1章 冒険者になりたい!7
あのセインちゃんの一言を噛み締めながら色々と考えた。
パパと戦う時も色々と考えた。
それでも多分冒険者としての経験というか、なんというか、考えることに関してはパパのが上手だった。
最初はそれが分からなくて「ズルい」とか「卑怯」とか言いたくなったけど、パパに挑戦すればするほどそんなことが言えなくなる。
同世代どころか大人相手でもかけっこや鬼ごっこで負けたことがないくらい運動が得意だってアイラの自信をパパはペキペキにへし折った。
少しずつ、パパも必死になってるのは感じる。結いた長い黒髪が挑戦するたびに尻尾のように動いていたが、その動きがだんだん大きくなっていくのが成長の実感だった。
そして、冒険者になるための試験を始めて1年半、6歳の秋にアイラは閃いた。
「アイラ、もう諦めた方がいいと思うんだけど」
「しつこいところは本当にそっくりだな」
流石に1年半もやってるとなるとオベロンも若干呆れた様子だった。
でも認めてくれないパパが悪い。今回で認めさせるんだと、アイラはそうやって意気込んだ。
「やる! 冒険者になりたいんだもん!」
「分かった。やろうか」
するとオベロンは片手を大きく上に上げて、何かを切るように下に下ろした。
「よーい、はい!」
「氷のマナよ、巡り巡りて穿ち抜け」
その呪文でまた氷塊を空中に生成する。あとはエコーギフトとして指を鳴らすことを合図に一気にパパの元へこの氷は飛んでいく。
パパは視線をこちらから逸らさずに足で何かを書いてる。多分魔法式、あの見えない壁みたいなやつだ。
考えて、適応して、対応する。
オベロンやセインちゃんから言われた冒険者がするべきことを何度も反復して次の手も考える。
「ふっ!」
一息で踏ん張り、思いっきり地面を蹴る。
正面の相手に向かい最高速度で距離を詰め手を伸ばすと、パパの足元が光って壁のようなものの感触にぶつかる。
「まだまだぁ!」
ただそれを感じた瞬間に勢いを上につけ、回転しながらパパの頭上を飛び越える。
〈パチンっ!〉
指を鳴らす。すると空中で固定された氷がパパに向かって一気に飛び出す。
それをきっかけに飛び越えた先でまた一気に地面を力一杯踏み抜き、パパの背後を攻める。
「挟み撃ちはもう試したろ」
横に身体をズラすことでパパはその挟み撃ちを回避すると、その場でしゃがみ込んで指で地面にまた魔法式を書き出す。
アイラがそれを見て、何かを書いていると思った時にはもう書き終わってる。
速すぎるし何を書いたか分からないけど、それでも構わない。
「知ってる!」
〈パチンッ!〉
もう一度鳴らす。
それによって2段階目、空中に残ったままの氷が今のパパの位置へ飛ぶ。
詠唱魔法はとっさにこういう自由が効くのが便利。
「大地を覆いし土のマナ、壁となり立ちたまえ」
今度はパパが詠唱した。すると少しして地面が盛り上がり壁を作る。
飛んでくる氷をギリギリで防ぐ。
パパは法式魔法の達人だけど詠唱もできる。ハイブリッドな魔法士だってオベロンが言っていた。
詠唱を引き出すのには半年かかったし最初は「そんなのあり!?」って驚いたけど、これで怯んじゃダメだ。
「氷のマナよ、巡り巡りて空に浮く」
今度はパパの周りに氷の塊を浮かばせた。
そしてまた最高速度でパパの元へ突撃する
。
戦いながら色んなパターンを見て、1つ分かったことがある。
それはパパの得意な魔法があくまで法式魔法ってこと。発動の早い法式魔法だけど、それは万能じゃない。
少なくとも魔法式を途中で消してから書き換えたりとか色んな手段で対応してくるパパだけど、それでも書いたものと全く違う魔法に書き換えるのは流石に詠唱と同じくらい時間がかかる。
いやそれで詠唱と同じ速度なのはおかしいんだけど、それでも隙が出来るんだ。
「っ!」
パパはこちらの突撃を見た瞬間にまた足元の別のスペースに魔法式を書き発動する。
当然の如く間に合ってる。見えない壁だ。
分かっている。この場面だったら見えない壁を使うはず。
もう少し踏み込めば触れる距離、足元に魔法式を書いてる隙はない。下を見た瞬間に触る。
けどそんな隙を見せるような相手じゃない。
アイラは壁を作ったのを確認した瞬間、姿勢をぐるんと変えて空中浮かべた氷の塊に向かって地面を蹴り、飛んだ。
「な……っ!?」
そして身体を捻って氷の塊に足の裏をつけ、次の氷の塊へ飛ぶ。
飛ぶ直前にパパと目が合う。こちらを見逃さないその視線を掻い潜るために飛ぶ。
次へ、次へ、次へ
飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ
「氷のマナよ、巡り巡りて空に浮く」
蹴り出した氷が割れるから飛び回りながらさらに氷を浮かべ、またそれを足場にして加速する。
氷が作られ、割れるたびに辺りが寒くなる。身体が少し固くなるのをグッと抑えるように動き回る
この運動量は流石にパパでも未体験な領域なはず……っ!
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