第12話 覇皇になるための道

レンの視界に広がったのは先ほどとは打って変わって違う光景だった。


辺り一面に広がる光景は自然豊かな大地、そして緑。王国とは全く違う、見たことのない景色。


空を見上げるといつの間にか夜が明け、綺麗な日が出ていた。


インドラたちから逃げて来た俺たちは今、ナイの力で転移し、見知らぬ森にいた。


「ここは…………」


「王国外だよ」


口に出てた言葉の答えをナイが応える。


「王国の……外の…………俺の知らない世界」


初めて見る景色。


初めて来る王国の外の世界。


初めての…………解放感。



それを見て俺は………………笑っていた。



「カッカッカッカ!俺はまるで鳥だな………………王国と言う鳥籠とりかごに囚われていた鳥……………だが今は鳥籠から飛び出した自由の鳥だ」


「はははは、じゃあ今の君はどこにでも飛んでいけるね」



大変な一日だった………………ルドたちに怒るわナイに目を魔眼にしてもらうわ、おや…………………インドラたち、王国の英雄を相手にするわ……………母親だったシヤをこの手で………………本当に濃い一日だった。


「俺はもう…………自由なんだ」


俺の人生が変わったんだ………………ナイのおかげで。


王国には今までの俺の思い出がある。


悲しくないと言ったら正直嘘になるだろう。でも後悔はしていない、これが俺の選んだ道だ。


覇皇になるため、俺はこの世界を周る。  


そう言って、俺は改めて自分の決断に覚悟を決めた…………その時、ナイが口を開いた。


「ところでレン、君がこれから旅をする上で提案があるんだけど」


「提案?」


するとナイが「うん」と言って話を続ける。


「君はこれから世界に出るんだろ?なら『英雄王の子供』と言うレッテルは邪魔だし君も嫌いだろ?ならいっそ、その名を捨てたらどうだい?」


「名を……………捨てる?」


「代わりに僕が君に名をあげるよ―――ネフなんてのはどうだい?」


「……………ネフ……………」



……………………………………



……………………………………




ナイの言う通りこれから旅をする上で『英雄王の子供』と言うレッテルは間違いなく邪魔になる、だから名前を変えることには別に構わないが……………………あんましかっこよくなくね?



レンは一応年頃の男だから「かっこいい」ことに憧れがあるのだ。



どうせならもう少し強そうでかっこいい名前がいいな…………『メルエム』とか『ネテロ』みたいな…………。


俺がそう思っていた時、ふと、ナイの言葉に返事をしていないと思い、ナイの方へ視線を向ける。


そこには顔を赤くして頬を膨らませて、いかにも不機嫌とわかるほどの顔をしているナイがいた。



……………………なんか拗ねてね?



え?もしかしてこいつ俺の心の中を読めるのか?それとも口に出てたのか?それとも返事が遅いから不満を持ったのか?


俺がそんなことを考えていたら………………


「……………気に入らなかったら別にその名前じゃなくてもいいから」


さっきまで拗ねてたはずのナイが、次は泣きそうな顔でそう言った。


「い、いやいやいや!ネフ!俺この名前ちょー気に入った!なんか強そうだしな!うん!そうだ!かっこいいよ!マジで!お前センスあるな!」


俺が慌ててナイをフォローする様にやや大げさに言った。


「………………本当に?」


「マジマジ!おーマジで!」


「じゃあ、その名前でいいの?」


「おお!その名前がいい!てかその名前でお願いします!」


「…………そんなに気に入ってくれるなら…………僕としても嬉しいよ」


ナイはそう言ってさっきとは打って変わって満面の笑みを浮かべていた。


俺はその笑顔を見て「ふぅ」と安堵のため息を漏らす。


「じゃあ、行くとするか」


俺がそう言うと「あ、ちょっと待って」と言ってナイが口を開く。


「東に向かうといいよ」


俺がこれからどこに行くか迷っている時に、ナイはまるで俺の心を読んでいるかのようにそう応える。


「東?そっちになんかあるのか?」


「近くに村があるんだよ……………今の君は旅をする上で準備不足だからね、そこで整えたらいいよ」


ナイの言葉に「なるほど」と思った俺は「じゃあ東に行くか」と言って最後にナイに振り向く。


「じゃあ、ここでお別れかな……………」


「そう……………だな」


俺のこの旅に、ナイは一緒について行くことが出来ない……………でも、ナイを忘れることはないだろう。なぜならナイは俺の…………全てを変えてくれた恩人だから…………。


「その…………なんだ………え〜と…………ありがとな」


頬をほんのり染めたレン……………否、ネフは頬を「カリカリ」とかきながら照れたようにナイに感謝を伝えた。


「はははは、それはお互い様だよ。ネフ、ありがとう」


ネフはさらに頬を赤くしたのを誤魔化すようにナイに微笑む。



――――――――――――



――――――――――――



ここで俺とナイはお別れ…………もう終わりということを2人は悟っていた。


だからだろう、ナイが最後に伝えたいことをネフに伝える。


「またいつか、必ず君と出会う日が来る」


ナイのその言葉には強い意志が感じられた。


まるでそう確信しているような………………


「だから次君と出会った時に……………聞かせてくれないか?君が『覇皇』になったらこの世界をどう導いてくれるのかを」


ナイは何かを期待するかのように俺を見る。


だから俺は………………


「ああ、約束だ」


俺はそう言って拳をナイの前に出す。


一瞬ナイが驚いた様子を見せるが、その意味が分かったのか、ナイも拳を前に出し、俺の拳にぶつける。


「楽しみにしてるよ」


「カッカッ!おお、楽しみにしてろよ!」



数秒いや数十秒だろうか?そのぐらいの時間が経過して俺たちは拳を下ろし、歩みを進める。



もう振り返ることはない。



俺はこれから親から貰った名を、故郷を、友を、全てを捨てて旅に出る。



俺は……………ネフはこれから『覇皇』になるため、その道を歩む。










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