第11話 決別

―――遡ること数時間前―――



『レン…………………君がこの国から出るいい方法があるよ………………だが、それをすれば、君はもうこの国には帰れないかもしれない…………………それでもやるかい?』


そう言って差し伸べたナイの手を俺は取ることを選んだ。



すると不思議と、頭の痛みがなくなり、頭に浮かんでいた過去とその言葉が消えていた。


そしてナイは、レンが手を取ってくれたのが嬉しかったのか、笑みを隠しきれない様子でいた。


『まず、僕が力を使って、君を王国外へ転移させる。だが、その力を使うには準備が必要でね、それに大きな力を使うわけだから少し目立ってしまうんだよ、そんな時に邪魔をされたら面倒だからね、君には邪魔をされないように『英雄王』の足止めをしてほしいんだよ』


『な!?俺が親父を足止め!?』


『ああ、足止めだ………………とは言っても戦うのはおすすめはしないな、君は強いけど『帝王』と渡り合うほどの実力は持っていないからね』


『じゃあ一体どうやって足止めなんかするんだよ?』


『それは君に任せるよ……………時間を稼げるなら


この話を最後に、俺とナイは別れた。


本当はもう少しナイと話していたかったのだが、学園を抜け出してからまだ家に帰っていないことと目を魔眼に変えたことによる疲労で疲れが溜まっていたこともあり、ナイが「続きはまた明日にしようか」と提案してきたので、俺は首を縦に振ったのだ。


俺は家に帰ってる間、考えていた。


それはナイが言っていた親父達を足止めする方法である。



今の俺の力じゃ親父には手も足も出ないだろうからな、とは言っても戦闘以外で足止めする方法か………………。



そんなことを考えていると、俺はいつのまにか家の前まで着いていた。


俺はそのまま玄関のドアを開けると、うちで雇っているメイドが目の前まで来て「おかえりなさいませ、坊っちゃま」と声を掛ける。


俺はそれに頷いて、さっさと自室に行って休もうとするが。


「旦那様は今、英雄様方と仲良く談笑していらっしゃいます」


「ッ!?」


今のメイドの話の内容に、俺は動揺を隠さないでいた。


英雄様方?つまりマルトおじさん達もいるってことか?今日ルド達と揉めたばっかなのに……………間が悪いな……………いや、それともそのことで家に来たのか?


……………まあ、リビングに行かなければ合わないだろうし大丈夫だろ。


俺はリビングに行かず、早く自室へ向かおうと歩みを進める………………が。


廊下を歩いているとリビングから鬱陶しいほどうるさい親父達の声が響いていた。



リビングではインドラ達が話に夢中になっており、レンが帰っていたことに気付いていなかった。



「………………うるせーな、てか声でかすぎだろ…………廊下にダダ漏れ出し……………」


そう、インドラ達は酒に酔い、話が盛り上がっていたせいで自然と声が大きくなってしまい、廊下にまでその声が聞こえていた。



だからレンに聞こえてしまったのだ…………………。



『そういえばアスが言っていたのですが、今日、教室でレンくんがいきなり暴れ出して、クラスのみんなを怖がらせたらしいんですよね』


「……………は?」


別に聞き耳を立てていたとかそういうのではない、インドラ達があまりに大きな声で喋っていたので、自然とレンの耳に入ってきてしまっていたのだ。


そして、レンの耳に入って来たその内容がレン本人のことに驚き、自然と自室へと向かっていた足が止まる。それにその内容に思わず、レンは小さくだが声を発してしまっていた。



俺がいきなり暴れ出した?…………………確かに暴れはしたけど、だけどあれはあいつらがクト兄を………………。


『え!?それ本当!?あの子ったら、一体何してるのよ!?』



『まじかよ…………………レンのやつそんなことしたのかよ……………………そういばあいつ、朝調子悪そうだったもんな…………………』


親父とクソババアは今の内容に疑いもせず、俺が悪いことを前提で話を続ける。


『レンくんはそのあとすぐにアス、マロ、ルドの3人で止めたらしいですけど、そのあとドアを壊して逃げちゃったらしいんですよ』


『な!?あいつ本当に…………何やってんだよ…………しかもアスちゃん達には迷惑かけるし………………』


『はあ、アス達には止めてくれてありがとうって伝えておいてくれる?あとちゃんと叱っておくからそのことも言っといてくれるかしら?』



は?どう言うことだ?…………………あいつらは本当のことをおじさん達に伝えてないのか?そもそもあいつら俺を止めるどころか震えて何もできなかったくせに…………。


レンに苛立ちと怒りが込み上げてくるが、なんとか堪えようとする………………が、英雄達の話はまだ終わりではなかった。



『まったく…………………そもそもレンがああなっちゃったのは何もかも全てのせいよ!』



レンの肩が僅かだが「ピクッ」と反応する。



『ああ、クト君のことでしか…………………あれは何というか………………残念………………でしたね』



『クトか……………………レンはあいつと仲がよかったからな…………………』



レンの予想通り『あいつ』と言う人物がクト兄とわかり怒りが込み上げてくる。



『そうよ!?全部あいつのせいよ!?あいつが死んでからレンが変わっちゃったのよ!?』


『たしかに、あの時からレン君が少しヤンチャに、と言うより、乱暴になった気がするな』


『そうね……………うちのバカ息子とも昔はよく遊んでたのに、あの日を境に絡まなくなった気がするわ』


『そうですね、あの日からレン君が変わってしまった気がしますね』



『だいたいあいつは、インドラの能力である『雷神』にするのは愚か、私の『雷』さえも受け継いでいないのよ!?だから『半端者』なのかと思ったけれど魔力は凡人レベルだし、剣術や素手の戦闘の才能もないし、マシなのは少しだけ頭が良いってところだけよ!?何よそれ!?以下よ!?私とインドラの子どもなのに何も受け継いでない出来損ないなのよ!しかもあいつは魔人なんかと手を組むわ、死んでも迷惑かけるわで最悪よ!?あいつなんか産まなければよかったわよ!!』


『たしかにな、俺もあいつが生まれてこなきゃよかったとどれほど思ったことか』


『たしかに………………英雄であるシヤと帝王である英雄王インドラ…………その子どもがなんの才能も持たず、尚且つ無能力者ときたら………………恥以外の何にでもないな』


『とは言っても、普通あり得ないでしょ?シヤとインドラの子よ!?そんなのあってはならないことよ!』


『そうですね………………クト君は………………いや、クト・ベルトは、僕たち英雄にとっては恥ずべきこと……………生まれてきてはいけない存在……………ですね』



それ以上の言葉はもうレンの頭には入ってこなかった。


今のレンには敵意を……………いや、それを通り越して殺意を発してしまっていた。



クト兄が失敗作?


生まれてこなきゃよかった?


英雄にとっての恥?


生まれてきてはいけない存在?



ふざけんなよ!



何も知らないで……………何も!………………クト兄の思いを!クト兄の努力を!クト兄の全てを!ふざけんな!



お前らみたいな人間がいるからクト兄があんなになるまで気づかなかった………いや、今もなお気づいてなんかいない!



クト兄が死んだのは全てお前らみたいな人間のせいなんだ!



クト兄のことを考えず、自分達は好き勝手クト兄を馬鹿にする……………それが許せない!



クト兄の思いを踏み躙る奴らを!



クト兄の努力を笑う奴らを!




―――ぶっ壊したい!!―――




怒りの限界だった……………だから俺は………………親父達がいる部屋のドアを開け、中に入った。





そして時は戻り、現在に至る。



レンはインドラたちがいる騒がしい部屋のドアを何の躊躇いもなく開けた。



「「「「「ッッ!!??」」」」」

 


レンがドアを開けて部屋に入った瞬間、先ほどまで騒がしかったのが嘘のように場が静寂に包まれた。


静寂した理由はおそらく「いつからいた?どこまで聴いてた?」と考えていたからだろう。


インドラたちの顔を見ると血の気が失せ、真っ青になっている。


だがそんなことなどお構いなしにレンは歩みを進める。


俺はこの時初めて知った………………怒りすぎると逆に冷静になることに。


そして母であるシヤの目の前で歩みを止める。


レンが歩みを止めて初めて、英雄たちは意識を取り戻したかのように喋り出す。


「か、帰ってきてたのか、レン…………………」


最初に沈黙を破ったのはインドラだった。


それからみんなが「はっ!」と反応して喋り出す。


「お、お帰り!レン君!」


「お、お邪魔させてもらってるわ!レン君!」


「ひ、久しぶりだね、レン君!」  


皆がレンの様子を伺いながらさり気なく挨拶をする。


だが、1人だけは…………………シヤだけは違った。


「レン、帰ってたのね…………………それよりあんた!今日学校で何したのよ!詳しく話しなさいよ!」


シヤはみんなと違い、先程ヴァルナが言っていたレンが暴れた件について詳しく問いただそうとする。


「…………どうでもいい…………」


シヤの怒りとは違い、レンはだるそうに答える。


その反応に、親父達が慌てるような表情をする。


なぜならシヤが怒っている時に反省の色を見せず、何よりその態度はシヤをより怒らせるのに十分すぎるからだ。



「どうでも言い訳ないでしょ!?あんた今日、学園で暴れたそうじゃない!アスちゃん達にちゃんと謝っておきなさいよ!」


シヤが怒りのせいか、顔を真っ赤にして言う。


だがレンはそれでも変わらずだるそうに応える。


「はあ、どーせ本当のこと言ってもあんた達は信じないだろ?それに………………」


その時、この場にいた誰もが感じた……………レンの殺気に。それと………………レンのまるでゴミを見るかのような目を。


全員が……………あのインドラさえもがビクッと一瞬だけ震えるほどである。


家族であるはずのレンが自分達のことを同じ人ではなくゴミを見下すかのように見ているからである。


「な、何よ!?その目は!?」


シヤがたまらず声を掛けるがレンはそれを無視する。


「…………ナイには悪いな…………もう我慢の限界だ」


「え?今なんて?」


レンがどこか遠くを見て言った言葉の意味が理解できずシヤを含めた皆が頭に?をつけている。



「もう………………………いいよ」


「は?あんた何言って……………………」









その言葉だけだった………………………。






「……………………え?」






その瞬間、シヤが『



「あ、あああ、あああああああああああああああ!!??な、何よこれ!?何なのよ!?ああああああああ!?」



『闇』がシヤを襲い、纏い付く。


そのあまりにもの激しい痛みと苦痛でシヤが悲鳴の絶叫をする。



だがそれでもレンは解除をしない。



「シヤ!?おい!シヤ!?クソ!なんだこの黒いの!?レン!お前がやったのか!?早く解除しろ!」


だがレンは無視を貫き通し、殺気を発したままだった。


「ッチ!……………クソ!」


インドラはレンを気絶させてこの力を無理矢理解除させようと考えたが、もしこの力が使用者が気絶しても継続したままの能力なら逆に気絶させるのは悪手となる。


だからインドラが打った手は……………………。



「早く能力を使ってそれを切り離せ!」


レンを気絶させるのではなく、シヤに纏わりついている黒い何かを引き剥がすことを選んだ。


インドラの叫びにシヤは…………………。


「つ…………る…………の」


「なんだ!?何言ってんだよ!?」


「もう………………つかっ…………………てるの」


「ッ!!??」


そう、シヤは『闇』に襲われてからずっと、能力を使用してるのだ。だが『闇』は全てを飲み込む、無論、魔力も人も能力も例外ではない。


「あああああああああああああああああああ!!??たす…………けて……………い……………たい………痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!??あ………ああ、あああああああああああああああああああああ!!??」



「ッ………クソ!マルト、ミトラ、ヴァルナ!シヤを頼む、俺じゃあシヤごとやっちまう!」


「了解した!ミトラ、ヴァルナ!あの黒いのは何の力か不明だ!決して触れるなよ!」


「そのぐらい分かってるわよ!」


「シヤさん!今すぐ助けます!」


マルト達はそう言って能力を使用し、シヤを『闇』から助けるべく、行動に移す…………………が。



現実はそう甘くはなかった。



マルト達が使った『風』、『炎』、『水』の能力が『闇』に飲み込まれた。



「っな!?………………クソ!…………シヤのように能力があの黒いのに飲み込まれてしまう!」


「な!?一体何なのよ!?あの黒いのは!?これじゃあどうしようもないわよ!?」


「何て強力な力なんだ!?」


3人は能力が黒い何かに飲み込まれ、触れることもできない状況で、ただただ助けを求めるシヤを見ていることしかできなかった。


「シヤ!気を確かに持つんだ!そんな力に負けるな!頑張れ!」


「あ"、あ"あ"、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!??た…………すけ……………て……………イ………ドラ」



その言葉を最後に………………シヤが『闇』に飲み込まれ………………消えた。



「シヤ?………………おい!シヤ!?どこだ!?どこに行った!?シヤ!?シヤぁぁぁあああああああ!!??」



姿が見えなくなったシヤにインドラが不安の積もった悲鳴のような叫びをする。


だがその叫びに、返す声は聞こえてこなかった。


「そ、そんな………………シヤが…………………」


インドラ含め英雄達は後悔、悲苦を表した顔をしてしまう。



それにレンは笑ったように応える。



「カッカッカッカ!まさに『ざまあ』ってやつだな!あのクソババアが居なくなってこれほど愉快になれるとは思ってなかったぜ!カッカッカッカ!」


そのレンの言葉を聞いて気分が良くなるやつはこの中にはいなかった。


 

「レン!………………お前!」



レンの言葉にインドラは怒りをあらわにし、レンを睨む。


その時、インドラはやっと気付いた………………レンの目が



「ッ!?…………レン、お前…………その目は…………何でお前が魔眼を!?…………まさかその力でシヤを……………」


「てめえに答える義理はねえ」


インドラの叫びをもろともせずに、レンが呟く。


「てめえも死ね」


レンはシヤにやった時と同じように、『魔眼 闇黒』の力を使い、インドラを『闇』が襲う。




……………が、それほど簡単なことではないようだ。



「この程度の力で俺に勝てるとでも思ったのか?」



そう言うと、インドラが黒い雷を身に纏い、『闇』を掻き消した。


「ッ!?」


「レン……………説明しろ、どうしてお前が魔眼を持っているのか、どうして俺たちに攻撃するのか……………そして、シヤをどこに連れて行ったのかを!」


レンが初めて感じるインドラの殺気の込めたプレッシャー。


インドラは微動だに動いていない、だが、そのプレッシャーだけで、レンは自分が押しつけられるほどものを感じた。




これが『帝王』の………………『英雄王』の力。




その圧倒的な力はまさに世界最強、そう思わせるほどのものだった。



「まあ、こんなんで『帝王』を倒せるとか、現実はそんなに甘くはねえよな」



こうなることは大方予想できていた、できていたのに……………これほど格が違うのか………………。


『帝王』であるインドラのプレッシャー、それを浴びただけで体中から汗が止まらず手足が震える。


そう、俺程度のやつなら戦わずに勝つことなんて造作もない、それほどの差が俺とインドラにある。


しかも相手はインドラだけでなく、仲間達の英雄達もいる。


勝つことは愚か逃げることさえ不可能に近い。


レンはバケツに入った水をかけられたかのように背中に冷や汗が大量に流れる。



クソ………………親父だけでもやばいのにおじさん達もいるのは………………もしかしてこれ詰んだか?



レンがそう考えていた時だった。




「はははは、なかなか面白いことになってるみたいだね」


「「「「「ッ!?」」」」」


この場にいる皆が気付かなかった。


レンが部屋に入るときは、皆が酒に酔い、話に夢中だったことで気付かなかったが、今は皆、酔いが覚め、尚且つ戦闘体勢に入っている。


それなのに気付かなかった………………………英雄王であるインドラさえも。




ナイが突如として現れたことに。




「ッ!?お前……………いつからそこにいた」


最初に反応したのはやはり英雄王のインドラだった。


インドラは相手に動揺を隠すように、冷静になって相手を観察する。


だがインドラの反応を英雄達は見逃さなかった。


「…………………インドラも気付かなかっただと!?どうやら只者ではないようだな………………………」


「な、嘘でしょ!?インドラが気づかなかったて………………何者よ!?…………………シヤがいなくなって悲しんでいる場合じゃないじゃない!いい加減にしなさいよ!」


「この謎の男にレン君のあの魔眼、そしてシヤさんの行方……………分からないことだらけですね………………」


この場にいる英雄達が知らない人物の登場に動揺を隠せなかった。


だが、ナイのことをこの中で唯一知っているレンだけは、みんなとは反応が異なった。


「ナイ!お前…………どうしてここに!?」


「はははは、やあレンさっきぶりだね、本当は数日後にやる予定だったけど、なんか面白いことになってるみたいだったからね、レン、


そしてそのレンの反応を見逃す者はこの中にはいなかった。


「!?………………レンの知り合い?………………レンが変わったのもお前のせいか?それに魔眼もお前がやったのか?」


「………タダで帰すわけには行かなくなったな…………まあ、元から返す気など微塵もないのだがな」


対してナイは…………………。


「はははは!僕はこっちをやるから『英雄王』は頼んだのよ、レン」


「ああ、任せろ」


ナイの言葉に俺はやる気を出して肯定した。


ナイの登場に一瞬戸惑いはするも、幾つもの戦いを潜り抜けた英雄達にとっては初めてのことではなく、すぐに戦闘体制に入った。



「お前ら、こいつを頼む。俺はレンをやる、数秒時間を稼げばそれでいい」


「インドラ、あんた私たちを舐めすぎじゃない?いくら『帝王』でも私たちなら最低でも数分は稼げるわよ?」


「まあ、その通りですが、相手は未知です。油断しないで下さいね」


「分かった、こっちは俺たちに任せろ」


仲間達の言葉に安心したのか、インドラが動く。



それはあまりにも…………………………速すぎた。



レンの目の前に居たはずのインドラが姿を消した。


「悪いがお前は少し寝てろ」


その冷め切った冷たい声は、目の前ではなく、背後から聞こえた。


レンは咄嗟に横に飛び、インドラが繰り出した手刀を避ける。


「……………避けたか……………それにしても初めての感覚だな……………子が強くなったのに、素直に喜べないと言うのはな……………いや、2回目か」


攻撃を避けたレンに対して、インドラは余裕の表情を隠しもせず、尚且つ、レンを舐める態度を変えることはなかった。


「はっ!いくら何でも俺を数秒で倒すってのは舐めすぎだろ!」


レンは強気にそう言うが、本音は違っていた。



(全く反応できなかった…………………正直、俺をやる時に余計なことを喋ってなかったら………………確実にやられていた)


レンの頬にきらりと冷や汗が流れる。


(今避けることが出来たのはただ運が良かっただけだ、次同じことをされても避けることができる可能性は高くはない……………か)


レンがこの絶体絶命の状況で取れる行動はないと言ってもいい。


勝つことは愚か逃げる事さえ不可能なのだから。

 


だが、その考えはすぐに変わる。



「いつまでも子供扱いしてたら、いつか後悔するよ?英雄王」


「ッ!?」


その瞬間、インドラが吹っ飛んだ。



「……………………え?」



レンは今、何がどうなったか全く分からなかった。


目の前に居たはずのインドラは吹き飛び、代わりに、目の前にはナイがいたのだ。



俺はすぐにナイが戦っていたはずの英雄達に視線を送るが、そこには無様にも床に倒れている英雄の姿があった。


「な!?お前こんなに強かったのかよ!?」


「はははは、まあね、僕こう見えて結構強いから」


だがこれで終わるはずもない。


『帝王』とは最強の存在なのだから。



「お前……………今何を…………………な!?体が動かない!?」


なんらかの方法でナイに吹き飛ばされたインドラは、すぐに立ち上がって反撃を試みるが………………なぜか体が動かず、立つことは愚か地に顔をつけるような体制になっている。


「英雄王、君の動きは少しだけ封じた、安心しなよ、数分したらすぐ直るから」


「ッ!?クソ!何をした!」


ナイがなんらかの力を、能力を使っているのか、『帝王』である『英雄王』のインドラが身動きが出来ないことにレンは驚きを隠せなかった。


そしてナイがレンに振り向き、口を開く。


「レン、もう準備は整ったからいつでも行けるよ。それと、旅に出るならお父さんとも会える回数が減るだろうし、なんか言ったらどうだい?まあ、無ければ無いでいいんだけどね」



親父に言いたいこと?…………………………そうだな。


俺は親父に……………いや、インドラに近づいて言うべきことを、言いたかったことを伝えた。



「親父……………いや、インドラ……………俺はもう、あんたを親だとは思わない。だからもう親父とは言わない。俺とあんたは今から親子ではなく『敵』だ。俺はお前を絶対に『殺す』…………………この世界を変えるにはインドラ、お前は邪魔だ」



「ッ!?レン!?何言ってんだ!何があろうと俺たちは血の繋がった家族じゃないか!だからそんなこと言わないでくれ!俺たちは家族だと………………言ってくれ!」


インドラが願いを込めてレンにそう言った……………が、それが今更レンに響くはずもなかった。



「血の繋がった家族?最初に裏切ったのはお前らだろ?あのクソババアとあんたはクト兄を……………血の繋がった実の息子を家族だと思っていたのか?いや、思ってるわけねえよな。家族にあんな酷いことをするわけがねえよな」


「そ、そんなことは!………………クトのこともちゃんと俺たちの家族だと思って!」


「じゃああんたは家族に毎日暴力を振るったり、罵倒したり、いじめられているのも知っていたくせに見て見ぬふりをする、あまつさえクト兄のことを見ようともせず、信じなかった………………そんなことをしてまであんたはまだ家族だと胸を張って言えるのか?」



「そ、そんな………………ことは…………………」


レンの言葉にインドラは罰の悪そうな顔をし、何か言いたそうにするが、その言葉が出てこなかった。なぜなら今レンが言ったこと全てがはてはまることであり、否定できず、どうしようもないからであった。


「言い訳すらできないか………………まあいいや、俺はこれからこの国を出る」


「ま、待ってくれ!レン!?お前はこの王国の…………英雄王を受け継ぐんだ!そんな勝手なことは許さない!だから行くな!レン!」


インドラが力を振り絞り声を出す……………だがそれを聞いたレンは心を揺さぶることは愚か軽蔑するかのような目でインドラを見る。


「俺はてめえの言いなりでも何でもねえんだよ!俺のことは俺が決めるんだ!他の誰にだって決めさせねえ!」


レンはその言葉をインドラに言い放って満足し、ナイに「頼む」と口にした。


「うん、英雄王との別れの挨拶は終わったみたいだし、いや決別かな?まあ何でもいいや」


ナイはそう言うと指で「ぱちっ!」と鳴らした。その瞬間レンの目の前の空間が歪み出した。


インドラはその強大な魔力、異変に気づきレンを止めようとする。


インドラは感じたのだ……………このままレンがどこかに行ってしまったらもう帰ってこないことを。


「やめろ!行くな!レン!」


インドラの叫びのように響く声を、レンは無視して目の前の歪み出した空間へと足を進める。




全ては『覇皇』になるために。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る