第15話 波乱の王国

王国は半年振りに、いやそれ以上に騒がしく、悲しみをあらわにしていた。


国中の民が泣き、怒り、悲しみ、王国は今波乱の風に襲われている。


何故ならこの王国の英雄であるシヤ・ベルトとその子供であり『英雄王』の子供であるレン・ベルトが何者かの手によって誘拐されたからである。


シヤは王国全員の憧れであり、誇りだ。そして、レンはこの王国のトップにして唯一無二の存在である『英雄王インドラ』の子供にして、その力を受け継ぐ者、そして次期『帝王』の、『英雄王』候補である。そんな2人が何者かによって捕まってしまった………………これは王国中の人間を怒らせるのに十分な理由になった。




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と、表向きにはそう説明されている。


何故か?そんな事は簡単な事だった。


本当のことを、シヤが行方不明になったこと、そしてそのシヤを行方不明にしたのが息子のレンであること、そのレンが自分の意思でこの王国から出て行ってしまったこと。その全てを国民に伝えたらどうなる?決まっている。今以上に荒れてレンがこのまま王国を永久追放されるだろう。そんな事があっていいのか?いや、良くない。レンはシヤを行方不明に、生きているかも定かではない。だがそれでもレンは『英雄王』を受け継ぐ者なのだ。次期『帝王』の『英雄王』になるべく者なのだ。だからそんな事はあってならない。だから利用するのだ。この出来事を全てあの黒い男、ナイと言う男のせいにすればいい。そうすればレンの行いが公になる事がないから………………。


以下の理由で国民には事の真実をつけないのである。















「シヤとレンが居なくなってからもう3日か……………」


インドラは自分にしか聞こえないほど小さな声でそうつぶやいた。


その言葉に込められたのは怒り、悲しみ、無力さを感じさせていた。



「これは……………大事件だそ!?半年前の『二代目誕生』以来の大事件だぞ!?」


インドラがシヤとレンのことを考えてボーとしていると横から声が掛かけられ、インドラの意識が目覚める。


「ああ……………これは王国にとって非常に重大な事だ」



大きな一室、マルトの家のリビングにはインドラ達英雄と王国の大臣、貴族などが揃い、会議をしている。


お題は3日前に起こったシヤ・ベルトの行方不明について、そしてレン・ベルトの逃亡、最後にナイと言っていた謎の黒い男についてだ。



「とにかく、今俺らがすべき最も重大なことは英雄シヤ・ベルトとその息子レン・ベルトの捜索だ」


反対意見など出るはずもない。


するとマルトが手を上げインドラに問う。


「インドラ、シヤとレン君の気配は感じないのか?」


マルトがインドラに聞いたのはインドラがこの中で気配を察知する事に対して一番腕がいいからだろう。実際、やろうと思えば小さな町一つぐらいなら可能だ。


「少なくともこの都市には居ないな…………魔力を一切感じない…………やっぱり王国外にいる可能性が高いな」


もう3日…………いや、まだ3日か、そう考えるとレン達はそう遠くには言ってないはずだ……………いや、あの黒い男がやっていた空間を歪ませるあの力、あれは見たことがない……………だがレンがまだ近くにいる可能性もある……………なら俺が王国付近の村や国に急いで行ったらまだ間に合うんじゃないか?



しかし、インドラのその考えはすぐに否定されてしまう。



「だけどインドラがこの国から離れるわけにはいかないでしょ?誰が国外に言って2人を探すのよ」


シヤとレンを探すのに国外に行く必要があるが、もしここでインドラが2人を探しに国外に行ってしまったらこの王国には『帝王』が不在となってしまう。この国、王国は『英雄王インドラ』の支配下にある。よって他国が喧嘩をふっかけてきたり、襲われるなど言った出来事が全くない。なぜなら王国を相手にすれば世界最強の1人でもある『帝王』の『英雄王』に喧嘩を売っている事になるからだ。だが『英雄王』が不在となれば話は別だ。いくら王国に『英雄』がいても『英雄王』ほどの脅威にはならないのだ、そして王国を支配している『帝王』が不在のことを他の『帝王』に知られて仕舞えば狙いの的になってしまうのである。


故に、2人の捜索にはインドラは参加出来ないのだ。


「だけど!」


「だけどではない……………インドラ、お前はこの国のトップだ、だがお前は『帝王』なのだ……………それがどれほどの存在か、お前なら分かるだろ?2人は私たちが責任を持って探し出そう」


「なら!あの男はどうする!?」


マルトがインドラを止めるため、今の状況を冷静に考え、インドラを無理にでも納得させる。だが今のインドラの言葉に場が静まり返る。



「レンは何故かは知らんが『魔眼』を保持していた…………恐らくその魔眼の力でシヤを何処かへ行かせた…………と思う。だが一番警戒すべき相手はレンがナイと言っていたあの黒い男だ」


インドラがそう言った瞬間、場の空気が凍った。


それもそのはず、マルト、ミトラ、ヴァルナの3人はそのナイと言う黒い男と戦い、呆気なく敗北してしまったのだから。


「レンの側にはあいつが居ると考えたほうがいいだろうな」


確かに。


この場にいる者全て(英雄達)がそう思った。


「あいつは強い……………『帝王』に匹敵するほどの力を持っている可能性は高いだろうな」


「「「「ッ!!??」」」」


インドラのその発言に驚いたのはナイとは会っていない貴族と大臣達だった。 


だがそれはインドラの素直な気持ちだった………………現にインドラは少しとはいえ身動きを封じられてしまったのだから。


「な!?それは流石に相手を過大評価しすぎなのではないでしょうか!それほどの力の持ち主が存在なんてするはずが!?」


「そ、その通り!いくら相手が強いからと流石にそこまでは!」


「い、いくら愛する妻と息子を助けに行きたいからとそんなデタラメを言うのは………………真なのですか!?」


インドラの言葉を聞いて激しく動揺した貴族達がインドラが嘘を付いていると捉えようとする。この行動は普通あってはならない光景だ、何故ならこの国のトップであり、『帝王』の言葉を否定するなど実際はあってはならない事なのだ。それほどまでに『帝王』と言う存在は大きい。だが、インドラはそんな事で罰を与えようとはしなかった。何故なら逆の立場なら自分も同じ考えを抱くと思ったからである。『帝王』は世界を支配するほどの力を持っているからである。


インドラの言葉を否定する貴族達を肯定する英雄はここにはいなかった。インドラの言葉を真実と告げるようにマルトが語る。


「インドラは嘘をついてなどいない、あの黒い男はそれほどまでに強い……………英雄と呼ばれる私たちが何もできなかった…………認めたくはないが……………これが現実だ」


貴族達はもう何も言えなかった……………英雄の中でも一際強く、『英雄王』の右手でもあるマルト・フウが力強く、血が溢れんばかりと唇を噛み締め、悔しさを滲ませた顔をしていたからだ。そんな顔をされたら誰が否定できると言うのか。


場が静かになったのを確認してインドラが口を開く。


「レンはともかくあの黒い男、ナイをどうにかできるのはこの王国では俺しかいないんだぞ!?俺以外に誰がレンとシヤを連れ戻せるんだ!?」


インドラの言葉に「し、しかし」と貴族達が言おうとするが、その先の言葉が出てこない。このまま2人を放置するのも納得しかねる問題だ。ならインドラを行かせるしかないのか……………と、誰もが思ったその時だった。



「私たちが行きます!」


そう言って勢いよく扉が開かれる。


その声に誰もが注目し、扉からある人物達が姿を見せる。



「ルド!それにロマ君とアスちゃんまで」


先に声を上げたのはルドの父、マルトだった。そしてすぐにミトラとヴァルナも反応する。


「ろ、ロマ!?あんた何しに来たのよ!?」


「アス!?どうしたんだい!?」


皆が驚くのも仕方ないが、ルドが話を続ける。


「レンは私たちが連れ戻します」


「「「「「なっ!?」」」」」


話を聞いていたのか、それより何故ルド達が?と言う思いに襲われ、皆が驚きの声を上げる。


「ルド、悪いが遊びじゃないんだ」


「私たちは真剣だよ」


マルトがルドを止めるように口にするがルド達は曲げない。


「レン君の隣には『帝王』に匹敵するほどの人物がいるかもしれないんだ!ルド達には無理だ!」


マルトが叫びながら無理にでもルド達の説得を試みる…………が、アスが口を開いた。


「なら、尚更私たちが行くべきです」


アスの言葉の意味がわからずインドラが聞く。


「アスちゃん、どう言う事だ?」


「レンの近くにはそれほどの強力な人がいるならインドラさん以外には敵わない可能性があります。そしてインドラさんはこの王国から離れることはできない。しかし、私たちはレンの親友です。子供の時からずっと一緒にいた仲なのです。きっとレンもそう思っているはずです。そんなレンが私たちを傷つけるような事をするでしょうか?私はそうは思いません……………私たちは家族みたいなもの、きっとわかってくれるはずです!」


「そうです!レンは私達の家族です!」


「まあ、昔からの縁だからな」



……………確かにルドちゃん達はレンと昔からの仲だし、傷つけない可能性があるな……………案外いい案かもしれない。


インドラがそう思って周りの様子を伺う。


マルトや貴族達は「確かに」、「ありだな」などと言ってルドちゃん達の提案にくらいつく。


「必ず私達がレンを連れ戻します!」


3人の目には覚悟を示すほどの熱を感じさせる強い目をしていた。



この子達ならやってくれるかもしれない、だから俺たちはその提案を受け入れることにした。




















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