第17話 現地調査:ハードモード(2)
尾根道と言っても、カナル村周辺の山地はそれほどの高さは無い。草木の姿は見えないが、それも根を張るだけの土の厚みが無いのであって、高度による森林限界に達しているわけでもない。また、岩場の陰には苔が生え、ネズミや陸生の山鳥なども潜んでいるので、けして不毛の地でもなかった。
が、道行きが過酷なことに変わりは無かった。
遮る物の無い尾根道には風が直接吹き付ける。それに岩山をかけ登ってくる風の流れもあり、常に身構えて風に抗う必要がある。
そして意識が上へ向きすぎると、不安定な岩屑を踏んでしまい、足元が覚束なくなる。準備した杖も危なくて使えない。
今も靴底に感じる石がぐらりと揺れて、
「わわっ?!」
体勢が崩れ、手が宙を泳いだ。このまま転んで足元が崩れ、勢いが付きでもしたら、岩場を滑落する。そうなれば遺体も残らない。山肌を擦れて滑りながら何度も岩にぶつかり、最期は肉団子のタネが関の山だ。
『そういうの、ごめんこうむりたいッ!!』
カッと目を開いて、足を踏ん張る。
さぞかし必死な顔になってる事だろう。が、それを嘲笑うように尾根を風が吹き抜けた。よりにもよって外套が風を受けて引っ張られる。
抗いようのない大きな力に引っ張られる。それは風とは逆方向だった。岩とは違う硬い壁に体がぶつかり、
「よく頑張った」
すぐ傍でシェイマスの声がした。彼がとっさに腕をひき、引き寄せたのだった。
「あっ、ありがとう、ございます……」
アーヤの声が上ずるのは、瞬時垣間見た死の淵に、感情が飽和していたからだ。
シェイマスは有無を言わさず彼女を抱えたまま、風に抗って尾根道を強引に進んだ。しばらく歩くと道幅も広がり、背の高い岩も見えてきた。堪らず、その岩陰に逃げ込む。
「ふはっ?!」
忘れていた息をアーヤは思い出し、その場にへたり込んだ。あわやのところを脱して、心臓が早鐘をうっている。よく考えたら男性としばらく密着状態だった訳だが、この高鳴りはそれどころでない。
絵草子では尖塔の上で怪盗に抱えられたお嬢様とか、空を飛ぶドラゴンに掴まれたお姫様とか、そういうシーンがあって、勇者だの騎士だのが助けに来る訳だが、自分だったらきっと身も世もない悲鳴を上げているだろう。
シェイマスも眉間に皺を寄せて尾根道を振り返っていた。
「ひどい風だなぁ。チラッと見えたが、杭が抜けた孔が見えたぞ。ありゃあ、かつては鎖があった跡じゃないかな」
安全確保用の手すりのようなものだ。それが全て失われていると言うのは、念入りな拒絶の意志があったようにも思える。
とか、密偵らしく工作染みた視点で考えていたので、アーヤが押し黙っているのに気付くのが遅くなった。
「どうした、アーヤ君?ああ、荷物扱いだったのは淑女への対応では無かった――!?」
彼女の体が”おこり”のように震えているのが、今更になって目に飛び込んで、シェイマスはギョッとなった。
「どこか怪我したかっ!?」
「あー……あははは……」
彼女はようやく顔をあげ、微笑んだ。力のない笑みだった。
「いやぁ、ここのところ毎日が波乱万丈だったせいか、すっかり失念してました。所詮、矮小な人間。自然の猛威の前では、ひと吹きですよ。こう、ぴゅー、と」
「お、おぅ、謙虚なのは良いが、何か気色悪いような……」
「過っちゃったんですよねぇ、脳裏に。罠にかかったリスを細かぁく刻んで、なますにしたの。小さい頃はけっこう好きだったんですよ。で、崖下まで落ちたら、ああだろうなー、って」
「小休止!小休止ーッ!よし、水を飲んで一息つこう。携帯食を齧るのも良い気分転換になるぞ。甘い物とかどうだ?ほら、この干し芋、有名店の取り寄せ品だぞっ」
シェイマスは露骨に狼狽えている。明確な死のイメージはアーヤの心身を消耗させていた。が、それをどう回復させたものか、見当が付かないどころか、『まずい、泣かれる』と感付いた瞬間には甘い物を持ち出しているあたり、子供か動物の扱いである。
アーヤもいつもなら憤慨するところであるが、今はドラゴンの羽ばたきと炎の吐息で何もかにも吹き飛ばされ、一人だけ生き残った後であるかのように虚脱していた。
幸い、干し芋も実家でよく食べていた。小札状に薄切りにした黄金色の芋を受け取ると、惰性でウサギのようにもそもそと齧り始める。
芋は北方でよく栽培されている白くて丸い岩芋でなく、南方原産の赤紫色した棍棒芋だった。どちらも荒地だろうと育ち、よく身をつけるが、岩芋の方が寒さに強いので僻地や山間部ではお馴染みとなる。アーヤもそうなので、棍棒芋の干し芋の方が物珍しい。
一度茹でて芋の身を柔らかくしてから干した為か、乾燥させた後もねっとりとした歯応えで、嚙み砕いた繊維の間から味わいが染み出てくる。干した果実とは毛色が違うが、これも立派な甘味だった。
これと比べると、実家の岩芋の干したやつときたら。口だけ動かし、山里の冬の風物詩を眉間に皺寄せて思い起こす。
冬の夜風に岩芋を晒しておくと朝には凍り付いているのだが、これを踏んで、砕いて、中の水分を絞り出すのだ。そしてまた夜風に晒して、翌朝に踏む。子供たちも総出で踏む。これを繰り返すと岩芋は文字通り、岩や石のようにカチカチに乾き、長期保存に耐えて冬の飢えを満たしてくれる保存食になる。
一見すると食用に供されるとは思えないが、狩猟した獣肉などと煮込むと、ふやけて脂を吸って腹にたまる。なお味は、あまりしない。
『うん、やっぱり棍棒芋を干した方が、手間暇も掛からないのにおいしい』
アーヤは回想の中の岩芋を、遥か記憶の山の中に全力で投げ捨てた。それから最後の干し芋の欠片を噛み砕き、皮製の水筒で口を潤す。
一息つくとまさに生きた心地が帰って来た。正直なところ、甘味で乙女心が回復したと言うよりは、歯応えのある物を食べて生存本能が蘇ったようなものだった。
「……お見苦しいところを……あと、干し芋、たいへん美味しゅうございました」
アーヤは風で乱れた髪を手櫛で直しつつ、取り急いで礼を口にした。膝をあわせて尻をついたままの女の子ポーズだったので、何ともチグハグだった。
『調子狂うなぁ』と戸惑うシェイマスは干し芋を奥歯でガジガジと嚙みながら、
「口に合えば何よりだよ。あと、いきなりの命の危機には、人間、なかなか体が動かないものさ。俺も”鉄と火の洞”で学生やって頃に、目の前で坑道が崩落した事があったんだが、突然のことに体が動かなかったな。突っ立っていたら、顔の横を割れて撥ねた岩が掠めていってね……いやぁ、あれが当たっていたら、俺はここにいないだろうね」
気を利かせた失敗談のつもりだろうが、そのトンデモ具合にアーヤの脳裏には肉団子のタネとか、小動物のなますとかの赤色が蘇ってくる。追従に笑みを浮かべつつ、細めた目だけは笑えていない。
ズレた発言は立派なオッサン扱いである事に気づかないシェイマスは、両膝を叩いて立ち上がった。
「さ、もう少し頑張ってくれ。予定ではそろそろ着くはずなんだ」
気力を取り戻したアーヤは小さく頷き返す。
主に生命の危機的な意味で胸が高鳴るイベントを超えて、二人は再び岩場の尾根道を歩き出した。
身を隠せる岩場も増え、先程までの吹き晒しは終わったようだ。シェイマスはアーヤの歩みに気を配り、手を引いたり、後ろに庇って風の覆いになったりと忙しい。
では紳士的に手を取って身を引き寄せ、なんて色気のある話かというと、そんな事はなく、
「ちょっ、ちょっと手を離さないで貰えます?!風がぁ~」
「よーし、俺の胴にしがみ付いていろ」
「あ、足場っ、脆ッ!?」
「うおッ!?いきなり引っ張らんでくれっ!?」
と、まぁ、阿鼻叫喚なのは平常運転である。
引き続き危なっかしく、胸温まるというよりは、心臓がフル稼働でハートウォーミングするやり取りが続く。尾根道は次第に下り坂に変わり、片面が山肌の山道になってきた。
尾根よりは風がマシになり、アーヤもホッとひと息を吐く。
「はぁ~……修行場だか秘密工房だか知りませんけど、本当にこんな道を通っていたんでしょうか?」
「他に道もないしなぁ……」
山道は細く、最低限の安全を確保する鎖の姿はない。崖側は鋭く切り立っており、シェイマスも近付いて直下を見ようという気は起きなかった。たいした標高ではないのだが、それでも崖下までは城塞ほどの高さがある。
全体的に不毛の岩山なのは変わっておらず、彼の言う秘密の鍛冶場といった風情の人工物は、とんと見えない。何しろ視界を遮る木もない。見渡せる範囲はかなりの広さだった。
遥か遠方まで青空は澄み渡り、視線を下げれば平原と街道が見えた。青と緑、空と陸との境がハッキリと引かれている。
絶景ではある。が、ここまで無駄足の末に見る風情でもない。
『やってしまったのだろうか』
シェイマスはとろ火で焙られるような焦りを感じつつ、今一度、岩山に目を走らせる。
と、隣りでアーヤが山道の崖側の、さらにその先を指さした。
「あ、そこ、カナル村が見えますね」
崖がつくる谷の先に、光り輝く湖面がわずかに見える。カナル村に隣接する、あの静かな湖だろう。
「へぇ、意外に近いもんだ……っ!」
シェイマスはハッとなり、荷物から羊皮紙の地図を出して確かめると、首を横に振った。
「おかしい、こんな大きな谷、地図にないぞ」
「鉱石屋さんの書いた地図ですから、書き忘れという可能性は?」
先ずはヒューマンエラーから、と身も蓋もないアーヤだったが、シェイマスにとって谷や川は山歩きに欠かせないランドマークだった。見落とす事はない筈だ。
そこで思い出すのが、
「以前、山崩れがあったと言うが……まさか……」
「まさかぁ~」
アーヤとシェイマスは二人して嫌そうな顔になりながら、首を伸ばして崖の直下を覗き込んだ。
風が吹きあがる谷底は、巨大な岩塊で埋まっていた。確かに崩落があったようだ。
アーヤは尻がムズムズする高所に我慢し、眉間に皺を寄せ、谷を埋める岩々に目を凝らす。割れた岩は意外と真っすぐに亀裂が走っていた。それが一瞬、加工された石材のように錯誤させる。
『ううん、先入観は禁物……と研修で教えられたっけ』
考え直し、薄目で全体を見渡すように違和感を探す。
すると谷を埋める岩屑の中に、断面が円形の塊が複数箇所で見つかった。表面は崩落時に岩同士でぶつかり、削られて見る影もないが、もしかしたら、
「鉱石屋さん、そことあの辺の、断面が丸いんですけど、つながりそうじゃないですか?」
「おぉ、でかした。砕けた石柱かも知れんな。表面に溝が残っている物もある……神殿の柱と同じ意匠だ」
「これ、やっぱり、目的地の光明神の修行場って、今は谷底って事です?」
ひきつった顔で谷底を指さすアーヤに、シェイマスはうぅむと唸った。
「出来れば谷底に降りて確かめたいが、高すぎるなぁ」
とんでもない事を言い出したもので、聞いていたアーヤは目をむいた。
「高すぎですよ!?」
「だよねぇ……下から接近するならカナル村側から崖を登って、崖下に侵入する事になるか。登攀用の器具は持って来てないなぁ」
「あったらやるんですかっ?!」
言下に『付き合わされるのはちょっと』という本音が含まれていたが、シェイマスはよもやアーヤがついてくる気とは思っても見ていない。背嚢の中の道具を確かめながら、
「やはり今の手持ちじゃ無理だな。山家のドワーフのおっさん達みたいに、靴に鉤爪付けて、両手のツルハシで垂直の壁を登るみたいな真似は出来ないし……」
「身軽すぎぃ!?わたしの知ってる
「そうかい?
「知りたくはなった異種族の秘密っ?!」
「それは実に興味深い見解だね」
そう脇から声を掛けられて、二人は完全に虚を突かれた。シェイマスは細い山道を器用に跳ね飛んで、アーヤを背後にかばい、声の主の姿を探した。
はたして、今し方まで彼らが谷底を覗き込んでいた隣に、長衣の男性が湧き出た様に立っていた。長衣は前が開いたつくりで、深い紅で染められている。派手な老人という訳ではなく、高い学位を持つ学者に許されるガウンだ。
右手に携えた長い杖は先へゆくほど節くれだち、捻じれて渦を巻いている。その中央には掌に余る大きさの水晶玉--魔力石がはめ込まれていた。
魔術師の杖。魔術に必須の補助具であり、特に大きな魔力石は貴重で、術者の疲労を肩代わりし、更に強力な魔術の行使を可能にする。そして伊達だけでは強力な杖は所持出来ない。つまり、この男は実力も権威も装備も備えた魔術師という事だ。
それだけに鷲鼻と高い額、それに撫でつけた密度の薄い金髪には、どこか酷薄な印象を受ける。今も穏やかな表情をしているのに、何か違和感が拭えない。
それもその筈で、アーヤはこの初老に足を踏み入れた男の名を知っている。イライジャ・クレイグス。翠玉の塔からカナル村へ遣わされた調査団を率いる学閥の首魁だ。そしてシェイマスの見立てなら、王都の魔法大学に在籍していた頃からミスリル精錬に携わっていた可能性があり、ドワーフ達には”協約”違反のミスリル密造に関与している疑いを持たれていた。
言わば、今回の暫定黒幕である。
アーヤが彼を知っていたのは、翠玉の塔へ調査団の取材に行ったからであり、直接の面識まではない。だが嗅ぎ回っている後ろ暗さもあって、素早く外套のフードを目深に被って顔を隠した
それで、そんな大物がどうしてこんな山中に現れたのか。それも単独だった。山道に他の調査団の魔術師の姿は無い。
シェイマスも下調べの過程で彼の顔を知っていた。が、それを正直に打ち明けて、協力を仰げる話でもないだろう。なにしろ大っぴらに出来るのなら、密造などと呼ばれない。
しかも誤算だったのが、
『こいつぁ……なんて圧だ……』
シェイマスは蛇に睨まれた蛙のように、体を強張らせている。
老境に近付き、肉体には衰えが始まっている筈だ。魔術は肉体とは関係ないだろう、という異見もあるが、肉体が創建である事に悪い要素も無いだろう。現に若いシェイマスは彼に気圧されるものを感じていた。
まるでイライジャから流れてくる気配が手足に絡まり、肺腑に入り込んで息まで阻害するようだ。
『こりゃ、ただの研究職じゃないぞ……むしろバリバリの戦闘職じゃないか。そうか、戦中派の、率先して戦闘に加わっていた魔術師かッ!?』
シェイマスに戦慄がはしる。戦中派の従軍経験者とは敵対しない。この時代の若者にとっての不文律だった。
過酷な戦況を潜り抜けた老境の猛者は、若年層と比べると別格の凄みがあった。積み重なる悲惨な記憶が、皺となって因果を顔に刻んでいる。
「やぁ。何か、お探しかね?」
押し黙る二人にイライジャは問いかける。埒が明かないと感じたからか、それでシェイマスは弾かれたように、とっさの口から出任せを思い出した。
「あぁ、いや、こんな所で人と遭うとは思っても見なかったもので……」
「そうだね。見ての通りの魔術師なので、キミらよりも身軽なのだよ」
そう言うとイライジャは魔法の杖を少し上げ、左右に振るった。魔術を行使して現れた、という意味だろう。しかし魔術とはそこまで便利ではない事を、二人は知っている。
「これはこれは、魔術師様で……」
シェイマスは内心の警戒を従僕のような態度で装う。
「自分はピットブルグの鍛冶師ギルドに席を頂いております山師にございます。こっちのはウチの若い物で」
目礼した彼はアーヤのフードを抑えて、同じように頭を下げさせた。
ちょっとムッとするアーヤだったが、意外に込められた力が強い事に気付いた。ここは黙っていた方が良さそう、と察する。
「ああ、なるほど」
イライジャは畑違いの小物が紛れ込んだと理解し、鷹揚に頷いて見せた。
「残念だが、この辺りに鉱物や貴石はないよ。昔から翠玉の塔の管轄だからね、地質調査も終了している。鍛冶師ギルドが正式に要請するなら、調査結果も閲覧できるだろう」
「左様で御座いましたか」
「この辺りは風も強い。どれ、折角だ。キミらにも魔術の深奥を披露しようか」
二人が内心で『は?』と思ったときには、もう老練の魔術師は集中に入っている。
引き結んだ口の端が僅かに開き、大気にあまねく不可視のマナに働きかける為の言葉が絞り出された。
「掌握、そは我が意に従う。浮揚、そは重きに従わず」
短いが、十分な集中を織り込んだ言葉だった。それは詠唱というレベルのものでなく、極度の集中に方向性を与える最終確認の意味でしかない。つまり、彼の口から言葉が紡がれている時点で、魔術は殆ど成立していた。
成す術なく二人の身体は宙に浮いていた。あっ、と驚きの声をあげる暇も与えられない。
「ゆえに、そは空を駆けよ。疾く、疾く、疾く」
空間自体がたわんだ様な、何とも不可思議な音がして、それから二人の周囲の風景が一気に前方へと流れてゆく。音もなくイライジャの姿は点になり、すぐに山肌との区別がつかない程に距離が開いた。
自分たちが飛んでいると気付いた時には、とうに山は遠くなり、ふもとの宿場町が足下に見えた。
アーヤは口に手で蓋をして、かろうじて悲鳴を押し殺している。ふと、どんどんと近付いてくる地面に『あれ?このままの速さで堕ちたら、べちゃっ--』
最悪の予測に体が震えた瞬間、シェイマスが彼女を後ろから掻き抱いた。落着までの僅かな猶予の間、アーヤは困ったような目を向ける。
「あ、あのっ?!」
「俺の背嚢の頑丈さを祈っててくれよッ……首、引っ込めていろ!」
シェイマスも同様の危惧を抱いたのだ。それで彼女の楯に成ろうとしている。というより、最も可能性のある方法で強硬着地に備えている。
言われたとおりにアーヤは首を引っ込めた。
落着の衝撃は中々やって来ず、その代わり、あの不思議な音が再び聞こえた。
それから二人は何の慣性の影響もなく、宿場町の外れにおろされた。到着までがイライジャの言う魔術の深奥だったのだろう。
アーヤは気恥ずかしさと強がりで直ぐに立ち上がった。が、シェイマスは地面に跪いたままだった。
「あ~、鉱石屋さん?」
「……駄目だ」
彼は焦点の合っていない目で呟いた。
「圧倒的すぎる。奴のサジ加減一つで殺されていた。このままでは交渉が成り立たない……この任務は失敗だ……」
それは、ここまで何のかんのとアーヤを騙くらかし、調子の良いことを言っては巻き込んできた胡散臭い男が、外聞もなく初めて漏らした弱音だった。
それを聞かされたアーヤとしては『えぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!』と反応に窮するしか無かったのであるが。
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