第9話 闇黒と真実

「え?……………俺、魔眼の能力を……………使えるのか?」


「うん、使えるよ」



……………………………………………



……………………………………………



「え!?使えんの!?」


ナイが、さっきは使えないと言っていたのに、今は逆に使えると言っているので驚きの声を上げてしまう。

 

だがこれを驚くなと言うのも今のレンには無理な話だった。



「え!?いや、でも!さっきは両目が同じじゃないと能力を使えないって………………」


「うん、そうだよ。魔眼は両目が同じじゃないと能力を使えない………………………普通はね」


「ど、どう言うことだ?」


「もう一度、よく自分の魔眼を見てみなよ」


俺はナイに言われた通り自分の魔眼を鏡で観察する。


「いや、よく見てもわかんねえ………………よ?あれ?なんか両方同じような模様になってないか?………………」


レンの魔眼の輝きの色は全く違えど、中心あたりにある模様はどちらも同じ立体的な三角模様になっているのだ。


「そう、魔眼とは目の色の輝きで決まるのではなく、その模様があるかないかで魔眼が成立するんだよ」


「…………え、えーと…………つ、つまり…………」


「つまり、目の色が違っても同じ模様であるなら能力を使うことが可能ってことだよ」


「ま、マジかよ!?」


「ああ、マジだよ。でも君の場合、他の魔眼保持者より能力は少し劣ってしまうだろうけどね」


「え!?そうなの!?……………左右色が違うせいか?」



「その通り、君は左右違う輝きを放っているからね。だから君は片目の力しか使えないんだ……………まあ、でも君は魔眼の能力が使えるけどね」


「なるほど………………だから俺の魔眼の能力が他の奴より劣るのか…………………………………って、今お前なんて言った?」


「………………その通り」


「違えよ!もうちょっと後だ!」


「………君は魔眼の能力が二つ使える…………ってところ?」


「そう!それだよ!?………………俺、魔眼の能力を二つも使えるのか!?」


「うん、そうだよ…………………だって君、左右目の色が違うし」


「ま、マジかよ!?魔眼の能力を二つも使えるってことは……………元の俺の能力である雷神と合わせて三つも能力が使えるってことか!?」


「まあ、そうなるね」


今、ナイは軽く言っていたがこれは只事ではなくとんでもないことである。


(だって俺、この世界で能力が三つも使えるやつなんて聞いたこともないんだが!?)


レンが驚くことも当然のことと言えた。


するとナイがニッコリと笑いながら喋り出す。


「早速その魔眼の能力を使ってみたらどうだい?」


その言葉にレンは「はっ!?」と反応して、すぐに能力を使ってみようと試みることにした。


「自分の新しい能力を把握することも大事だからね」


「そうだな……………」


レンは隠しきれないほど新しい能力を使えることでワクワクして、笑みが漏れていた。


………………が、それはすぐに真顔へと変わってしまった、なぜかと言うと。


「……………てかどうやったら魔眼の能力が使えるんだ?」


肝心の能力の仕方がわからなかったからだ。


それには流石のナイが「ズコッ」と転んでしまいそうになる程だった。


「………………え〜と…………魔眼に魔力を集中させて、強く「使う」と意思を持ったら使えるはずだよ…………まあ、君の『雷神』みたいに能力を使う時となんら変わらないよ、でも君の場合は左右違う能力になってるから片方づつ使ってみたらいいと思うよ」


ナイが少し疲れたようにそう言った。


対してレンはやる気満々だった。


「案外簡単なんだな…………よし!やるか!」


そしてレンは自分の目だけに集中して魔眼の能力を使用する。


まずは右目の魔眼から………………すると右目の魔眼が黒色に輝き出した。


そして、


「な!?なんだ……………これ!?」


それはレンを包み込むかのように大きくなっていきレンに絡みつく。


「は、離れねえ!?クソッ!」


レンは体を動かし、体に絡みついてきた黒い何かを無理矢理切り離そうと試みるが……………その黒い何かは一向にレンから離れず、それどころか時間が経つにつれ大きくなり、先ほどよりも強くレンに絡みついてくる。


「魔眼に魔力を流すのをやめて能力を強制解除するんだ!早く!」


黒い何かに飲み込まれそうになり、冷静になれずに暴れているレンにナイが叫ぶように声を出す。 


「止まりやがれ!」


レンはナイの言葉を聞いてすぐに魔眼の能力を強制的に解除するため、魔眼に魔力を流すのを中止させる。


するとレンから離れなかった黒い何かが消滅していく。


「がはっ!はあっはぁっ……………何だったんだ…………今の」


黒い何かが完全に無くなったのを確認してレンが今のが何だったのかそして何が起こっていたのかを冷静に考えることにした。


だがその答えを、レンは導き出せなかった。分かったのはただ一つ……………あの黒い何かが魔眼の能力であると言うことだけだった。


だがナイは先ほどの黒い何かを知っているのか、語り出す。


「今のは……………『』だ」


「…………………『闇』?」


俺の問いかけにナイが説明するように口を開く。


「『闇』とはあらゆる物を飲み込み、喰らい尽くしす。そして全てを無に還す力……………そして…………


ナイが『闇』と言った先ほどの力のせいで、疲労してしまったレンには最後の方の言葉までは聞き取ることができなかったが、疲れてもなお、聞き取ることのできた言葉があった。


「……………全てを無に還す力……………」



ナイが『闇』と言った先ほどの黒い何か………………その力がどう言った物なのか、聞いただけではわからないことばかりだが、今のレンには一つの目標とも呼べるべきものが増えた。 



「絶対に自分のもんにしてやる」


あの『闇』の力を自分で使いこなせるように、自分に言い聞かせた。


「初めて使うんだ、使いこなせないのは仕方のないことさ、でも使い続ければ自然と慣れていくはずだよ…………だから焦らず頑張るんだね」


ナイが慰めのように言ってくれる言葉が今の俺にはありがたかった。




するとナイが「じゃあ」と言って喋り出す。


「左目の方はどうする?今の君は疲れてるだろうし、明日にするかい?」 


「……………いや、今日にするよ……………このままじゃ能力が気になって眠れなさそうだしな」


ナイが明日にしないか?と提案してきたが俺はどうしても今すぐに魔眼の能力を知っておきたいのでこのまますると言った。


………………………ナイにはああ言ったが、正直言って今めっっっちゃ疲れてる。魔眼にした反動で未だに体が痛いし、さっきの『闇』のせいで疲労が半端ないし余計体が痛くなったし…………………はっきり言った全然大丈夫じゃない…………………だからレンは体に鞭打って、左目の魔眼の能力を発動する準備をする。


「そっか…………じゃあ僕は君を見守ってるよ」


「ああ、そうしてくれると助かるぜ」


見守ってくれる………………その言葉だけで今のレンには十分なほどありがたかった。


レンはさっきの事もあり、次は警戒心を高めて左目の魔眼の能力を使用する。


左目が綺麗な白色の輝きを放つ。



………………………………だがレンの体には何の異変も起こらなかった。


「……………さっきの『闇』みたいに暴走することはなかったけど……………いたってどこも変わってないような……………」


そう、レンは左目の魔眼の能力を発動させたが、特に何かが変わった、などのようなことは起こらなかった。


するとナイが、戸惑っているレンに声を掛ける。


「その魔眼で周りを見てごらん」


「周りを?」


レンは、ナイに言われた通り、周りに視線を送る。 



すると……………………………。




「…………………ん?…………………んん!??」



すると、レンが公園に視線を送ったとき、地面で小鳥だ数羽戯れていた。


それだけでは何ら変わらないはずだが、レンの左目には小鳥たちが飛び立ったいる光景が映し出されていた。だが右目で見ると小鳥たちは飛び立ってはおらず地面をツンツンしている。


(……………どう言うことだ?)


レンがそう思った時だった、小鳥たちがいきなり飛び立ったのだ………………その光景は何ら変わらないはずなのだがレンだけは違ったのだ………………その小鳥たちが飛び立つ光景が左目の魔眼で見た光景と全く同じだったからだ。


「な!?え!?どう言うことだ!?」


レンは今、何が起こったのかが分からず、声を出して驚いてしまった。


「……………レン……………僕を見てごらん」


驚いているレンにナイが自分を見るように言う。


するとナイがポケットから一つのコインを取り出し、それを上へと投げた、そして落下してくるコインを素早くキャッチする。


「どっちの手にコインがあるでしょう」


ナイがそう言って両手をレンの前に出して言ってくる。


「え!?ちょ、い、いきなりかよ!?てか何でこのタイミングなんだよ!?」


魔眼の能力を確認してるときにナイがいきなりこれを始めたものなので、レンは訳が分からずナイに聞くが……………。


「さあ、どっち?」


全く話を聞いてくれなかった。


「いや、何でだよ!?………………てか、いきなりすぎてどっちあるかも分からねえよ!?」


レンがそう言ったとき、ナイはあの不気味な笑みをしながら言う。


「じゃあ、その目で見てみなよ」


「え?」


レンは訳が分からないままナイの言われた通り、コインを隠してるであろうナイの両手を凝視する。


「いや………………わかんねえ…………………よ?」


レンが最後まで言いかけた時だった、また左目に今とは違う光景が映し出される。


左目に映ったのは、ナイの右ポケットにコインがしまってある光景だった。


「……………………え?……………………右ポケット?」


「正解!」


レンがそう言うと、ナイは何もない両手を開いた。


そしてレンの見た光景と同じように、右ポケットに手を入れコインを取り出した。


!?…………………まさか、これって!?



「な、こ、こここ、これって………………ま、ままま、まさか!?未来予知!?」


レンが今までの出来事から考え抜いた魔眼の能力、それは未来予知だった。


「さっき鳥が飛び立った時や、ナイのコインなどから考えても………………左目こっちの魔眼は少し先の未来が見えるってことか………………」


レンが導き出した答え…………それにナイは…………。


(意外と頭が回るみたいだね………………でも)


「惜しいけど不正解だね」


「……………………はっ?」


レンの答えに対してナイが不正解と言って否定した。


「君のもう一つの魔眼の能力はだよ」


「運命を………………見る?」


「そう運命だ」


(………………え?未来と運命って同じじゃないの?)


ナイの発言にレンが最初に思った感想だった。


だがナイはそう思っていないのか話を続ける。


「未来と運命は似てるようで全く違うんだよ。未来とはこ先に起こる未特定の将来のこと、対して運命は決まってしまっている………定められている将来のことだ」


「つまり、未来は確実とは言えないけど運命ってのは確実が言えるってことか…………でもナイはどうして俺の魔眼の能力が未来を見る力じゃなくて運命を見る力だと思ったんだ?今ので普通わかるか?」


レンがナイに感じた疑問だった。


だがよく考えてみればこの疑問は当たり前のことだ、未来と運命は今のナイの説明からでも似ていることがわかる、なのになぜナイは運命と確信を持って言ったのか。


「君がすぐに、コインがどこにあったか答えられたからさ」


「は?どう言うことだ?」


レンの疑問にナイが詳しく説明を始める。


「例えば君が右手を選んだとしよう、そうすれば君は右手にコインがあるか、ないかを見ることができる、それは左手の場合も同じだ、だけど君は、僕が選ばせるようにした両手を選ばずにコインが入っているポケットを選んだ、つまり君はことになるんだ」


「…………なるほど……………運命の場合は仮定はなく、結果だけを見ることができるからか」


「そうだよ、運命は一つしか見ることができない。だけど未来は違う、運命のように決まったものではないから自分の選択したものの仮定から結果までを見ることができるんだ、つまり一つではなく、複数見えるはずなんだ」


ナイの説明に「なるほど」と言ってレンは頷いた。


運命を見る、それがどれほどの力なのか、今のレンには実感が湧かないが強力な力だと言うのだけが分かっていた。




するとナイが当然、何かを思い出したかのように声を上げる。


「ところで君はその魔眼になんて名前を付けるんだい?」


「名前?ああ、そう言えば名付けないといけないんだったけ」


「うん、まあ、絶対ってわけじゃあないけど僕は名付けてない人を知らないね」



「……………名前か…………………」


レンはしばらく考えるそぶりを見せて………………



「ナイ………………お前が名前を付けてくれないか?」


「…………………え?」


レンの言葉にナイが驚いた顔をした。


それはレンにとっては初めて見るナイの驚いた表情であった。それがレンにとっては面白くてどこか嬉しく感じた。


「………………僕が決めていいのかい?」


「ああ、元はと言えばお前のおかげだしな………何よりお前に…………付けて欲しいんだ…………ダメか?」


レンが


「はははは、いいよ!僕が君の魔眼に名を付けてあげるよ!」



「カッカッカッカ!よろしく頼むぜ!」


ナイは「ああ」と言って少しの間、考える素振りをしたが、すぐに口を開いた。


「君の右目の魔眼はの力を使うことが出来るから『魔眼 闇黒』そして左目の魔眼はを見ることが出来る、だから『魔眼 真実』……………なんてのはどうだい?」


「『闇黒』と『真実』か…………」


「君の魔眼は左右違う輝きと能力だからね、だから二つの名前を付けてみたんだけど………………どうかな?」


ナイが少し不安そうにレンの顔を覗き込むが…………


「カッカッカッカ!いいじゃねえか!『闇黒』と『真実』!かっこいいじゃねえか!気に入ったぜ!」


ナイの決めた名前に満足そうにするレンに、安心してナイが

安堵のため息を漏らす。


「気に入っていただけてこちらも満足だよ……………ところで、レン…………君はどうやってこの王国から出るんだい?」


「ああ、そのことか………………」


レンは王国から出たくても、英雄王の子どもゆえ、旅に出ることはおろかこの国から出ることも難しいだろう。だからナイはレンに「どうやって王国を出るか」と聞いたのだろう。


(親父にこの国を出たい!………………って言っても絶対許してくれないだろしな………………)


レンは英雄王の子どもで、なおかつ父の能力『雷神』を受け継いでいるので父だけでなく、王国の全国民もレンが旅に出るのには反対するだろう。


だが、それでもレンの思いが変わることはなかった。



ならどうする?



………………………………………



………………………………………



…………………レンがそう考えていた時………………なぜか頭に……………………。




―――あの失敗作がこんなに強いわけがない!―――


―――王国の恥だ!―――


―――追放だ!追放させろ!この国から出て行け!―――




俺が気絶してる時に見た夢がなぜか今、頭の中で映し出された。



「っああ!!」


俺は咄嗟に耳を塞ぎその場で座り込んでしまう。




―――壊したい―――



ダメだ!



―――失くしたい―――



なんで!



―――殺したい―――



なんでそうしたいと思ってんだよ!




これが自分の本能なのかはわからない……………でも俺は必死に反抗し続けた……………自分を見失わないために。






俺は気づかなかった……………この時、ナイが不気味な笑みを浮かべていたことに。



そしてナイは不気味な笑みを漏らしながら言う。


「レン……………君がこの国から出るいい方法があるよ……………だがそれをすれば君はもう、この王国には帰ることが出来なくなるけど……………やるかい?」


ナイはそう言うと手を差し出す。



俺がその手を取ってしまったら、もう後戻りはできない………………そんな予感がする…………………。




でも俺は………………俺は…………………。















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