第8話 昼食
「ルーシーは今日が初めての仕事の日だからね。無理しないよう仕事量は少なめにしておこう。とりあえずはこの書類の仕分けをお願いできるかな?」
「はい!」
アズマに任されたのは期限の切れた書類とそうでない書類の仕分けだ。
日付を見て過去のものはまとめて処分。それ以外はあとでアズマの部屋に持っていくことになっている。
この程度難しくもないので簡単だ、とたかを括っていたが……
「ま、まだ終わらない」
作業自体は簡単だが、なにぶん書類の量が多い。終わったと思えば新しい書類が運ばれてくる。
机に積まれた書類から目を逸らすように時計を見ると長針と短針が頂点を指していた。
「昼飯食いに行くけど、あんたもついてくるか?」
「あっ、はい! 行きます!」
もう昼かと考えていると隣の席のテオから声をかけられて席を立つ。
テオと並んで食堂に向かう。アズマの言っていた通り昼は食券を買わないといけないようで食券機のまえには列ができていた。
大人しく並んで自分たちの番がくると食券を買った。随分とたくさん種類があるようで結構迷ってしまったが、最終的にオムライスにした。
頼んだものが出来上がるまで席について待っていると隣のテーブルの男性が変わった食材を食べているのが視界に入った。
「見たことない野菜ですね」
「これはうちで栽培されてる植物の葉だよ。根は薬の材料として、葉は食べられるんだ」
「へぇ、詳しいんですね」
「まぁ、ここにいると自然と覚える」
薬草の類いは詳しいわけではないが、ここで働いていると私もいろんな植物について詳しくなれるだろうか。そう考えるとわくわくする。
「アズマさんも植物について詳しそうでしたね」
「ああ、アズマさんは植物全般が好きだからな。俺なんかとは比べ物にならないくらい詳しいぞ」
そう言ってテオは笑った。珍しい表情に思わず見つめてしまう。
「な、なんだよ」
「あ、いえ、なんでもないです」
テオの問いに笑って誤魔化す。
「ふぅん」
テオは少し訝しんだが、すぐにそっぽを向いた。
しばらくすると頼んでいた食事ができあがり、取りに行くと再び席についた。
「朝はどこで食べたんだ?」
「食堂でアズマさんと食べました」
「ああ、同じ寮だもんな」
「寮もなんこかに分かれてるみたいですけど、どの寮になるかとか決め方があるんでしょうか?」
「ん? ああ。大体科が同じやつは同じ寮なことが多いな。あっ、同じ科と言ってもあれだぞ、男女は別の寮だ」
そう言うとテオはシチューを掬ったスプーンを口に運ぶ。
「ようテオ、その子だれだ?」
「新人。アズマさんがスカウトしてきた」
「そうか、アズマさんが。ってことは優秀な能力者だな。よかったなテオ、人手が増えて」
「ああ」
ご飯を食べていると、食べ終わったお盆を持った知らない男性がテオに話しかけて聞きたいことだけ聞くとテオの肩を叩いてお盆を片付けて食堂の外に出て行った。
「知り合いの方ですか?」
「ああ、べつの科のやつだけどな」
「べつの科の方でもアズマさんのこと知ってるんですね。科長だからかな」
「それもあるけどあの人は優秀だからな。一応言っておくとアズマさんっていいところの出身だし、この組織でも結構偉い部類の人だからな」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ、あと怒らせると怖い」
それは意外だ。というかアズマの怒っている姿など想像できない。
「食べ終わったら書類整理の続きだろ? 俺の分は終わったし手伝ってやるよ」
「ありがとうございます! 助かります!」
ありがたいテオの申し出に助けてもらってその日の書類整理を終えた。
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