第5話 新しい居場所
「私もそろそろ部屋に行こうかな」
私にできるのはしっかりと働いて少しでもテオの負担を減らすことだけだろう。働くのは明日からだ。今の私にはなにもできないし、気が利いた言葉を投げかけられる自信もなかったので大人しく寮に移動しようと考える。
マンドラゴラ科の建物を出るとアズマにもらった地図を頼りに寮に向かう。
二丸一と書かれたプレートが掲げられた部屋につくと一応ノックする。もちろん返事はない。
アズマに地図と共に渡された鍵を使用して部屋の中に入る。木でできた机と椅子。そして簡易的なシングルのベッドが置かれたシンプルな部屋だ。
鞄を床に置き、ベッドに腰掛ける。
「今日からここが私の家になるんだよね」
不安がないと言えば嘘になる。しかしずっと放浪していた自分に居場所ができること、自分の能力を求めてくれている人がいることを考えると自然と頑張ろうと思えた。
「私の力でアズマさんの思ってるようにできるかは正直わからないけど……何事もチャレンジあるのみ、だよね!」
自分に言い聞かせるように声を張り上げ、勢いよく立ち上がる。
「よし、明日から頑張るぞー!」
右手を天に突き上げて気合を入れる。
そのとき、こんこんと扉がノックされた。
「はい?」
そっと扉を開けると、そこには女性が一人立っていた。
「アズマ科長に頼まれてきました。ルーシーちゃんのお部屋よね? マンドラゴラ科生育チームのリニィよ。綺麗だと思うけど、一応部屋を確認するわね……うん、大丈夫そう」
部屋にやってきた女性は部屋の中を見渡すと頷いた。
「あ、ルーシーと申します。これからよろしくお願いします」
どうやら彼女、リニィは私の名前を知っているようだが一応礼儀として名乗って頭を下げた。
「ええ、よろしく。新しい仲間が増えて嬉しいわ」
「埃も溜まってないし、すごく綺麗な部屋ですよね。ここは最近まで誰かが住んでいたんですか?」
にっこりと笑うリニィに質問を投げかける。
「この部屋は今日の朝に掃除をしたばかりなのよ。アズマ科長が新しい子をスカウトしてくるからって」
「そうだったんですか⁉︎」
私のためにわざわざ綺麗にしてくれていたとは、すごく嬉しい気持ちになる。ここにいる人たちは親切な人が多いようだ。
「アズマ科長が直々にスカウトするんだもの。絶対うまくいくだろうとは思ってたわ。掃除したかいがあったってものよ」
「ありがとうございます。おかげで私は今日からこんなに綺麗な部屋で寝泊まりすることができます」
きっとアズマはどこかで植物を枯らす能力を持っている人間がいると知って、たまたまではなくわざわざ探して私をスカウトしてくれたのだろう。
そこまで必要とされているのならば、私だって張り切ってしまう。
「あら、いい子。私も朝は暇してたからべつにいいのよ、気にしないで。そうだ、夕食のパンを用意したんだけど、アレルギーはない?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
リニィからパンを受け取る。
「ごめんなさいね。本来は食堂でちゃんとご飯を取ってもらったほうがいいんだけど、今日はまだ自由に動き回れるほど許可が出てなくて」
「許可?」
「ああ、アズマ科長ったらめんどくさがってそこら辺の話をしなかったのね。しょうがない、私が説明するわ」
「よ、よろしくお願いします」
難しい話をされるのだろうか。もしそうだったら覚えられるか不安だ。
「まず、ルーシーちゃんはまだ正式にはこの組織のメンバーではないの。言うならお客様、ゲストの扱いね」
「もしかして私、ほんとはこの部屋にいたらまずいやつですか?」
「一応大丈夫よ。今のルーシーちゃんはうちで泊まることができる特別ゲスト。ああ、でも明日にはちゃんとした社員証が渡されるはずだよ。その社員証があれば食堂とか、大体の場所には行けるようになるわ」
「明日の朝ごはんは食堂でいただけるということですね」
「そうよ。ああ、でも社員証持っていても科長クラスじゃないと入れない部屋とかもあるからそこは気をつけてね」
「はい!」
その後、何点かリニィから注意事項を聞くと夕食をとって大浴場で向かい、早々にベッドに潜り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます