第6話? 恭平くんの帰宅

 早く帰らなくちゃ。ようやくの帰宅の時刻、疲れ切った身体を引きずり、急いで帰ろうとしていると悟られぬよう、あえてゆっくりと、誰とも目を合わさず、仲の良いはずの誰彼にも声をかけず、支度をして、気配を消すように、誰からも声をかけられませんように、と祈りつつ、廊下をくぐり抜け玄関へ向かう。騒がしい人の群れの気まずさに息をひそめる。

 恭平くん。

 声を、掛けられた。

 おお、元気? 久しぶり。学校、来れるようになったんだね、良かったね、本当に。

 なぜこの人は笑顔でこちらを見ているのか。口の中でもごもごと答えを濁し、彼女の苦笑を得て、慌てて玄関を飛び出す。

 外はまだ明るい。なりふり構わず逃げ出したくせに、今日は、何もない。なぜ、自分のことを覚えていたのだろう? 忘れて暮らしていたでしょう? 彼女が以前見舞いに来てくれたことを彼は思い出した。その際も彼女の前に現れなかったこと、そして今も、そんな過去を気にする素振りも見せず善意を向ける彼女を前にして、慌てふためいた自らの不誠実に、恭平はいたたまれなくなった。

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