第10話 王国の英雄

英雄王インドラ。


彼は17年前、仲間たちと共に『破壊王』と激戦の戦いをし、見事勝利してこの世界にその名を轟かせ、『帝王』に、『英雄王』になった男である。


人類の皆が彼を称え、英雄と呼んだ。




そんな彼は今…………………仲間たちと仲良くお酒を飲みながら談笑していた。


現在、彼の年齢は40代となっているがそれを信じてくれる人はそういない、なぜなら見た目が20代前半の青年のように若々しいからだ。


だがそれはインドラだけではなく、他のメンバーもそう言えるものだった。


「最近、レンが反抗期気味でな……………ほんと困っちゃうぜ」


「その気持ちは私もよくわかる……………愛娘のルドに「お父さんと一緒に洗濯しないで!」と言われた時は涙が出そうになったよ」


彼はマルト・フウ。


ルドの父親でもあり、かつてのインドラの戦友で、共に破壊王との激戦に参加し、今ではインドラと共に英雄と言われる人物である。


ちなみに、この中では最年長だ。


「私のバカ息子は昔から生意気よ!あれやれ、これやれ、うるっっっさいのよ!何より私をババア呼ばわりするのよ!?

まだ私はピチピチの30代なのに!」


彼女はミトラ・サニー。


ロマの母であり、先程同様、インドラと同じく英雄と呼ばれる人物。


ちなみに30代だが、この中では二番目に年下である。


「いや、30代は随分ババアの気がするが……………」


「インドラ……………何か言ったかしら?よく聞こえなかったのだけれど………………気のせいかしら?」


ミトラは額にピキピキと青筋を出してインドラを睨みながらそう言った。


「い、いいえ!?なんっっっも言ってません!?」


インドラが誤魔化すように慌てて言う。


そんな光景を見て他の皆はゲラゲラと声に出して大きく笑っていた。


と、そんな時、何かを思い出したかのように童顔の青年が口を開く。


「そういえばアスが言っていたのですが、今日、教室でレンくんがいきなり暴れ出して、クラスのみんなを怖がせたらしいんですよね」


この童顔の青年はヴァルナ・スイ、アスの父親だ。


この中では最年少で同じく英雄と呼ばれる人物。


「え!?それ本当!?あの子ったら、一体何してるのよ!?」


彼女は以前も説明したがシヤ・ベルト。


インドラの妻でレンの母親に当たる人物である。


同じくシヤも破壊王との激戦に参加した英雄と呼ばれている。


「まじかよ………………レンのやつそんなことしたのかよ……………そういえばあいつ、朝調子悪そうだったもんな………………」


「そんなことより!レンは!?レンはそのあとどうなったのよ!?」


自分の息子であるレンが他に何かやらかしてないかと心配して、シヤがヴァルナに前のめりになって聞き入った。


「レンはそのあとすぐにアス、マロ、ルドの3人で止めたらしいですけど、そのあとドアを壊して逃げちゃったらしいですよ」


「な、あいつ本当に…………何やってんだよ…………しかもアスちゃんたちには迷惑かけるし………………」


インドラが呆れたように言う。


「はあ、アスたちには止めてくれてありがとうって伝えておいてくれる?あとちゃんと叱っておくからそのことも言っといてくれるかしら?」


シヤは額に青筋をピクピクと出しながら言う。


「わ、わかりました。アスにはそう伝えておきますね」


「私もルドに伝えておくよ」


「分かったわ、あのバカ息子にも伝えておくわ」


シヤは怒ると尋常じゃないほど怖い………………それはずっと一緒にいたみんなは誰よりもよく知っている。


昔、よくインドラが無茶をするたびにシヤは怒っていた。


………………4時間の説教、気絶するまで電気ショック、泣くまで殴るのをやめない、などだ。


それを知っているからこそ、この3人はシヤを出来るだけイライラさせないように従った。



「まったく…………………そもそもレンがああなっちゃったのは何もかも全てのせいよ!」


お酒が入っているせいか、いつもは大きな声を出さないシヤが声を上げ、尚且つ自分からの話をし始めた。


「シヤ、ちょっと飲み過ぎじゃない?」


「飲まないとやっていけないのよ!」


酔い始めたシヤに、ミトラがストップをかけるも、シヤはお酒を飲む手を止めなかった。


「『あいつ』?…………ああ、クト君のことか…………」


「ああ、クト君のことでしか…………………あれは何というか………………残念………………でしたね」


マロとヴァルナはシヤが言う『あいつ』と言う人物が息子の……………否、息子『クト』のことだと気づき微妙な顔になる。


「クトか……………………レンはあいつと仲がよかったからな…………………」


インドラがどこか懐かしいようにそう言った。


「そうよ!?全部あいつのせいよ!?あいつが死んでからレンが変わっちゃったのよ!?」


「たしかに、あの時からレン君が少しヤンチャに、と言うより、乱暴になった気がするな」


「そうね……………うちのバカ息子とも昔はよく遊んでたのに、あの日を境に絡まなくなった気がするわ」


「そうですね、あの日からレン君が変わってしまった気がしますね」


シヤの乱暴な言葉に皆は否定するのではなく、肯定していた。


だがそれは『クト・ベルト』がどう言った人物でどんなことをしたのかをよく理解しているからこそ言えるものだった。


「だいたいあいつは、インドラの能力である『雷神』の素質は愚か、私の『雷』さえも受け継いでいないのよ!?だから『半端者』なのかと思ったけれど魔力は凡人レベルだし、剣術や素手の戦闘の才能もないし、マシなのは少しだけ頭が良いってところだけよ!?何よそれ!?以下よ!?私とインドラの子どもなのに何も受け継いでない出来損ないなのよ!しかもあいつは魔人なんかと手を組むわ、死んでも迷惑かけるわで最悪よ!?あいつなんか産まなければよかったわよ!!」


シヤが酔ってるせいで思ったことを全て口に出してしまうが、皆はそれを止めずに肯定するとばかりにいきよいよく頷いた。


「たしかにな、俺もあいつが生まれてこなきゃよかったとどれほど思ったことか」


インドラが呆れたようにため息をしながら言う。


「たしかに………………英雄であるシヤと帝王である英雄王インドラ…………その子どもがなんの才能も持たず、尚且つ無能力者ときたら………………恥以外の何にでもないな」 


「とは言っても、普通あり得ないでしょ?シヤとインドラの子よ!?そんなのあってはならないことよ!」


「そうですね………………クト君は………………いや、クト・ベルトは、僕たち英雄にとっては恥ずべきこと……………生まれてきてはいけない存在……………ですね」


この場にいる者は全てクト・ベルトの存在を否定する。


するとマルトが「とは言ったものの」と言って話を続ける。


「レン君は昔からクト君と優秀でしたね」

 

マルトのその言葉を否定する者は愚か、肯定するとばかりに皆が「うんうん」と頷いている。


「まあ、レンは|………………何よりあいつは俺を超えて行く逸材だしな」


「「「ッッ!?」」」


インドラが嬉しそうにそう喋るが、マルト、ミトラ、ヴァルナの3人は少しの間、言葉を失う。だがそれは仕方のないことだった、インドラは世界最強の『帝王』の一人、「英雄王」だ。そのインドラが自分を超えると言ったのだ、即ち、次の『帝王』になる可能性が高いということだ。


「………………何と………………ものすごい才能の持ち主だと思っていたが………………まさかそれほどとは」


「インドラを超えるって……………本気で言ってるの!?」


「………………『覇皇』が決まるのも、そう遅くはないかもしれないですね」


3人がインドラの発言にそう反応を示す。


そしてその3人の反応を見たシヤは、さも当たり前のように言う。


「当たり前でしょ?私とインドラの子どもよ?」


シヤのその言葉に最初に反応したのはインドラだった。


「おいおい、クトを忘れているぞ?」


「あんな、もう私の子どもでも何にでもないわ!」


「失敗作か………………確かにその通りだな」


「ふふふふ、失敗作って、ふふふふ」


「確かにレン君と比べると天と地、いやそれ以上の差がありますからね」


そう言ってこの場にいる皆はまた、盛大に笑い声を上げる。


愉快な笑い………………とは違い、悪意が込められた馬鹿にしたような笑い声が部屋中に駆け巡る。






酒に酔い、話に夢中だったので気づかなかったのだろうか。






それはあまりにも…………………唐突だった。




……………………ガチャ




「「「「「ッッ!!??」」」」」






全員が気づかなかった…………………………………。






ドアを開いて部屋の中に入ってきたのは………………





―――――――――――――――




―――――――――――――――


 



………………レンだった………………








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