする気になれるのかしばらく思案して
翼「キラリ、今日理科のドリル全部出来たらプチデートしないか?」
キラリはプチデートという言葉に敏感に反応した。
キラリ「プチ…デート?」
翼「あぁ、勉強頑張った息抜きとして軽く一緒に外歩こうかなって…どうだ?」
キラリ「いいよ…」
キラリはそんなにやる気がない素振りを見せながらも、心の中は宙を舞う蝶のように舞い上がっていた。
そしてキラリは信じられないほどの集中力を見せ、翼の掲げた目標を午後3時までに全て達成していた。
翼はドリルの採点をしていて目を丸くする。
翼「キラリ…お前…」
キラリはドキドキしながら待っていた。
翼「お前…やれば出来んじゃん!少しおしいところもあったけど、まぁ十分合格だ!」
キラリは思わず
キラリ「ヨッシャア!」
と声を上げていた。
翼「キラリ、約束通りプチデートだけど、お前は何処に行きたい?」
キラリ「翼、ちょっと付き合って欲しいところがあるの」
そう言って二人はキラリのいつもの場所に向かった。
翼「キラリ…俺…なんかここ見覚えがあるような気がする…」
翼は遠い記憶を呼び起こしていた。
翼「俺さ、夏休みになるとばあちゃん家に遊びに来て、よくここで弟と遊びに来てたんだよな…
俺たちはここを秘密基地って呼んでたんだ。
それで俺も中学に上がったら部活とかいろいろ忙しくなって、それからは弟一人でこっちに来てたみたいだけど…
その時にさぁ、ちょうどお前ぐらいの女の子二人と出会って一緒に遊んだとか言ってたよ。
でさ、俺の弟…二人の内の一人と付き合いだしたって。夏休みの間だけだから余計にその恋は燃えたとか言ってよ。
それで最悪なのが、弟が6年の夏休み最後の日になってもう一人の女の子にも告ったとか言って、弟にお前最低だなって言ったの思い出したよ」
キラリはそれを聞いて、世の中には自分と似たような経験をしてる人が居るんだと思った。
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