7 旅立ち
あれから一か月が経った。
エランドは逮捕されて大騒ぎになるし、壊された街も直さなきゃで大忙し。俺の現場での仕事も買い出しがいつもの三倍で残業までしなくちゃいけないほどだった。
フォックスはかなりやられてたけど、見かけだけで損傷はそれほど大きくなかった。それでも部品の交換が必要な部品が山ほどあって、仕事から帰っても大忙し。リタの作る飯も満足に食べられないほどだった。
「さて、と」
俺は部屋を片付け、荷物を整えていた。リタとジト爺とも相談したけど、俺はシュナイダーさんについて行くことになった。
その方がローディアス兄ちゃんに出会える可能性があるし、俺のマインディウムの力も活用できる。シュナイダーさんが言うには、俺達が知らないだけで世界中で建設工事にかかわる事件が起きているらしい。不良工事による被害や、材料の横流し。都市の富裕層しか恩恵を受けられない道路とかもあるらしい。赤の切り羽はそういう不公平な世の中を変えるために活動してるっていうから、俺のマインディウムもきっと役に立つはずだ。
「じゃあ行くか」
俺は空っぽになった自分の部屋を見る。クリーパーに半分壊されていたのをベニヤ板で応急復旧しただけで、まだ傷が痛々しい。できれば直してから出発したかったけど、それは帰ってからやることにした。何となくだけど、ここに帰らなきゃいけない理由を一つくらいは残しておきたかった。
階段を下りてまだ野ざらしになっている客間に行くと、シュナイダーさんが待っていた。それにリタとジト爺も。リタなんかはもう涙目になってる。やめてくれよ、こっちまでつられて泣きそうだ。
「用意はできたか」
そう聞かれ、シュナイダーさんに答える。
「はい。いつでも出発できます」
「うむ。では行こうか。ジトさん、リタさん。ダイロック君をお預かりします」
「はい、ダイロックをよろしくお願いします」
ジト爺が言い、リタと一緒に頭を下げている。何だか奇妙な気分だった。これからリタとジト爺と離れ離れになる。それは分かっているけど、まだ実感がわかなかった。ずっと一緒だったから、いつかこんな日が来るなんて想像もしていなかった。
ローディアス兄ちゃんも同じ気持ちだったんだろうか。そして今、兄ちゃんは何を考えてどこにいるんだろうか。兄ちゃんは……いや、考えるのは良そう。どこにいるにしても、それを俺は探しに行くんだ。そして一緒にここに帰ってくる。それが旅の目的だ。
「行ってくるよ、リタ、爺ちゃん」
「おお、気を付けてな」
「怪我に気を付けてね。あんた、そそっかしいんだから。それとシュナイダーさんに迷惑かけちゃだめよ。お金もちゃんと計画して使うのよ。お菓子ばっかり買わない事。それと――」
「わーかったよ! そんなに何でも言われてたら日が暮れちゃうよ! 俺ももうそこまで子供じゃないんだから、ちゃんとやるよ!」
「だって心配なんだもん……」
リタが歯を食いしばり目を潤ませる。
「大丈夫だよ。とりあえずどんなに長くても半年経ったら帰ってくるから。長い遠足みたいなもんだ。シュナイダーさんも一緒だし、それにフォックスも一緒だ」
それと、龍のマインディウムも。あの赤いマインディウムはなるべく肌身離さず身につけておけって言われてるから、リタに専用のバッグを作ってもらって今も肩から提げている。あれ以来赤い光の力は使えていないけど、きっと何か必要な時になれば目覚めてくれる。そう感じる。
それと……いつも持っていたあのマイスターのバッジは捨てた。もう夢を見るだけなのは終わりだ。俺は本物のマイスターのバッジを手に入れる。だから今度身につけるとしたら、それは本物のバッジだ。兄ちゃんとの思い出だけ胸にしまって、俺は旅立つ。
「では。行くぞ、ダイロック」
シュナイダーさんは自分のギアに乗り込んでいく。
俺もフォックスに乗り込む。この一か月で何とかボディーカバーは直して、ある程度戦闘にも耐えられるように頑丈に補強してある。今度スライムと戦うことになっても安心だ。
「行ってくるよ、二人とも! 必ず兄ちゃんを連れて帰ってくる!」
「気を付けてな―、ダイロック!」
「変なもの拾い食いしちゃだめよー!」
「あーもー! 分かってるって!」
俺は二人に手を振りながら歩き始めた。やがて二人の姿も見えなくなり、俺は操縦席に座った。
目の前には道が続いている。大昔に作られた道路。何百年も昔の職人たちが作った道だ。俺もいつかこんな道を作りたい。みんなが使うインフラを整え、みんなの生活を楽にしたい。リタと、ジト爺と、そしてローディアス兄ちゃんと笑って暮らしたい。
こうしてようやく、俺の道が始まった。この一歩から始めよう。夢を現実にするために。
待っててくれよ、兄ちゃん。必ず迎えに行くから。
待っててくれよ、リタ、ジト爺。すぐに帰ってくるから。
エレメンタルマイナー 建設工事への道 登美川ステファニイ @ulbak
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