第7話 初収穫!

「じゃあ、実際にマンドラゴラの収穫をしてみようか」

「はい! やってみます!」


 念の為にと渡された耳栓をつけ、マンドラゴラの収穫室に入る。土の匂いがすごい。

 収穫室に入れられたマンドラゴラはどれも収穫可能のものばかりだと言われているので、どれでもいいかと近くのマンドラゴラに手を伸ばす。


「これを、枯らす。大丈夫、私ならできる!」


 マンドラゴラにそっと手を添えると能力を発動させる。

 薬の原料として使えないくらい枯らし過ぎないように気をつけないといけない。


「これで、できてるのかな……」


 能力を使ったはいいものの、初めてのことなのでちゃんとできているかがわからない。一応土から出ている草の部位は枯れているが……


「俺が代わるから部屋から出ろ」


 当惑しているとテオに肩を叩かれ、ジェスチャーで部屋を出ていくよう言われていることに気づいて収穫室から出た。


「ちゃんとできてるか心配です」

「ううん、やってみないとわからないものねぇ」


 耳栓を外し、隣にいるアズマに声をかける。

 しっかりと閉じられた扉の先でテオがマンドラゴラを引き抜いた。


「……できてるんでしょうか」

「うん。どうやらマンドラゴラは枯れているようだね。テオが頷いてる」

「あっ、ほんとだ」


 テオはマンドラゴラを片手に満足そうに頷いている。


「アズマさんにも確認してもらいたい」


 テオは私が枯らしたマンドラゴラを持って収穫室から出てきた。アズマはマンドラゴラを受け取りぺたぺたと触ると頷いた。


「ああ、うん……いいね、完璧だよ。これなら製薬チームに回して薬にできそうだ」

「ほんとですか⁉︎ あぁ、よかった!」


 ここまできてできなかったらどうしようかと不安に思ったが無事成功したようで安心した。


「私はさっそくこれを製薬チームに持っていくよ。収穫から三日待たないでいいなんてこれは革命だ!」


 そう言ってマンドラゴラを抱えてだれかの返事を聞く間もなくアズマは製薬チームの方へと走って言った。


「よくやったな。体調は大丈夫か?」

「ありがとうございます。大丈夫です」


 耳栓を外し、収穫室の扉に鍵をかけたテオが労りの言葉をかけてくれた。


「能力の使い過ぎはいけないからな」

「はい、気をつけます」


 ぶっきらぼうながらも気にかけてくれているのだろうか。優しい人だ。


「音を遮断しててもマンドラゴラが鳴いているかどうかわかるんですね」  


 アズマはまだ戻ってこない。会話が途切れてしまったのでテオに話しかけた。


「えっ、ああ。まぁな」


 急に声をかけたからだろうか。テオは少し動揺した素振りでそう答えた。


「あ、そうだ。昼までに提出しておいてくれって頼まれた書類をまだ出していなかったな。悪いが俺はちょっとここを離れるぞ」

「はい、ここでアズマさんの帰りを待っていればいいんですね?」

「ああ、座って待ってればいい」


 テオは自身のデスクから数枚書類を手に取り、建物をあとにした。

 私は少し散らかったテオの隣のなにもない綺麗なデスクのまえに立つ。今日からここが私のデスクだ。

 いままでひとりで仕事をしてきたので同僚がいるというのはなんだか不思議な気分だ。

 席について生育チームの仕事を眺めていると興奮気味のアズマが帰ってきた。


「ああ、ルーシー! 一応製薬チームにも見てもらったんでけど、やっぱり完璧だったよ。キミの力があれば三日待たずに薬に使える!」

「そうですか、よかったです!」

「ああ、もちろん能力の使い過ぎは体調を悪くさせてしまうからね。そこらへんのバランスは私も気をつけるよ」

「ありがとうございます」


 マンドラゴラを一つ枯らすのはそこまで大変ではなかった。だがこれを百回とか毎日休みなくやるとしたらさすがにできる自信はない。


「ルーシーが手を貸してくれるとテオくんの能力を使う回数も減らせるから本当に助かるよ。テオくんってば最近無理してるみたいだったからね」

「昨日お話ししたときも目元にクマがあるのを見ました」

「そうなんだよー。でも『俺は大丈夫だから』とか言うんだよ彼は」


 アズマはため息をついた。その表情は心配そうだ。


「ああ、そうだ。ルーシーの体調は大丈夫そう?」

「はい。体感ですけど一日に二十体くらいなら体調を崩すことなく枯らすことができると思います」

「ふんふん、了解。能力は体調にも左右されるからね。だめそうな日は遠慮なく言ってくれ」

「はい」


 アズマの言葉に頷く。


「テオくんはぶっきらぼうなところがあるけど、勘違いしないであげて。根は優しくてすごくいい子なんだよ」

「それは……はい。わかる気がします」

「そっか、それならいいんだ」


 私がそう答えるとアズマは優しく微笑んだ。


「テオさんと言えば、すごいですよね。音を遮断する能力を使っても、マンドラゴラが鳴いているかどうかわかるなんて」

「ん? いやぁ、能力を使えば音を完璧に遮断するから、マンドラゴラが鳴いているかどうかなんてわからないよ。さっきは普通に能力を使わずに引っこ抜いていたんだよ」

「えっ、でも……」

「危ないから私がしようかって言ったんだけど、テオくんが『あんたの耳が潰れる方が大問題だから』って断られちゃったから彼に任せたのさ」

「そう、だったんですか……」


 もしかしてテオが先程の問いに戸惑いながら答えていたのは私に気を遣ってくれていたのだろうか。

 もし、私が失敗していれば彼に被害が出てしまうと責めてしまうと思って。


「さてはテオのやつ言ってなかったな……」


 アズマはなにやら考えるポーズをとってぼそりとつぶやいた。


「まぁ、いいか。ルーシーはなにも気にすることはないさ。私が失敗していたらテオさんが〜みたいなことは考えなくていい。実際マンドラゴラを枯らすことに成功したんだから、ね!」


 アズマが背中をとんと叩く。


「……はい!」


 正直なところ、もし私の能力でうまくマンドラゴラを枯らせていなかったらと思うと恐ろしくなるが、アズマやテオは私にそう考えてほしくないようなので、頑張って思考を変える。

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