第4話 なにが悪いのか

「君の大切な人がいなくなったのは全てだろう?」


なぜこの言葉が頭から離れないのか………わからない。


この世界のせい?


クト兄がいなくなったのが?


クト兄がいなくなったのは……………。



「……………もう暗くなってきたし話の続きは明日にしよう」


「えっ?!」


「この世界が正しいのか間違っているのか…………ゆっくり考えた上で君の答えが聞きたい」


「な、なんで!」


「ただの興味だよ。一晩ゆっくり考えてまた明日同じ時間にここに来たまえ」


「……………俺が明日来ないかも知れないぜ?」


「いや、君ならきっと来るよ」


その男はまるで俺が行くことを確信しているように言った。


「じゃあ、また明日」


そう言って男は後ろに振り向いて歩き出す。


その後ろ姿に俺は思わず……………。


「俺はレンだ…………あんたの名前は?」


「………………僕は……………ナイだ」


男は…………いや、ナイはそう言うと黒いフードを取って顔をあらわにした。


「また明日………ね」


ナイはそう言うと暗闇に消えていった。


「ナイ…………か」


俺はナイが消えたのを確認してナイの名前を覚え、質問の答えを…………自分の答えを探すのだった。










ナイの質問について考えながら適当に歩いているといつのまにか家の前まで着いていた。


その後のことは不思議と覚えてはいない、おそらくナイの質問についてずっと考えていたからだろう。


なんでクト兄がいなくなったのか……………国民がクト兄に不満をもったから?みんながクト兄に不満を持っていたことを知っていてもそれを支えてあげなかった親父や母さんのせい?仲の良かった親友に捨てられたから?……………俺がクト兄のことを支えてあげていたけどそれが足りなかったから?


考えれば考えるほど嫌になってくる……………自分がどれほど無力なのかがわかるから……………。


どうしてクト兄がいなくなったのか……………考えてみれば山ほどでてくる。


それは世界が間違っているから?


………………わからない。



わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。




ピロロロロ


目覚まし時計の音が部屋中に聴こえる。


その音でもう朝になっていることを悟る。


「一睡も出来なかったな……………」


レンは一晩中、昨夜のナイの質問を考えていた。


だが一晩中考えても答えが出なかった。


世界が悪い?………いや、一番悪いのは………俺じゃないか?


考えていけばいくほど自分のせいではないかと思えてきてしまう。


だがそれは間違えてはいないと思っている………実際その通りなのだから…………。







俺はクマのできた目に冷たい水をかけ無理矢理目を覚ます。


朝食を軽く済ませて制服に着替え、遅刻しないよういつもの時間に学園に登校する。


……………途中、親父に会って何か言いたそうにしていたが、俺はそれを無視して学園へと足を進めた。






「…………嫌われてんな…………」


インドラはレンがいなくなったのを確認して弱々しく独り言を呟いた。


「今が反抗期なだけじゃない?ほっとけば大丈夫だと思うけど…………」


「…………シヤ…………」


インドラの独り言に応えたのはシヤ・ベルト、インドラと同じ英雄であり妻でもある、必然的にレン・ベルトの母親に当たる人物である。


「反抗期…………か。……………あいつはまだクトのことを気にしてるんだよ……………」


インドラがそう言うとシヤは「はあ」と大きなため息をした。


「………名前を聞いただけで虫酸が走るわね………」


「………お前は魔の者が大っ嫌いだからな………いくら嫌いでも我が子なんだぞ?言い過ぎじゃないか?」


「あいつは私たちよりもを選んだのよ!?これぐらい言ってもおかしくないはずよ?!…………それに………もう私あいつのことを家族だとは思っていないわ」


「はっきり言って俺もシヤと同じ考えだが…………レンはそうじゃないからな〜」


「まあ、レンはクトにすごく懐いてたらから仕方ないわよ」


「…………時間が経つのを待つしかないか…………」


「ええ、それがいいわよ」


そう言って二人は口づけをしてお互いの仕事場に向かうのだった。









『君はこの世界が好きかい?』


ナイの言葉が頭から離れない。


なぜ俺がこんなにもナイの言葉が気になってしまうのか……………やはりわからない。



……………………き…………。


…………………きろ………ん。


…………おき…………レ……。


(………なんだ?うるさいな)



そう思っていた時……………。


「ドンッ!」


額に強い衝撃が走り俺は目を覚ます。


「あだっ?!」


俺は思わず衝撃が走った額の箇所を手で押さえてしまう。


「起きろ!レン!」


目を覚ますと黒板の前で顔を真っ赤にしながら先生が怒っていた。


(やべっ…………もしかして寝てたか?)


どうやら昨夜寝れなかったのが効いてきたのかレンは授業中寝てしまっていたらしい。


すると先生が口を開く。


「居眠りなんかしてないで真面目に授業を受けんか!」


「す、すいません」


「全く、お前は優秀だからといって少し弛んでいるんじゃないか?もっと集中しなさい!」


「別に優秀だとは………………すいません」


ここで否定すればめんどくさくなるのは目に見えているので俺は言うのをやめる。


「罰として能力と魔力について説明しなさい!」


(うわ〜…………めんどくせぇ)


めんどくさいがここで答えなければもっとめんどくなるので俺は仕方なく答える。


「え〜と、能力と魔力はいずれも誰もが………………ほとんどの人が持っている物で魔力は体から出るエネルギーのことであり人によって魔力の量と出力には個人差がある。能力は魔力を消費して使うものであり、これもまた人によって違う。多くは親の能力が受け継がれたり似ることが多い。………………です」


「正解だ…………座ってよし」


先生の言葉に俺は着席する…………と、同時に。


「キーンコーンカーンコーン」


と鐘の鳴る音が校舎中に鳴り響いた。


「今日の授業はこれで終わりだ、復習しとくように」


先生はそう言うと教室から出て行った。


俺は「はあ〜」と大きなため息をした後、次の授業の準備をしようとした時……………。


「こらー!レン!」


背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。


振り向くとそこには手を腰に置いて怒っているルドがいた。


「なんで授業中寝てるよ!」


「いや〜……………実は昨晩眠れなくてな」


「…………昨晩?何かあったの?」


「いや…………なんもないよ」


「ほんとに?」


そんな会話をしてた時…………。


「なんだ?自分は優秀だから授業なんか必要ないって思って寝てたのか?」


俺とルドの間から突然誰かが入ってきた。


「そんなんじゃねーよ…………夜眠れなかっただけだ」


この、顔が整っていてヤンチャそうな男はロマ……………俺の幼馴染みでもありなにかと俺をライバル視してくるめんどーなやつ…………ちなみに親が俺たちと同じ英雄だ。


「さあ、どうだかな?お前最近調子乗ってるらしいからな」


「調子になんかのってねーよ」


ああ、ほんとーに面倒くさい……………なんでこいつはいつも俺を敵視するんだよ!


「お前たち、少し騒がしいぞ、他の人に迷惑だと思わないのか?」


「うわっ」


「なにが『うわっ』よ!あなたさっきの授業寝てたでしょう?少したるんでるんじゃないか?」


ロマの後ろからまたもめんどーな奴がやってきた。


…………このメガネかけてる真面目そうな女はアス………………幼馴染みで………俺たちと同じ…………説明するの面倒くさいからこれだけにしておく………………めんどーだから。


てかなんでこいつまで……………まじで面倒くさい。


「こいつ、自分は優秀だから授業なんて必要ねーとか考えてんだぜ?」


「む、そうなの?おい、レン!いくらなんでも怠惰すぎるんじゃないか?その考えはいつか足元を救われるぞ?」


「いや俺はそんなこと思ってすらねーて」


「もっと真面目にやれ!だいたいお前は、ああだこうだああだこうだ」


「…………人の話し聞けって……………」


アスは真面目だが叱ってる時などは相手の言葉を全く聞かない、だから面倒くさいのだ。しかもマロがありもしないことをでっち上げてくるからいつも俺がアスに叱られている……………そのせいで俺はマロとアスに苦手意識ができてしまっている。


「アス、それぐらいにしよ?マロも勝手なこと言わないの!」


「ちっ…………」


「まあ、ルドが言うなら…………」


ルドはこういう場面になったらいつもアスとマロを止めてくれる…………これには感謝しかない。


俺は「はあ」と大きくため息してその場を去ろうとする…………まあ、去るといっても便所に行くだけだが。


「レン?どこ行くの?もうすぐ授業始まるよ?」


「便所に行くだけだ…………すぐ戻る」




俺は便所で用を済ませ教室に戻る。


その間も頭の中はナイの言った言葉ばかりが頭に浮かぶ。


「……………世界が間違っている…………か」


なぜこの言葉が頭から離れないのか、それはわからない。だけど俺は考えてしまう……………自分の答えを探すために。



そんなことを考えてながら教室に入ろうとした時、ルドたちが教室で俺の話をしているのがわかった。


「あいつら声でかいんだよ…………廊下まで聞こえてんぞ」


俺はこの入りにくい空気に耐えきれずドアを開けずにルドたちの会話に耳を傾けることにした。


「全く、レンも腑抜けた者だな」


「あいつは自分を優秀だと思ってるから調子乗ってんだよ」


「まあでもレンが優秀なのは間違いないけどね」


「いや!俺の方が優秀だね!」


「……………ロマは実技と筆記、どちらもレンより下ではないか」


「は?そんなのただの点数だけだろ?!あいつと戦えばぜってえ俺が勝つし!」


「う〜ん……………アス、どう思う?」


「レンの圧勝だろうな……………そもそも私たち3人がかりでも勝てるかどうか怪しいのが現実だ」


「!?……………ッチ」


「相変わらずすごいね……………やっぱクト兄とは違うね」



「ッ!?」


クト兄の名前が出て思わず顔を強張らせてしまう。


そしてレンは無意識にルドたちの話にさっきよりも真面目に聞き耳を立ててしまう。


「ああ、まああいつは『失敗作』だからな」


「あの人は魔の者と協力関係にあったと聞きました…………の時だってきっと魔の者に禁呪でも教わったのでしょう。もともとあの人はですからね………あの人を慕っていた昔の自分が馬鹿みたいです」


「はははは!お前あいつのこと慕ってたのかよ?」


「マロは違うのですか?………昔はよく遊んでいたではありませんか」


「当たり前だろ?俺はあの無能と遊んでやっただけで慕ってるわけねえだろ?慕ってるのはせいぜいレンぐらいだろ?」


「それもそうですね……………なんであの人なんかを慕うことができるのか……………理解できませんね」


「2人ともいいすぎだよ〜、このことはレンには言っちゃダメだよ?機嫌悪くするから」


「わかってるよ」


「わかってますよ」


そう言うと3人は笑い出した。


今の話を聞いたレンは……………怒りすぎて顔が赤くなっており髪が逆だっていた。



気づいたら俺は………………教室のドアを殴っていた。


殴ったドアは「ドンっ!!!!」と音を立てて倒れた、教室中の生徒の視線が倒れたドアに行き次にドアの近くにいたレンへと動く。


教室にいた生徒たちの驚いた声や言葉などが俺にかけられるが今の俺の耳には届かなかった。


俺は殺気を放ちながらドアの上を歩いて教室に入りルドたちの目の前に行く。


「な、なんだよ……………い、いきなりどうしたんだよお前」


「い、一体どうしたと言うの?!」


「レン…………と、突然どうしたの?」


ルドたちが肩を震わせながら目の前にきた俺に何事かと聞いてきた。


だから俺は………………


「わからないのか?」


その言葉を言っただけで3人は先程の会話がレンに聞かれていたことを悟った。


そしてルドたちはレンの殺気を浴びてるせいか顔を真っ青にしてものすごい量の汗を出している。


「も、もしかして……………さっきの話…………聞いてたの?」


ビクビクと震えながらルドが口を開いた。


「あ、あれは本心じゃないよ?!信じて!?」


「あ、ああ?!あれはただのジョークだ?!…………はは」


「そ、そうですよ?!だからそんなお、怒らなくても」


「あ"あ"?!」


「ひっっっ?!!」


3人のバレバレの嘘に俺はさらにムカつきとうとう口を開く。


「お前らはなんでそんなにクト兄の悪口が言えるんだ?クト兄が悪い?クト兄が無能?ふざけんな!!悪いのは全部お前らのせいじゃねえか!!昔はあんなに仲が良かったのに自分たちがクト兄より優れている力を持ったことに気づいた瞬間お前たちはクト兄を見捨てたんだ!!クト兄が国民からどんなことを思われているのか、お前たちは知っていただろう?あの時のクト兄の救いは俺たちだけだったんだ!!それなのにお前たちはクト兄を捨ててあまつさえ罵倒や無能呼ばわり、しまいにはクト兄がどれだけ努力してもお前たちはその努力を笑った………………それがお前たちと昔のように戻りたいと思っていたのにだ!それでもお前らはクト兄が悪いと言えるのか?なあ!?」


俺は自分が思っていたこと、感じていたことをルドたちにぶつけた。


3人はまだビクビクと震えていて、俺の言葉を返すことができないでいた。


そしてどうやら3人は答える気がないのか口を開けようともしない……………だから俺はこの空気に耐えきれず「……ッチ」と舌打ちして教室を出た。






今……………わかった………………。






俺はたった今、ナイの出した質問の答えを導き出せた。










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