第15話 夏の日の少年

~その日の夜~



翼はインディーズバンドのヴォーカルを務めていて、地下ライヴハウスの会場で熱唱していた。


既に翼は人気が高く熱烈ファンは相当な数が居た。

ミーハー女子達は翼達が会場から退出するのを待ち伏せして、ストーカーのように付きまとう。

そして翼達はある女子グループと意気投合してそのまま夜の街へと消えていった。


翼は酒豪で、どれだけ飲んでも酔いつぶれたことは無かった。

この日も一人の女の子を酔わせて彼女の家に向かった。


女の子「ねぇ翼~…私酔っぱらっちゃったぁ~」


女の子はろれつが回らず舌っ足らずな喋り方で可愛く甘えた。


女の子「ねぇねぇ翼~…今彼女とか居るの?」


女の子は翼に上目遣いに甘えながら聞く。

翼はほとんどシラフで全く興味のない女の子に素っ気なく言い放つ。


翼「別に彼女なんて居ないよ…俺にはそんなもの興味ないし」


女の子「じゃあ…私の彼氏になってよ…」


翼はその言葉にうんざり顔で


翼「女ってのはみんなそうだよな!ちょっと仲良くなって二人っきりになれば私の彼氏になって…付き合って…


いったいお前らは俺の何を知って、どこが良くてすぐにそんな言葉が出てくるんだよ…


俺はお前らのブランドバッグじゃ無いんだよ?


お前らみたいな遊びなれた汚れた女と、俺が本気で付き合うとか思うのか?」


女の子は翼の傲慢(ごうまん)な物言いに怒りを露にして怒鳴りだした。


女の子「はぁ!?あんたいったい何様!!!ちょっと顔が良いくらいで何調子に乗ってんの?バカじゃないの!?

世の中イケメンなんていくらでもいるんだよ!あんたがブランドバッグ?

はぁ!?あんた程度じゃ私のブランドにもならないって!」


翼「ほらな…結局俺の内面なんて何も知らずに言い寄って来といて、ちょっと言えばすぐにそれだ…


これが俺という人格だよ!俺は俺の全てを知って理解してくれる女が好きなんだよ!恋愛ごっこしたけりゃ、そこら中の男全員に声かけりゃ良いだろ!みんな喜んでお前の身体目当てに飛び付くだろうよ!

そこにお前の求めるものがあるならどうぞご自由に!!!」


女の子「もう出ていけ!クソ野郎!!!」


翼が部屋を出ていこうとする背中に、女の子は手に持ったクッションを思いっきり投げつけた。


ボフッ!


翼は振り向きもせずに立ち去った。


全く…どいつもこいつも下らない恋愛ごっこに取り憑かれやがって…

誰とでも寝る安っぽい女のくせに俺に気安く声かけんなよな!


翼は、ふとキラリのことが頭をよぎった。


キラリは…やっぱ他の女とは違うんだよな…素直じゃないし、天の邪鬼でワガママで、ヤキモチ焼きで単純で頭がどうしようも無いほど悪くて…


だけど…


あいつは誰よりも純粋無垢(じゅんすいむく)なんだよな…汚れて無くていつか本当に白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるって信じて疑わない…


あいつは…恋愛ごっこを楽しみたいんじゃない…本気の恋愛をしたいだけなんだ…


翼は無性に小山内家に帰りたくなり、タクシーを拾った。



~一方、キラリと薫は~


深夜の時間帯、車の数もまばらでキラリと薫は大きな声で歌を唄いながら、目的地など決めずにあてのないドライブを楽しんでいた。


キラリの憂鬱は既に消え去っていた。


そしてその帰りにキラリは


キラリ「ねぇ、母ちゃん?ちょっと寄って欲しいところがあるんだけどいい?」


薫「いいよ!」


キラリ「あのね、神社に寄ってくれる?」


薫「神社って…あそこの?」


二人にはあそこので通じる場所がある。


キラリ「うん。嫌なことがあったり、楽しいことがあるといつもあそこに行って神様に報告しに行くの」


薫「わかった。じゃあ寄ろうか」


キラリ「うん!」


薫は神社の近くにある駐車場に車を停めた。

キラリは大きく伸びをして鳥居の方へゆっくり歩き出す。

薫もすぐにキラリの隣に並んで一緒に鳥居をくぐって御社殿(ごしゃでん)の方へと向かった。

キラリと薫は賽銭を投げ入れて神様に挨拶をした。


そしてキラリが話し出した。


キラリ「ウチのレディースの集会やる時はいつもここの場所借りるんだ。

ここは何故か落ち着くの…

昔ね、凛花とよくここに遊びに来てたんだけど…



~キラリの回想~


キラリ「ねぇ凛花、今日は何して遊ぶ?」


凛花「二人でかくれんぼしてもつまんないしねぇ…」


二人が何か面白そうなことが無いかと辺りを見回していると、一人の男の子が鳥居をくぐって歩いてくるのが目に入った。

年頃はキラリ達とそう変わらなそうな体格差だった。

キラリ達がその男の子に気付くと、男の子は立ち止まり黙ってこちらの様子を窺(うかが)っている。

キラリは男の子に声をかけた。


キラリ「一緒に遊ばない?」


男の子は黙ってうなずいた。

凛花も男の子に声をかける。


凛花「何年生?」


男の子「4年…」


キラリ「じゃあ私達の一つ上だね。君…見たことないけど、学校は?」


男の子「俺は夏休みにばあちゃん家に来たから学校はこの辺じゃない…」


凛花「おばあちゃん家はこの近く?」


男の子はコクッと黙ってうなずく。


キラリ「じゃあ一人ぼっち?」


男の子「兄ちゃんと姉ちゃん居るけど、みんな部活が忙しいから俺一人だけ…」


凛花「そっか、じゃあ一緒にかくれんぼする?」


男の子はコクッとうなずいて三人は一緒に遊びだした。

夏休みの間、三人は毎日一緒に遊び、いつしかキラリはこの男の子のことを好きになっていった。

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