1章 冒険者になりたい!6
「それで? ここに来たってことはゼラのことなんか分かったの?」
「いや、分からん。連絡もなし」
「なんだよ……」
そう言ってセカイが不満そうな顔をするとアルフも鏡で見せるように不満な顔で返してきた。
「そっちこそなんだよ。友達が遊びにきたってのに」
「遊びに来たってんならなんか手土産かなんか持って来いよ。というかアンリエット周りの人間がこんなとこ来てもいいのか。息子の指導役なんだろ? 今何してる」
「いやーびっくりすることにリネルは優秀でねえ、アリナ様とたったの2個しか年が変わらないのにもうオレのすることねーの」
アルフは他人事のように、というか他人事としてそんな話をしてカラカラと笑う。
「付き人としてどうあるべきかを理解してる感じがすごいねぇ。それに加えてアリナ様も物分かりが良くてめっちゃ優秀だから、こっちで特に教えることもないわけ」
「へー」
そうなんだ。と言いながらなぜか自分が褒められたかのように誇らしくなるセカイ。
それをオベロンは見逃さなかったのか
「確かにかなり優秀だな。落ち着いてて頭もいい。あれはセカイ似だ」
ふんと鼻を鳴らしてこちらの感情を読み取ったように話した。
そうか、自分に似てるのか。セカイはそう思って誇らしく、無事に元気でやっているんだと安心した反面、会いたいという気持ちも競り上がり、少し複雑になる。
そんな様子をオベロンはまた見逃さなかったのか「あっヤバっ」と言って今度は焦ったように肩から飛び立ちこちらに漏れるレベルの囁き声でアルフに向かって声をかけた
「お、おい! アイラの話を振るな。ゼラが帰ってくる見通しも立ってないのに。これだから人間は!」
「なんすか! 愛娘のことくらい知りたいでしょ!」
「会えないのにそんな話をしても辛いだけだろ! だから言わなかったんだぞボクは!」
どんどんヒートアップする両者を見て肺に溜めた息を少しだけ漏らした。
あぁ気を遣われていたのか……この現状に少し慣れてきて飲み込んでいたけれど、それは周りの気遣いもあったんだろう。
だからオベロンはよくこちらに顔を出して、アイラに魔法を教えたり良くしてくれていた。
アリナが元気だということだけでなく、自分は周りに恵まれているという事実を知って、セカイの目に涙が浮かんだ。
自分はゼラに出会い強くなったつもりだが、まだまだ人間的に脆いんだなと改めて感じた。
「知ることで距離を再認識しちゃうだろこのバカ人間、貴様は無頓着すぎるぞ」
「無頓着って! あのね、オベロン様といえどその言い草はどうなんですかね! 人間的尺度を学んだ方がいいですよ! じゃないと虫と一緒だ!」
「妖精のボクに向かって虫って言うな! もうお前が病気になっても治さないからな!」
「あーあーあー! はいはいそうするんですね! はいはい! 全治の妖精さん! すいませんでしたーっ!」
気付けばアルフは言い負かされ地面に座り込み頭を下げる。
それを見下ろすと目に浮かんだ涙が垂れた。
「……っ! セ、セカイ? どうした? 土下座してるオレを哀れんでるのか?」
ポタリと落ちたセカイの涙の跡を見て焦ったようにアルフはこちらを見上げて見たことない表情をこちらに向けている。
おどけてるというかなんというか、その顔が少し面白かった。
「ははっ、いや、そうじゃない」
「面白いんじゃないか?」
「えっオレ笑われてる?」
「そういうことでもないよ。いや、気を遣ってくれてたんだなって。ありがと」
指で涙を拭いながら目の前にいるオベロンとアルフにそう告げる。
すると2人は「そんなでもない」と言わんばかりに露骨に照れて見せた。
「ただ、アリナについては教えてくれると嬉しい。ゼラが帰ってきたらまた一緒になれるんだからさ」
「そうか、分かった。なにかあったら教えるよ」
オベロンは優しい顔をこちらに向け、妖精らしい温かい声色でそう言った。
「そうそう! アリナ様は魔法も得意なんだぞ。セカイに似て」
「へー……ん、待てよ? なんで魔法を勉強する必要がある。冒険者になるわけでもないだろ」
「あれ? 知らないの? アンリエット家は王国の憲兵の管轄する貴族だろ? 強くなきゃいけないから冒険者養成校に通うんだよ」
官憲貴族と呼ばれるアンリエット家の役割はその名の通り官憲の管轄。
だからと言って本人が強くなる必要は……とかなんとかセカイは思ったけれど、確かにゼラだけじゃなくカリアお義母様も強そうだった。
「普通に危なくないか……?」
「貴族だって危ない橋を渡れなきゃこの国を守れないだろ。アルファラがいかに大きくても中が脆く腐ったら終わりだ。だから魔法や戦い方を勉強するんだよ」
「へー」
セカイは顎に手を当て考える。
オベロンはそう言った事情も加味してアイラに魔法を教えたんだろうか。
でも、もしアリナが冒険者学校に通うならアイラも通わせれば……
いやそんなのあの家が認めるはずがない。そもそも接触は禁止なんだし、ゼラが帰ってくるかもしれないからアイラにもわざわざそんな危険な橋を渡らせる必要はない。
「何考えてんだ?」
「親として考えるところがあるんだろ? 知らないけど」
「んーまぁなんというかこんなとこで教師やってないで優生地区はともかく中間地区に来ればいいのに」
アルフはふと目についたのか剥がれた壁の塗装をペリッとめくってそう言った。
「えっ?」
「セカイは良い教師だと思うから中央に住めばいいのにって思ったんだよ。この非課税地域の貧困地域より、片親には結構キツイかもだけど税金払って中央に住めばアイラ様も良い教育を受けられるだろ。アリナ様に会う可能性もあるしな」
それは考えた。けど子供にとって大切な幼少期に税金だなんだと忙しくて1人にするくらいなら。と昔住んでいて慣れているここに決めた。
「会ったら離婚だぞ。片親や孤児は中央ではいじめられるんだよ。それにそんなせっせこ働いてアイラとの時間を擦り減らすならこの非課税地域、通称貧困地域でも十分楽しく生活できるからこれで良い。アイラも友達いっぱいできたし」
魔獣が出るリスクと引き換えに非課税。ボロだけど住みやすいしいじめられることもない。
魔獣の侵入もこの地域に住む物好きの冒険者や教室をやっている元冒険者がなんとかしてくれるから安心。
オススメな物件も多数存在しますよ奥さん。
昔の魔獣災害で崩壊した家とか、空き家ならただで住み着いても問題なし
「ふーん、まぁアイラ様とセカイで決めたならいいか。オレそろそろ行くわ」
そんな風にセカイの教育プランを「ふーん」の一言で済ませ、壁にかかった壊れかけの歪んだ時計を軽く見たアルフは手を振ってどこかへ行ってしまう。
なんて自由な男なんだ。
「なぁセカイ、あいつ話したいことだけ話してないか?」
「まぁそういうやつだからな。小さい頃から知ってるだろ?」
「ゼラの付き人だしまぁ。仕事は出来るけどそれ以外が軽薄な人間だなって印象が一生変わらないんだが」
酷いようであるけどピッタリな表現でもある。
あぁ見えてゼラの付き人はしっかりこなしていて仕事が出来ると言えるけれど、話し方や息子の指導をサボってここに来たり軽薄でもある。
「それにしても冒険者ねぇ……」
自分に似たアリナが冒険者。あまり想像出来ないが危険で不安になる。
アリナが優秀と聞くと、もしかしたらアイラも自分を負かしてしまう。
つまりはセカイの用意した試練を突破してしまう日が遠くないのではないかと思った。
そしてその日はセカイが思ってるよりもずっと早くやってきた。
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