第5話 自分自身の答え

『さすがは英雄王の子だ』……………それは俺にとっては呪いの言葉だ。


俺がいくら努力しても、結果を出しても、その言葉が必ずついてくる………俺はそれが嫌いだった………。


その言葉は俺を見てはくれない。


その言葉は俺の努力を見てはくれない。


その言葉のせいで結果に出せないと罵声を浴びせられ失望される。


その言葉は俺をレンではなく『英雄王の子ども』としか見てはくれない……………。



ずっと嫌だった……………俺がどれだけ頑張ってもみんなは『英雄王の子ども』としか見てはくれない、だから俺がどれだけ努力して手にした結果であってもそれを努力としてではなくとしか見てはくれない。


それは幼馴染みも実の親でさえも例外ではなかった……1人を除いては…………。


クト兄はいつも俺の味方だった…………クト兄だけが俺の努力を見てくれた………クト兄だけが俺を『英雄王の子ども』ではなく俺を俺として…………レン・ベルトとして見てくれた…………それが嬉しかった………俺の救いだった…………。


クト兄が結果に出せなくて逆に俺が結果を出した時はそう珍しくはなかった、それが俺にとっては怖かった…………クト兄が俺を見る目が変わってしまうんじゃないかと思っていたからだ…………だがクト兄は違った、逆に俺を褒めてくれた…………あまつさえ自分のことのように喜んでくれた…………弟の俺が兄のクト兄よりも良い結果を出して、みんなから比べられることや不満をぶつけられてもなお…………喜んでくれた……………それが俺にとってはありがたくもあり救いでもあった。



そんなクト兄がいなくなったのは―――全て―――





―――――――――――――――――――




―――――――――――――――――――






俺は教室を飛び出してから昨夜行ったあの公園へと足を進める。


それは昨夜、ナイに言われた言葉の答えを…………俺自身の答えが見つかったからだ。


だが公園についてもナイの姿がどこにもない。


「……………そういえば、昨日と同じ時間って言ってたな……………流石に早すぎたか……………」


昨日ナイと会った時間がだいたい午後10時くらいにたいして今の時間は午前11時言ってないかどうかという時間だ………………流石に早すぎてナイの姿が見えないのは当然だ。


(…………どこかで時間でも潰してくるか…………。)


レンはそう言うと近くのお店に入って時間を潰すために公園を出ようとした………………そのとき。

 


「あれ?昨日約束した時間は夜の10時ぐらいじゃなかったっけ?……………今、お昼の11時だよ?流石に早すぎないかい?」


「ッ!!??」


背後から聞き覚えのある声がして俺は咄嗟に後ろを振り向く。


そこには昨夜会ったナイがいた。


「………………お前も来るのが随分早いんじゃねえか?」


「はははは、たしかにそうだね…………君と話すのが楽しみすぎて早くきちゃったよ」


そんなナイの冗談まじりに俺は………。


「カッカッカッカ!それでも11時間前だぞ?楽しみにしすぎだろ!?」


こんなに早く会えるなんて思わず俺とナイはつい笑ってしまう。


………………こんな感じで笑ったのなんていつぶりだろうか?


レンがそう思うほど久しぶりに笑った。


そしてナイは「さて」と言って話を進める。


「レンがここに来たと言うことは…………君自身の答えが見つかった……………と、思っていいのかな?」


「ああ、俺は俺自身の答えを探し出すことができたよ」


俺が自信満々にそう答えるとナイはわかりやすく機嫌を良くしながらまた笑った。


「はははは、そうか、見つけたのか…………教えてくれるのかい?」


「そうじゃなけりゃあここに来てねえよ」


「はははは、それもそうだね」


そしてナイは「それじゃあ」と言って昨夜と同じ質問を俺に問いかける。


「レン…………君はこの世界が好きかい?この世界が…………正しいと思うかい?」


ナイのこの質問の答えは…………俺の中ではもう決まっていた。


「………この世界のせいで俺の…………俺の大切な人が居なくなった…………国民の自分勝手な思い、仲間だと思っていた奴らの裏切り、実の親にさえ期待されず、勝手に失望され、罵倒された。…………だから俺はこの世界が正しいなんて思わない…………だから俺はこの世界が嫌いだ…………他の誰かがなんと言おうが俺の気持ちは変わらない…………この世界は間違っている!」



それが俺の答えだった………………。




それを聞いたナイは……………。



「ははははははは!いい答えだ!やっぱり!」


そう言ってナイはさっき………いや、それ以上の笑みをもらした。


「『君で良かった』?…………何がだ?」


「いや、なんでもないよ、気にしないでくれ」


ナイはそう言うと急に真面目な顔になり、また俺に質問をする。



「じゃあ君は…………レンは………この世界をどうしたいんだい?」


「世界を?…………そんなのどうしようもねえだろ?」


「いいや。そんなことはないよ……………この世界を変えることは可能だよ?」


なんと否定されてしまった……………そんなことが本当に可能なのか?


俺がそう思っていたとき……………ナイがとんでもないことを口にした。



「可能だよ……………になれば…………ね。」


「ッ?!……………お前正気か?!」


俺は思わず大きな声が出てしまう。


だがこれは仕方のないことだった。


(こいつ今って言ったのか!?正気か?!それともジョークか?)


だがそんなレンの考えをナイは否定する。


「はははは………僕は正気だよ?………君はを知っているのかい?」


「知ってなきゃこんな反応はしねえよ!?てかそんなことガキでも知ってぞ?」


そもそものことをこの世界で知らないやつは逆に珍しいだろう。それほどまでにと言う存在は大きいのだ。


「はははは、それもそうだね…………必要ないと思うけど説明しておこうか………」


そう言ってナイは語り出した。


「『』………それは『神』が決めた王の中の王、世界を支配、征服、自由にすることができるだ。………とは言っても当然簡単になれるものではないけどね。だが『覇皇』になるには最低でも神に選ばれた『帝王』になる必要がある………君ののようにね。」


「ッ!?」


「そして君はこの世界が間違っていると、嫌っていると言った。ならどうする?変えるんだよ!君が!この世界の『王』に、『覇皇』なって世界を導くんだ!」



なんでだ?……………なんで俺は…………こんなにも……………興奮してるんだ?


ナイの言葉はに考えたらただの夢物語の話だ…………なのにレンには…………自分ならできると…………そう思ってしまうんだ……………。





―――ナイのその言葉がレンの全てを変えた―――




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る