第12話 一度も

 この子を眠らせてあげてほしい。頼りない私でごめんね。恋の夢ばかり見て。一度裏切られた愛はそのままになっている。どうか、誰か、と嘆いても喚いても、せいぜい困ったような笑顔が得られるばかり、助けはないのだから、耐えられないものにただ耐えてゆく勇気を下さい。誰か、どうか、この子を眠らせてあげてください。どんな食事も友情も眠りには届かない。不潔に黴びた部屋の角に打ち捨てられたこの子に、眠りを与えてあげてください。ただれた体液が固まり、生きているのか死んでいるのかもわからないあの子に、楽しみはいらないのです。あたたかい手すら、一体この子のどこに触れてあげればいいというのですか、あたたかささえ受け取れないこの子に、どうかお願いです。

 断って、眠り続けよう。許して、ごめんなさいねって、私、私の子と、一緒に眠ってあげたいから、私にとっては、今、これがいちばん大切なことなんですって。寂しいけれど、本当に感謝しているの、喉から手が出るほど、あなたが与えてくださった優しさを求めていて、それを断るのは、悲しくて、たまらなくて、泣いてしまうけれど、ごめんなさい、こんな素敵な縁を断ち切るようで、さようなら、悲しいけれど、こんなに感謝しているけれど、これで最後のお別れですか、それでも、私は今、この子と一緒に、穏やかに眠ってあげたいから、この子は一度も安らいで眠ったことがないんです、誰かに抱かれても暴れだしたくなるばかりで、この子と一緒に眠ってあげたいのです、それが何よりも大切なことだから。

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眠り 高菜 @ahiyobld

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